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96弾 不法侵入者に対応しよう

「今回は、そのガラスペンで書いてみるのね。そして威力を試してみる。」


「ええ、書き味は試してみたので、これを魔弾製作のために使ってみようかと思います。」


 3本とも全部そうしてもいいが、主に使うガラスペンは決めておこうと思っている。俺はラワの蔓を巻いたペンを握る。この丈夫そうなペンを魔弾製作用にしてみよう。


「後の二本は予備にするのね。」


 メムは、俺がガラスペンを握り、叩後紙たたきあとに文字を書き込んでみるのを見ながら、そう尋ねてくる。


「まあ、大切に使いたいですね。予備の二本のうち、一本を置いてもう一本は持ち歩きます。」


 叩後紙たたきあとに書き込みながら俺はそう答える。羽ペンの時よりサラサラに書き込める。紙に引っかかることがない。


「どれを部屋に置いていくの?。」


「エウホの木で作った物を置いていきます。これは、部屋にいる時に使おうかと。」


「ふーん、ラワ巻きは、常時使用する感じ、クボクチは予備持ち、エウホは部屋で、ということね。」


「どれもいい物ですけどね。よし、書き込みできた。」


 そう言って俺は、ペン先のインクを落とすため、水をためた小瓶にペン先をつけ、インクを洗い落とす。その後、ボロ布で先を拭き取る。


「そういえば、図書館や書庫では布で拭くだけだったわね。」


「出先にペン先洗いの小瓶を持ち込んでも、こぼして蔵書をぬらすと後が大変ですし。」


「ああ、なるほど。」


 あとは叩後紙たたきあとに書き込んだインクの乾き具合をみる。


「ペンで書くと言っても、羽ペンとそのガラスペンじゃ違いは大きいのかしら。」


「書き味は全く違いますね。羽ペンはたまに紙に引っかかることがありますし、羽ペンで書いた魔弾は威力に多少のバラツキが出る時もありますから。」


「それで以前もペンについて考えていたのね。」


 メムが使っていないガラスペン二本を見ながら、納得感を込めて言う。


 メムには言わなかったが、羽ペンで書くと威力のバラツキだけでなく、俺の魔力、体力の消費量もばらついている感覚はある。しかし、個人の感覚的なもの過ぎて、本当にそうともいえないとも思っている。


「あとは、いつ頃、これで書いた魔弾を試すかだけど。」


 日程と場所について考える必要もあるな。まあ、後で考えるか。


「メム様、昼食は朝と同様に買い込んだパオニスになりますが、よろしいですか。」


 しばらくの食事メニューについて、メムにお伺いを立てる。


「しょうがないわよ。しばらくはそうするしか無いわね。夕食は持ち帰りにする?。」


「やってる店があまり無いから、メニューがしばらくワンパターンですよ。」


「最悪4日間でしょう。それくらいは大丈夫かな。」


「量についても厳しくなりますが、大丈夫ですか。」


「………まあ、しょうがないわよ。」


 メムは食事量が減る話に、苦渋の決断をするかの如く回答した。



 それからしばらく2日間は魔弾の試作品を製作して、試射についての日程と場所を検討し、魔術研究と転移の仮説について検討をしていたが、メムはさすがに、留守疲れというか退屈になってきたようだ。3姉妹が仕入れに出てから3日目の昼食前になり、


「今日帰ってくるかも知れないのよね。その前に、ちょっとこの家の中と周辺だけでもウロウロしていいかしら。」


「3姉妹の部屋には入っちゃダメですからね。後、見るだけですよ。壊したりしたらメム様に色々負担がかかる可能性も大ですから。」


 俺もじっとしているのがキツくなってきたのもあって、注意して許可する。


 昼食後、メムは


「お家の探検〜、お家の探検〜。」


 と少し浮かれ気味に言いながら部屋を出ていく。


「あまり迷惑かけると、メム様はヘルバティアに日夜可愛がられることになりますよ。そういう要求されそうだと思いませんか。」


 と言うと、メムはビクリとして、錆びて動きの悪いドアがギギギと開くように俺の方を振り返り、


「そ、そうよね。見るだけにするわ、見るだけに。」


 そう言ってトボトボとした足取りで家の中を見に行った。



 メムが家の中を見てまわっている間に、俺は腕立て伏せと腹筋、いわゆるシットアップとスクワットを各50回ずつして、浴室で汗でも流すかと思っているところに、メムが帰ってくる。


