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94弾 この留守番を引き受けよう

 何がともあれ、そんなこんなで『金属素材事典 ①素材』という書庫の資料を読み込んで、必要と思われる部分を書き写して、他の②ズブロンムから⑦リルンコムまでの各金属素材について資料を集めにかかるが、⑤から⑦までの資料、メテオニウム、スミリハオム、リルンコムについての資料は………、


「うーん、まだ俺のランクじゃ、それらの記載のある資料が置いてある書架に入れないのか。」


 ミドルランカーになったとはいえ、入れる書架は増えてきたが、まだ入れない書架もあり、なかなか資料の読破は一筋縄ではいかない。

 ちょっと早いが、夕食にするか。いろいろ組合本部の書庫の中の資料もいろいろ漁っていると時間が経つのを忘れてしまいそうだ。



 ということで、まず組合本部の食堂へ行きメムが夕定食を15人前平らげるのを見て、さらに組合本部の近所の食堂で15人前分の夕定食をメムが平らげる。メムは予告通りに30人前を平らげた。 最初は、組合本部の食堂で30人前を頼んでみたら、流石にそれは他の客の迷惑になりかねないと断られ、15人前を注文することになった。メムは当然もの足りず、やむなく、近くの食堂へ行き15人前平らげるという、もはや前世でいうところの相撲取りのような食事をすることになった。

 

 そして下宿先に戻り、毎度の流れで、メムはヘルバティアと入浴をし、その後ヘルバティアがモフモフに溺れている間に、俺は灌水浴室で体を洗う、という夕刻から夜の時間を過ごすのだった。


「うーん、喪失戦争の資料を閲覧できるのはまだ先か。」


「ええ、ランキングでは冒険者か商業のランク、どちらか7級以上になりますので。」


 メムがこの異世界で、1度の夕食での消費人数30人分という最高記録を打ち立てた翌日、俺たちは久しぶりにセイクさんと話をする。俺たちはミドルランカーになり、組合本部付きじゃなくなって、セイクさんと話する機会は減ったが、相談員として疑問点を確認したりはしてもらえる。


「そうですね、詳細についてはランクアップを繰り返してからになるとは思います。あらましについては、もうニシキ様はご存知だと思いますが。」


 喪失戦争、俺の得た情報では、概要として、おおよそ1000年前から始まった、内戦から拡大し各国の介入した戦争、600年前には高度な都市や魔術や技術が失われてしまったといわれる。トゥーンカーン国の一部地域はロストエリア(喪失域)としてヒューマーたちは立ち入れなくなってしまった。入ってみても生還率は場所によっては極度に低くなる。内戦の起きた国というのがトゥーンカーン国で、それが拡大して他国の介入があり今に至る。

 ただまだ、概要程度なので、矛盾に感じるところはあるし、全容を知ることができれば良いが、それはまだ先になるだろうしな。


「しかしなぜまた、喪失戦争についての資料を求められているのですか?。」


 セイクさんが笑顔で尋ねる。


「まあ、ちょっと、この戦争に関する話を聞いたためです。」


 俺は曖昧に答える。


「ニシキ様なら順調にランクアップされていますので、焦ることはないですよ。」


 セイクさんが励ましてくれた。


「わかりました。相談に乗っていただきありがとうございます。」


 そう言って俺とメムは席を離れた。



 相談に乗ってもらった後は、組合本部の書庫と街の中央図書館で資料漁りをして、金属素材と魔術と喪失戦争についてわかる範囲で資料を書き写す。早めに下宿先の茶店に戻ってくると、この日は茶店が休業になっていた。

 部屋に戻るため、茶店裏の扉を開けると、ミアンが食堂から現れて


「ニシキさん、こちらへ。」


 そう言って、リビングダイニングへ連れて行かれる。そこには、ヘルバティアとミヤンが険しい顔で食卓椅子に座っていた。

 えっと、俺たち何かしましたっけ。

 そう思いながら、3姉妹に相対する形で椅子に座る。


「ニシキさん、一つお願いがあります。」


「何でしょうか。」


「明日からしばらく、茶とかの材料を仕入れるため、この家を空けます。そのために、この家と茶店の留守番をお願いしたいのです。」


 ヘルバティアが険しい顔のまま、俺にお願いしてきた。

 まあ、お互い稼業に干渉しない契約なので、こちらとしては、淡々と留守番をしておけば良いのかな。でも一応確認しておこう。


「茶店も閉めた状態ですね。俺たちは来客も無視しておいてよろしいのですか?。」


「ええ、それについては問題ないでしょう。食事でほんの少しだけ外に出るのは良いのです。しかし申し訳ないのですが、組合本部で依頼を受けられると完全に空き家になるので、それは控えていただければ。」


