93弾 異世界の金属素材の勉強しよう
「そうですね、リルンコムについて話したのですから、まとめて話しても良いかもしれないですね。まあ、安価で一般的なのはズブロンム、強度が上がってイロンアム、錆びにくさと加工しにくさがありますが、軽くて強いムニチータム、空の神が渡したという伝説のあるメテオニウム、リルンコムに劣りますが魔力を通しにくいスミリハオムと言ったところでしょうか。一般的武具なら良いものだとムニーチタム、高級な武具としてメテオニウム、最高級な武具としてスミリハオムが使われることになります。」
「へえ、そんなに種類があるのですか。」
「ええ、ですが金属素材だけが武具の良し悪しを決めるわけでもないです。武具職人の腕で、一般的なイロンアムでも、加工をきちんとしてより防御力を高めて、ムニーチタム製より良い武具を作れますので。それこそ武具職人の腕の差がモロに出るところです。」
「さすが、魔道具製作職人です。武具の素材についての話から魔道具についての話など、いろいろ修行されてきたのですね。」
俺はシストラニさんの話に感心している。隣を見ると、意外にもメムが身じろぎもせず話を聞いているのだった。
シストラニさんがまた少し照れながら、
「いろいろ修行というより、魔道具でもこれらのようなペンや、魔法発動と同じ効果のあるマジックシートを製作しましたし、勉強のため武具の製作もしましたもので。」
「いや、俺も本当に良い話を聞かせてもらえてありがとうございます。これからシストラニさんはどうされるのですか。」
と、俺が聞いてみると
「そうですね、この後はまた別の街、別の国に行って勉強してみようかと。実は明日から王都に向かう予定です。王都を経由してハーチノコートの街に行ってみようかと。」
と答えた。
「もしよろしければ、旅費の足しにして下さい。」
俺はそう言って、黄金貨10枚をシストラニさんへ渡す。
「いや、しかし、これは受け取れません。こんなに良くしてもらうのは。」
「でしたら、もし俺と再会したなら、その時に返してくれれば。無理な時は結構ですから。それにお金はあった方がいいかと思います。」
「………わかりました。では、また再会することを祈って。それではこれで失礼いたします。移動の準備をしますので。」
そう言って、シストラニさんが席を立ち、一礼をして去って行った。
(それじゃこれからどうするの。)
シストラニさんが去った後、職人による非常にためになる話を聞いて、知的興奮状態にある俺に対して、メムが念話術で問いかける。
(そうですね、一度組合本部の書庫に行きたいですね。今の話を聞いて、もうちょっとこっちで調べたいことができましたし、このペンの書き味を見たいですから。)
(そうね、私もこのペンの書き味を見たいわ。)
ということで、書庫に入って、リルンコムについての話と、喪失戦争についての話を調べることにする。
その前に、紙とインクをもらい、3本のペンでそれぞれ書き味を見てみる。軽くペン先にインクをつけて、試し書き。
(おおっ、滑らかー、しかも軽い。紙質が悪いと引っかかったりするが、これはいい感じだ。どれどれ、ペン先の溝も細かいなあ、綺麗な螺旋を12本彫っているのか。やはりすごい職人だ、シストラニさんは。)
(ペン3本とも造りがシンプルなのに優美な感じね。)
メムもこれらのペンについては、文句のつけようがないようで、褒める言葉しか出てこない。
俺も褒める言葉しか出てこない。
「さて、調べ物をと。」
俺は切り替えるためにそう呟く。ここの書庫も以前使ったことがあるが、ランクが上がると見れる書架が増えるようだ。
まずは、武具に使われる素材について調べにかかる。
『金属素材事典 ①概要』
という書物を手に取って読んでみる。
内容は、
・各種金属の種類と特徴
ズブロンム:精錬すると茶翠色の地色が出る。主に調理器具に使用される。
殴打に弱く叩くことで延ばせるため、それを活かした調理器具
が製作される。武具としては安価であるがやや重く、先述した
通り殴打に弱いため、革製の武具と併用して使われることが多
い。
イロンアム:精錬すると青みのかかった灰色の地色が出る。使用は他用途に
渡り、調理器具や釘などの雑貨から、武具、魔道具、建築補強
材などにまで使われる。さらに精錬し加工すると、錆びにくく
なり強度も上がるため、武具を改良したりして武具の力や強度
を上げることもできる。
ムニチータム:精錬すると光の当たり方で2パターンの色、薄赤色から紫色
の地色が出る。ただし、精錬と加工には手順がかかるため、
手間を減らし生産量の向上を上げる方法が研究、開発されて
いる。また、前述の二つの金属と違い、魔術耐性もあり、軽
くて丈夫であり、武具によく使用される。
メテオニウム:精錬すると黒みのかかった灰色の地色が出る。使用は主に
武具、魔道具として使われることが多い。古の時代の伝説的
防具に使われているが、真贋がはっきりしない。加工はしや
すいが、高温にする手間がかかるため、燃水を多量に使用す
るか、魔法を発動させる人員が必要なことでコストがかかる
がムニーチタムより魔術耐性もある。
スミリハオム:精錬すると白色の地色が出る。使用は武具や魔道具に使われ
るのがほとんどだが、精錬には高度な魔術能力と魔法の発動
が必要になるため、市販品として出回ることは少ない。
リルンコム:精錬すると白銀色の地色が出る。伝説級の金属で武具や魔導具
に最高な逸品。魔術耐性と魔術伝導をもち、良質に加工された
ものは任意に魔力を通断できる。
なお、詳細については、金属素材事典の②〜⑦の各金属の説明に記載。
「ふうっ、読んで必要と思われる部分を書き写すのは、ペンが良いと言っても時間はかかるな。」
俺は必要と思ったところを書き写し、一息つき小声で呟く。
「しかし、ダンはすごい集中力ね。もう昼も過ぎているのよ。」
メムもかなり小声で俺にささやきかける。
「あ、そうでしたか。それはメム様失礼しました。でしたら遅いですがお昼をとりましょう。」
「でも、食堂も飲食店も、もう閉まっているでしょう。それに私も集中して、あなたの後ろからその書物を読んでいたから、まあ良いわよ。」
「………メム様。まさか………何か、病気にかかってしまったのでしょうかね。」
そう言って俺はメムの頭に手を当てる。その後、心臓に手を当て脈が異常でないか調べてみる。
「どこかに獣医はなかったっけ。」
メムは無言で俺の金的に頭突きを軽くかます。
「おぶっ、流石に男性のそこは……やめてください。う、うう………。」
(ちょっと、私があなたに付き合って読書をして、何が病気よ。)
俺が金的攻撃を喰らって少しうめくところに、念話術で怒りを表明する。
(いや、普段食い意地の張ったメム様が食事を気にしないなんて、何があったかと心配して。)
俺も喰らって苦しいので、念話術で説明する。
(心配してくれるのは良いけど、食欲がないだけでそんなリアクション、おかしいでしょ。)
(以後、慎重に対処いたします、メム様。)
(いいわ。夕食30人分は食うからね。覚悟してね。)
(はい、わかりました。)
幸い、この書庫内に、この時には人がいなかったのは幸いだった。股間を押さえてうんうん言ってる姿は、あまりみっともなかったから。