「どうでしたか、お家の見学は。何も壊していないですよね。」


 と、俺がメムに確認すると、


「この家って地下室があるのかしら。隠し扉もあったわ。」


 と言ってきた。


「あまり、よそ様の家を調べるのは……。ましてや、下宿している立場ですから。」


 俺はメムをたしなめる。


「というか、まさか入ったのですか、隠し扉を見つけて………、だとするとヤバいですよ。」


 と続けて俺がメムをとがめると、


「いや、入っていないわよ。私の力かしら、ある程度の空間認識よ。隠し扉っぽいところに立ってみたら風の流れがあって、風の流れを探ってみたら地下室があるっぽい感じだったのよ。」


 とメムが返す。


「本当ですか?。こういう家は部屋の前に、侵入者を探知する仕掛けとかあるかも知れませんから。こっそりドアに細い糸とか用意して、その糸が切れたことで、侵入したことを認識できるなんてこともありますからね。」


「一切扉には触っていないわよ。家の構造はある程度わかったから、部屋には入る必要ないわ。もうちょっと女神を信用して。」


 まあ、とりあえず女神を信用してみるか………。


「ところで、ダン。あなたは、あ、自荷重トレーニングしていたのね。」


「ええ、そうですよ。これから灌水浴室で汗を落として、夕食を買いに行こうかと思ってましてね。持ち帰り弁当でよろしいですよね。」


「ええ、じゃあ、ダンが汗を落としたら買いに行きましょう。」


 ということで、夕食は持ち帰りの物を買って帰る。しかしこの異世界で、こんな形でテイクアウトみたいな食事をとっているのは不思議な気分だ。



「この異世界の持ち帰りの夕食って、パオニスに挟むパターンしかないのかしら。」


 と夕食をとりながらメムがぼやく。


「まあ、新たなメニューはまたゆっくり探していきましょう。」


 そうやり取りしながら夕食を終わらせようかというところで、


「あら何かしら、うーん、この家に侵入しようとするものかも。」


 とメムが言い出す。


「何人ですか?。」


「うーん、1人いや2人ね。1人は見張りかしら。動かないようね。もう1人は、……隠し扉の方に向かっているわ。」


 俺は決断する。


「留守番役、しっかりやらなきゃな。最低でも侵入した1人をやっつけますか。」


「わかったわ。ダン。侵入した奴は、真っ直ぐ隠し扉に向かっているから。私が先導するから、扉を触ったところで取り押さえて。」


「音は立てられないですよ。ゆっくり近寄りましょう。」


 ただ、足音を立てて近寄るわけにもいかないので、俺とメムは抜き足差し足でゆっくりと隠し扉のところへと向かう。

 メムがセンサーというか探知機というかレーダーみたいに、侵入者をマークしてくれているので相手の動きを確認しつつ、侵入者にゆっくり接近する。その侵入者はどうやら隠し扉を開くのに熱心になっているようだ。光の魔法を発動させているのか、その侵入者の周り1マータルが明るく照らされている。覆面で顔を隠し、大きめのマントで身をおおっている。

 どうやら隠し扉の鍵がパズルというか寄せ木細工みたいになっているのか、細かくはめ込まれた板をあちこちに動かしているようだ。

 メムが俺にうなずきかけたので、俺もうなずく。

 直後、メムが一気に間合いを詰めて、その侵入者の後頭部めがけて頭突きをかます。


 ゴドッ


 低い静かな音がして、その侵入者は前のめりに崩れ落ちる。メムの頭突きがうまくヒットして相手は気を失ったのだろう。

 俺たちは無言で、侵入者の口にボロ布を詰め込み、さるぐつわをかけ、素早く両手両足を後ろ手に縛り付ける。この侵入者は男のようだ。

 そいつはそのままにして、もう1人がどうなっているのか、メムは確認して


「ほとんど動いていないわ。どうする、同じように取り押さえる?。」


「メム様、任せます。」


 俺がそう言うと、猫の特性を活かして静かに見張り役に接近し侵入者を押さえた時と同じように、頭突きをかまして、今度は、見張り役の体は木が倒れるように崩れ落ち、仰向けになって気を失った。


 こいつにも無言でさるぐつわをかけ、同様に両手両足を縛り付ける。俺は、そいつの両足を掴み、引きずって家に持ち帰る。ちょっと重い男だった。

 住居内に引きずり入れたところで、ドラキャが走ってくる音がして、3姉妹が変装状態で帰ってきたのだった。

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