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8弾 冒険者として一歩目を踏み出そう

8話目です。よろしくお願いします。(今日、8/24 連続で投稿させていただきます。)

「おはようございます。ニシキダン様、よく休めましたか?」


 本人登録した時に対応してくれた、受付のお姉さんが尋ねてくる。大きめの耳に紺色の髪を引っ詰めにしてお団子に結んだこのお姉さん、風格と威圧感が結構あるな。もしかして、結構冒険者としても活動してそうだ。


「まあ、人心地つきました。」


 とりあえず答える。


「先ほどご覧になられたと思いますが、朝はあんな感じです。冒険者・商人の方々は朝に依頼を受けて、各自あちこちへ向かっていきます。もちろん全部の依頼が裁かれるわけではないので残った依頼もありますが、それは季節や獣の状況によります。」


「ふーむ、では冒険者ギルド及び商業ギルドについて説明いただけますか。よろしくお願いします。」


 とりあえず、頭をペコリと下げて一礼する。


「ええ、各ギルドでは各冒険者・商人に、こなした依頼や実績に応じてランクを付け、ある程度の依頼や仕事の割り振りをします。ランクについては、初級から2級3級という形でランキングされ、最高ランクで10級になります。初級から3級をローランカー、4級から7級をミドルランカー、8級から10級をハイランカーと呼び分けることもあります。ランクが上がるにつれてよりハイリスクでハイリターンな依頼になると考えていただければ結構です。」


「なるほど、もし依頼をするとしたら、それはギルドで受け付けて割り振っていくということですね。」


「ええ、そうなります。」


「依頼についてはどんな内容があるのでしょうか。」


「冒険者ギルドでは護衛・探索・賊討伐・道路啓開・捜索救助・獣退治・パーティの臨時メンバーが主になります。商業ギルドでは配送達・販売手伝い・商品開発・購入手伝いが主になります。商売をしていく上での手伝いみたいなもので、商業ギルドの依頼を受けつつ、大商人になっていくこともあります。もちろん緊急、特殊依頼も存在していますので。」


 俺はふと一つ疑問に思った。


「そういえば冒険者ギルドと商業ギルドは別個の建物にはしていないのですか。この街だけが一つの建物にまとまっているということでしょうか。」


「いいえ、依頼内容がどちらのギルドにするか不明なこともありますので。そういう事案があった場合には組合本部案件の依頼ということもあります。各ギルドは組合本部の下に位置する各部署と見ていただければよろしいかと。」


 なるほど、納得した。


「じゃあ、両方のギルド依頼を受けても構わないということですね。」


「はい、ただしランクについては冒険者ランクと商業ランクに分かれることになります。」


「依頼を完了させたら支払いということですね。」


「ええ、依頼ごとに証拠や証明を示していただくことになります。それは依頼を受ける前に説明することになります。」


 だからさっき受付も忙しく動いていたのか。


「これで説明を終わりますが、質問等ございますか?」


「実際に受けてみなくてはわからないだろうから、その時々で質問しても大丈夫ですか?」


「ええ、構いませんよ。ただ、みたところ防具も武器類も揃っていない様子ですね。」


「はい、何か臨時雇いの仕事はありますでしょうか?とりあえず装備を買い揃えたいので。」


「もしよろしければ、『組合本部付き』という形はいかがでしょうか。この組合本部の本部付き用の寮の部屋に住むことになります。共同浴場、共同便所で上等の部屋ではないですが、良い依頼を優先的に回せます。ただし利用期間は2級ランカーまでになります。」


「何か理由をつけて別料金やらふんだくるということでは無いですよね。」


「もちろんそんなことはないですよ。ハイランカーが多いほど良いものですから、いきなりつまづかれて冒険者引退、というのも当方としても困りますので。」


 まるでゲームの初心者優遇措置みたいなものか。


「ところで、このグランドキャットと一緒に依頼をこなしてはダメとかいうことはないのかな?」


「大丈夫ですよ、主がきちんとコントロールできれば。益獣付きで依頼をこなす方もいますので。」


「えきじゅう?」


「ええ、獣のランクになると言いますか。」


 お姉さんはこの異世界のモンスターについて説明してくれた。


 益獣 (えきじゅう)

 :商売目的や愛玩動物として飼われるもの

 野獣 (やじゅう)

 :益獣として飼い慣らす前のもの。野獣の中でもあまり我々と遭遇する機会のな

 いものや、未知の部分が大きいもの、希少種は、特に珍獣という。

 猛獣 (もうじゅう)

