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81弾 新たな住まいに引っ越そう

「では、ニシキさん。下宿の契約をするということで。あなた、そしてこのグランドキャットと私たちの契約ということになります。」


 ミアンが淡々と話を進める。一応、下宿させるとしたらこの部屋ですよ、ということでその部屋を見せてもらっている。


「わかりました。一旦、下宿の話を組合本部には報告してもよろしいですか?。」


 と俺が質問すると、長姉の説得(?)を受けた末妹のミヤンが、俺を今にも殺しそうな目で見つめながら、


「わかっていると思うけど、3姉妹の事と変装している事とかは絶対秘密よ。組合本部に決して漏らすなよ。漏らしたら、ボコる。」


 とドスの効いた声で俺に圧をかける。初老のコックに変装しているせいで、圧力はより倍増して見える。


「ええと、じゃどういう説明をすればよろしいので?。」


「ミヤン、そんなに威嚇しないの。この書類を組合本部に持っていけば、とりあえず報告したことになるのでどうぞ。」


 ミアンが一枚の紙を渡してくれる。


「えっとこれは、住居下宿契約書案、ですか。」


 なるほど、前世でいうところの賃貸契約書の案みたいなものか。


「ええ、これを組合本部に提出すればいいと思うわ。契約主はチャイ・ヘイルの名にしているのでそれで承知してくれればいいわ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


 俺はそう言うと、ミアン、ミヤンと共に、メムと遊んでいる契約主を見ながら、一斉にため息をついた。



「では、一度寮に戻って引っ越しの準備をいたしましょう。」


 そう言って、メムに帰宅を促すが、


「ええ、もう少し一緒にいたい……。」


 と少年の格好のヘルバティアがわがままを言うのを、


「姉さん、契約を無事に終わらせてからです。」


 ミアンがそう言って、長姉を抑える。


「予定がわかりましたらすぐお知らせしますので。」


 俺はそう言って、メムと一緒に茶店を去り、帰宅の途につく。組合本部へ戻って、受付にいたセイクさんに、茶店でもらった住居下宿契約書案を示した。


「よかったですね、住まいが見つかったわけですね。」


 セイクさんはそう言って、ほっとした表情を見せる。


「えっと、この下宿契約書案を提出して大丈夫でしたっけ。」


「はい、これでこちらも契約変更の手続きに入ります。」


 そう言ってセイクさんが新たな書類を示す。


「簡単に申しますと、ミドルランカーとして、あそこの掲示板から依頼を選んでいただいて、依頼完了を目指すことになります。毎朝、掲示板の依頼は更新されますので、朝のうちなら良条件の依頼があると思います。ただ、朝のうちはそれなりに混雑しますので、落ち着いてから掲示板を見られても問題はありませんが、難易度の高い依頼が残っていることが多いです。」


「以前みたいに、指名依頼みたいなものも受けることはあるのですか。」


「ニシキ様指名の依頼も出てくるでしょうし、その時は掲示板の右端隅に呼び出しを貼っておりますので、それを確認の上、受付までお越しください。」


「寮を出ていく日は、まだ未定ですが、変更した契約の開始日はその辺りになるのですか。」


「ええ、そうですね。今渡しているのは、変更契約案ですので、寮の部屋ででもゆっくりご確認ください。併せて下宿契約案もご確認しておいて下さい。」


「わかりました。寮を出て下宿先に移ったら、掲示板の右端隅を確認してから依頼を選択するのが良さそうですね。」


「ええ、混雑には気をつけて下さい。」


 そう言われて、俺たちは受付を離れ、寮の部屋に戻る。



「いやー、下宿は決まったわね。」


 部屋に入ると開口一番、メムが一安心という感じで一息つく。


「うーん、この住居下宿契約案だと、本当に部屋と風呂とトイレを使えるだけの契約ですね。」


「ふーむ、どれどれ。契約主への月6万クレジットの支払い、入浴中やトイレ使用中の際に札の掲示、あとは詳細部分ね。まあ、一応あなたの体は17歳、中身は50歳のおじさんだから。変なことをしないようにということかしら。」