「この家周辺で買い物とかは良いけど、それぐらいにして留守を守ってほしいということですね。ところで俺たちは、どのくらい留守を守ればいいのですか。」


「そうですね、仕入れにどのくらい時間がかかるのか、はっきりしない部分もあるので3、4日というところですが。」


「わかりました。その注文通りに留守を守りましょう。」


「ありがとうございます。あと、私たちの部屋には入らないでくださいね。浴室はいいですけど。」


 そりゃそうだ、女性の部屋に勝手に入って何かを漁るようなことは決してしない。はず……。

 というか、そんなことをしたら、後々大変なことになるのは分かっている。


「決してあなた方の部屋には入りませんので。もし疑念があるのなら、皆さんの部屋に、罠を仕掛けて構いませんので。」


「ええ、もう用意はしていますので。」


 俺の発言に対し間髪を入れず、ヘルバティアが答えた。


「後、本日はメムとの入浴は必要ありませんので、今夜は灌水浴室をお使いください。」


 ミアンが無表情に伝えてきた。


「わかりました。俺としては淡々と留守番してますので。部屋と浴室、後食事で外に出るぐらいにしておきます。」


「よろしくお願いします。」


 ヘルバティアがそう言って、この話はこれで終わり、俺とメムは部屋に戻る。


「まあ、こういうこともあるのね。」


 部屋に入って開口一番、メムが少し気の抜けた様子で言う。


「まあ、不審者には気をつけておきますか。ところでメム様、先に夕食をとりに行きますか。」


「そうね、さっさと近所で済ませますか。」


 近所で夕食にしてその後、さっさと灌水浴室で体を洗いサッパリとして部屋に戻る。


「ふーっ、今夜は少し気が楽ね。まあしばらくお留守番だけど、どうするの。依頼を受けることができないじゃない。」


 部屋に戻ったメムは、少し心配そうに口を開く。


「うーん、まあ、この間に魔術研究と、俺たちがこの異世界に来た理由について、再度仮説を立ててみますか。」


 俺がそう答えると、メムは、


「そうか、それはアリね。前に一つ仮説は立てたようなものだけど………。」


 と語尾を言い淀んだ。


「仮説はあくまでも仮説です。仮説を立証する機会が今まで全くなかったのですから。だから、今回も仮説を立てることで一杯一杯だと思います。前は、システムの、あの転生システムの誤作動から神の世界でトラブルが起きてこうなった、と言う仮説を立てましたが。」


「今回は、………どんな仮説を立てるのよ。」


 メムが何か思い出しながら聞いてきた。


「いえ、この異世界に来て確か最初の夜に、装置の力の話をしたのですが、確かククーロン力、ニュートリオン力、ススプリチュアル力とか取り込んでと言ってましたが、神の世界を支える力で最も扱いにくい力って何かご存知ですか。」


「え、えーっと、………思いつかないわね。神の世界がそんな不安定な力によって支えられていたら、神の世界もあなた方人間の死後の転生もかなり混乱することになるわ。原子力という力をまだ完全に制御しきれていないあなた方人類みたいにね。」


「まあ、人類はまだどんな力も、完全に制御しきれていないような者たちでしょう。全ての力を完全制御できたら神の世界は不要になったりして。おっと、話がそれてしまいました。」


 地球上の人類は、進化したといってもまだいろんな問題を抱えているからなあ。とはいえまずは女神様と元の世界に戻るための考察などは、止めることはできないだろうけど。まあ話の筋を元に戻して、


「じゃあ、メム様の知っている限り、各種の力が不安定になったことはない、ということですね。」


「ええ、そうね。私もあの神の世界は長いこといるから。あ、一応私の年齢は不詳ね。」


 やっぱり女神も女ということかなあ、まあそれより、


「あまり女性に年齢の話はしないように、ってことですか。俺は別に年齢のことは今考えていないので。いや、扱いにくい力の話をしたのは、この転移について、どれだけの力、エネルギーが必要になるのかなあ、と思っていたからです。逆に考えれば、この異世界にある力やエネルギーを利用して元に戻れる可能性はあるのかなあ、という仮説を立ててみようかと。」


「逆説的に考えてということね。でもこの異世界で、元の世界に戻れる力やエネルギーを見つけたとしても、どうやって元の世界に戻るかは難題よね。」


「ええ、それは否定できません。」


 俺はそういった後、メムと共に大きくため息をついた。


「明日からしばらく考えてみましょう。じゃダン、私は先に寝るわね。」


 メムはそう言って寝床に入った。

 俺もベットに入り眠りについた。

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