 :野獣より凶暴で、遭遇すると襲ってくる可能性の大きいもの

 強獣 (ごうじゅう)

 :猛獣より凶暴なもの、かつ魔法を使ってくるもの

 狂獣 (きょうじゅう)

 :強獣より凶暴なもの

 災獣 (さいじゅう)

 :伝説級の獣、過去の記録に残っているが、遭遇したことのない者が多く真偽不

 明なものもある。

 

 害獣 (がいじゅう)

 :上記の獣で、我々の生活に悪影響を及ぼすもの



「ふーん、強獣や狂獣に遭遇したら逃げるしかないか…」


 俺は少し不安になってつぶやく。


「倒せないことはないです、ハイランカー位の冒険者でしたら。ただリスクもあるので、引き際の決断は重要です。まあ、命あってのものですから。」


「装備とかの状況も鑑みて、決断するということですね。」


「情報とか経験とかが、生き残れるかどうかにかかることもありますし。」


「そういえば、装備や防具はどのくらいの物を用意する物なのでしょうか。」


「防具でしたら、最低限、軽鎧。武器でしたら、ショートソードや杖、特に魔法は、杖や道具なしでは発動できませんので。」


「え、魔法ってそうなっているの?」


 思わぬことに驚いて問いただしてしまう。


「よっぽど高レベルの魔法使いぐらいでないと、素手で魔法を発動することは困難です。」


 この世界の常識であるのですが、という感じで返される。


「詳しいことは、この街の魔術協会にご確認いただければ、魔法について教えて下さいますよ。あとで訪ねては?」


「そうですね、説明ありがとうございました。紹介してもらった宿があと4日宿泊予定ですので、その後に組合本部付きになってみたいのですがよろしいですか。」


「ええ、結構です。そのグランドキャットも一緒ですね。主でしっかりみてて下さい。しかし美しいグランドキャットですね。何か主付きの印をつけると良いかもしれませんね。ところでこの子のお名前は?」


「メムと言います。俺も美形なグランドキャットだと思っています。褒めていただきありがとうございます。」


 女神様だった頃の名前を言ってみる。


「そうですか、しばらく街をまわってみて下さい。あと、何かありましたらこちらまで連絡いただければありがたいです。」


 と言ってカードを渡された。なるほど名刺みたいなものか。

 そこには


 イチノシティ組合本部ギルド依頼割り振り係員

       受付担当:セイク・ヴィクトリア


 と書いてあった。


「セイク・ヴィクトリアさん、が俺の担当ということですか?よろしくお願いします。」


「ええ、元冒険者としてアドバイスなどいたしますので相談・疑問あれば、基本私で対応しますので。よろしくお願いします。」


「元冒険者ですか。引退したとか?」


「ええ、左肩が脱臼癖になってしまいまして…」


「怪我が原因ですか、失礼なことを聞いてしまったようです。申し訳ありません。」

 

 俺は少し気の毒に思いながら、頭を下げる。


「いえ気になさらないでください。」


「あと、さっきの獣のランクの説明の際に言いそびれたのだけど…」


「なんでしょうか?」


「ここに来る途中の森で、『スライコヨーテ』と『ファイティングエイプ』というのに遭遇したのですが、あれは獣のランクだと、どれに当たるのですかね?」


「え………、えーっ。」


セイクさんはかなり驚いているようだった。


「ど、どこで遭遇されました?」


「地理不案内なので、具体的な地名はなんとも言えないですが…」


 と言いながら、獣の特徴やら方向と遭遇地点から大体徒歩で歩いた時間を説明した。ただ、手合わせしたことと、木札らしきものをもらったことは伏せておいた。


「結局、『バーバリーエイプ』を追っかけていましたね。」


「そうですか…、バーバリーエイプは猛獣・害獣にランクされています。ファイティングエイプは珍獣にランクされていまして、あまり見かけることはないと聞いています。スライコヨーテは猛獣と野獣の境くらいのランクで、ある程度個体によって差があります。しかし珍獣に遭遇されるとは、なかなかの運の持ち主と申しましょうか。」


「えらいものにあってしもうたんや。」


 俺も今更ながら、とんでもない遭遇をしたことに驚いてしまい、喋りがおかしくなった。


「情報ありがとうございました。今後ともよしなにお願いします。」


 とセイクさんは言い終わるや否や、席を立ち、慌てた様子で、奥に向かっていった。どうやら、俺のこの遭遇の話を報告するのだろう。

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