80弾 新たな住まいは決まりそう?
「じゃあ、今日は、この地域を探しますか。」
俺がそう言うと、メムがすかさず、
「今日は、途中で茶店休憩。」
と言い出してきた。
「いいじゃない、この地域ならいつもの茶店があるのだし。」
「まあ、メム様なら、大歓迎してくれます。でも住まい探しが進まなくなりますよ。」
「う、うーん。そうか、それがあったか………。」
そう言ってメムがパソコンがフリーズしたように、体を硬直させる。
そんなメムを放っておいて、朝食をとり身支度を整えて、寮の部屋を出ていこうとする。
「じゃメム様、行きますか。状況によっては、茶店休憩入れますから。」
そう言うと、メムがササッと俺の元へ駆け寄り、
「さすがー、話がわかる。」
とにこやかになる。
「やっぱり、そううまくはいかないものね。」
と、人気のない道でメムがぼやく。
結局、探し回っているが、収穫はほぼゼロであった。
「じゃあ、茶店で昼飯兼ねての休憩にしましょうか。」
「ええ、いいのだけどもう昼過ぎたわね。」
「まあ、そんなものかもしれません。」
まあ、負け惜しみに近い気もするが、こうでも言わないと、気持ちが折れそうだ。
ということで、いつもの茶店についた。営業中のようだ。
茶店の扉を開くと、少年店員の格好をしたヘルバティアさんが、机に伏せていたが、ガバリと起きて、俺たちを視認するや否や、
「メムちゃーん、いらっしゃいませー。」
と、甘ったるい対応をしてくれる。
「いつもの緋茶セット、6つ。このグランドキャット用に平皿を。」
店員はいそいそと注文を受け奥に消える。
(まあ、いつも通りでよろしいですか。メム様。)
(いいわよ、あとはあの店員に媚びへつらえば、スイーツが追加でくるわね。)
(そんな腹黒いことを念話術で言われても………。)
(でもどうするの、住まいの探索。埒が空かないわよ。)
(住まいの供給不足は、俺一人の力じゃどうもこうもいかないですよ。)
メムと、そうこう念話術での会話をしてるうちに注文の品がくる。
「えっと、もしかして………これは、メムの分のサービスと、店員が一緒に食べる分ということですか。」
緋茶は6つプラス1つにスイーツが7つプラス1つ出てくる。
「ええ、よろしいでしょうか。」
そう言いながら、ヘルバティアがメムを自分の隣の席に誘導する。
「そういえば、本日は、険しい顔をされていますが、何かあったのですか?。」
「いえ、ランクアップして組合本部の寮を出なきゃいけないので、住まい探しですよ。ただ、なかなか見つからないもので。」
店員がメムと楽しそうに、スイーツを食べるのを見ながら、かつ奥からの変装している妹たちの刺すような視線とオーラを感じながら、俺は問いに答える。
その答えを聞いた瞬間、店員が俺の顔をじっと見て、
「じゃあ、うちに下宿しないですか?。」
と言ってきた。
「ダメです。」
奥から初老のコックに変装し右腕に包帯を巻いた妹が、左手に包丁を持ってダッシュで俺の元へ。これはミヤンだな、まだ怪我は回復しきっていないのか。
「ダメです。まさかこれを下宿させるなんて。」
俺は、ミヤンにもの扱いされているようだ。
「いいじゃない。困った人に助けを。」
姉が反論するところへ、もう一人の妹ミアンが遅れて参上する。
「まさか、このグランドキャットと一緒になりたい、という理由で下宿させるのじゃないでしょうね。」
「………そうよ。何か文句ある。」
「思いっきり私情が入った理由ですね。」
とミアンが、
「なんでこうなるのかなあ。」
と、ため息まじりにミヤンが姉に不満を表明する。
「あのー、今とりあえず、食事させてもらっても………よろしいでしょうか?。そんな物騒なものを持って席までこられると………。」
俺がおずおずとお願いすると、
「そうね、メムちゃんとの楽しい時間をとらないで。奥にいてなさい。」
ヘルバティアが、そう妹たちに命令すると、