 メムが冷やかし気味に言ってくるが、


「ラブラブイベントを発生させてる途中で、元の世界に戻ったら何か厄介なことになりませんか?。」


 俺がそう質問すると、


「あらー、何かラブラブイベント起こすつもりなの、もうー、このー。」


 メムが変にニヤつく。


「ふぅ、いや、訳アリの方々ですよ。この前は俺たちを襲った方々ですよ。わかっていますか。ある意味、敵地で下宿することになったのですから。」


「ああ、そうだったわね、用心はしなきゃいけないのね。」


「ええ、気を引き締めていかないと。メム様。」


 俺はそう言い、引っ越しの準備をしようとする。


「もしかして、ダン。前世の経験と記憶で………。」


 とメムが小さな声で呟いたようだったが、俺にはっきりとは聞こえなかった。



 引っ越し準備は意外に楽に進んだ。メムと最初に出会った時に拳銃とその収納箱を入れていたカバンが、異空間収納かどうか、どのくらい入るのかを調べきっていなかったが、今回の引っ越しで入れていくと、ほぼ寮の部屋にある荷物は、といっても家具類は無いし雑貨類と衣類がほとんどだが、入り切ったのだ。ただ、


「全部入れてしまうと、下宿先で怪しまれるのじゃない。異空間収納のカバンなんて知られないようにしたほうがいいと思うわ。」


 とメムが言ってきたので、それはもっともな事だと思い、衣類は別に風呂敷みたいな布で包んで引っ越しすることに。

 住居下宿契約、組合本部との変更契約の両方の手続きも無事に終わり、引っ越し日を茶店に知らせて、引っ越しをして、無事に新たな下宿先に居所を移すことになった。



「ふー、引っ越し完了。まあ、前の寮の部屋より広い感じはしますね。どうですか、メム様。」


「でも、窓が小さいわね。それに屋根裏部屋というか、物置だったというか。天井は高いけど。」


「造りはしっかりしていますし、雨漏りとかもなさそうですし、まあいいんじゃないですか。」


 引っ越し先の部屋は、前の組合本部の寮の部屋6畳の広さくらいから、10畳の広さくらいになった。使い古し気味のベット、同様に使い古した感じの椅子が2脚と、大きめのテーブルが1つ。契約主の了解を得れれば、追加で家具を購入してもいいので、足りなくなれば買い足すことになる。ファチオア商店の買取事件の時に泊まった部屋は客間だったから、違いはある。

 荷物の整理と衣類の整理、家具の配置と………押入れは、どこかにあったっけ。そこへ、ドアがノックされて、


「はい、どうぞ。入って下さい。」


 ヘルバティアと、ミアンにミヤン。3姉妹、総員で登場とは。今は変装はしていない。ショートヘアの3姉妹が揃うと、それなりに華やかだ。


「お引越しは終わりましたか。」


 ヘルバティアが俺たちに尋ねる。


「ええと、押入れか物置はどちらに。」


「この部屋の隣の部屋が押し入れになっています。」


「わかりました。ありがとうございます。これで、なんとか終わりそうです。」


 俺がヘルバティアにそう答えると、


「そうですか。じゃあ、………メムちゃーん、遊びましょー。」


 小柄で18歳には見えないヘルバティアがそう言って、メムにハグをする。本当に12、3歳くらいの子が遊んでいるみたいだ。


(ダン、いいの。遊んで。)


(契約主へのサービスは必要ですから。どうぞ存分に。)


 念話術でそうやり取りすると、メムがヘルバティアにすり寄る。


「じゃあ、お庭へ行きましょう。」


 ヘルバティアが満面の笑みで、メムと部屋を出る。


「姉さん………。」


 双子の妹は共に呆れた様子で、メムとヘルバティアを見送る。部屋には俺と、ミアンとミヤンが残ることになった。


「では、今後ともよろしくお願いします。」


 俺は二人に頭を下げて挨拶する。


「ニシキさん、一つだけお願いが。」


 ミアンが俺に告げる。


「姉が何を言ってきても、あのグランドキャットと姉を絶対一緒に寝かさないようにさせておいて下さい。でないと、こっちにも支障が出かねないので。」


「わかりました。努力はします。」


 ミヤンが俺を睨みつけたままだった。

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