「わかりました。ここで食事後、下宿の件について話し合いましょう。食事をさっさと終わらせましょう。」
と俺の左側に座り、ミアンが言い出す。
「そうね、さっさと終わらせて。」
そう言って、ミヤンは俺の右横に座り、左手の包丁を俺の右腕に突きつける。
………こんな殺伐とした食事は滅多に味わえないな。
俺は、必死で食事をさっさと終わらせたが、メムと店員がダラダラと食事していたため、
「あのー、食事を終わらせましょう。」
と呼びかけて、少しは早めてくれたが、初老のコックに変装した妹たちに左右に挟まれ、俺は激しい圧を感じながらきつい思いを………。
「じゃ、正式に言うわ。メムちゃんとニシキさんを下宿させようよ。」
ものすごいメムちゃん推しで話を進める長姉。
「冗談じゃないわ。絶対反対よ。」
机に左手を置いているが、左手の包丁を手放さず、反対意見を述べる妹ミヤン。
「まあ、ヘイルの意見もあるのでしょうが………、ニシキさんの意見も聞いてみましょう。」
何か思案にふけりながら、俺をチラリと見つつ進行役をするようになっている、もう一人の妹ミアン。
俺の分のスイーツも食らって、満足げな顔でうつらうつらと、狸寝入りを決め込むメムを少しうらやまし気に見ながら、3姉妹の出すオーラに呑まれかけている俺が意見を言う。
「えっと、俺たちとしては、住まいが見つからないので、下宿させてくれるなら全く構いませんが、いいのでしょうか。」
「よし、決定よ。すぐに下宿を認めましょう。」
ものすごい速攻の反応を見せたのは、長姉。なんかメム可愛さで完全に暴走気味になっている。
「はあ、何言ってるの。絶対反対。」
そう言って俺に向けて包丁を突きつける妹ミヤン。
「ちょっと、落ち着きなさい、2人とも。イワノフ、今日はもう店を閉めましょう。閉店の看板を出してね。変装も一部解きましょう。姉さん呼びで話しましょう。」
妹ミアンは、冷静に話を進めようとしてくれる。
ミヤンが席を立ち、閉店の看板を出して店を閉める。閉店作業を終えて、席に戻ってくる。
「ミアン姉さん、閉店作業、一応やっといたよ。」
憮然とした顔をしながら、そう言って話し合いを続ける。
「ニシキさん、一応財産的なものはどんな状況でしょうか。借金があるとか、そういうことはどうなんでしょう。」
ミアンが真面目な顔で俺に聞いてくる。
「正直に言いますと、いや、紙に書きますので、それを見てもらいましょうか。」
「いいですよ。どうぞ、紙はこれに、ペンはこれに。」
そう言われたので、支出と収入を書いていく。書き上げて、机の真ん中に。
「どれ、ほう。このグランドキャットの食費がこれだけかかるのですね。え、この収入は、すごいです。商店との情報提供の契約と開発商品のパテント料、白粉石の鉱山の配当ですか。………姉さん、私は賛成です。下宿してもらいましょう。」
ミアンの目の色が変わる。
「この実入りは、いいですね。」
「ちょっと、ティア姉さん、ミアン姉さん。何、金に目が眩んでるのよ。」
賛成に転じたミアンをミヤンが非難する。
「ね、わかったでしょう。私にも人を見る目はあるわ。この実入り、グランドキャットを連れて、冒険者としての腕もなかなかよ。それに、私たちが変装していることなどは、彼とこのグランドキャットしか知らない。それを手元におけば、より安全なんじゃない。」
長姉は、そう言ってミヤンを説得にかかる。
「まあ、そう姉さんに言われると………。」
「いい機会よ、私たちのことを知っていても、外には言わなかった彼の口の硬さは賞すべき点よ。この彼を手元に置いておけば………安全でしょ、色々と。このグランドキャットは、私も気に入っているし。」
まあ、この流れだと落ち着くところに落ち着きそうだ。
そして、狸寝入りをしていたメムが、それを聞いてかヘルバティアに身体をすりすりと擦り付けると、
「うーん、もう、たまらないわ。さあ、飼いましょう!!。いや違ったわ、下宿させましょう!!。」
と長姉は叫んだのだった。




