74弾 きちんと記録を記載しよう
「ねえ、合わないのじゃない。ダンの魔術の性質的に。たしか、この街に来た当初、魔術協会で測定みたいなことをしたよね。その時、魔法の変換速度と魔力の瞬間放出量、及び発動瞬間時の事象変換エネルギーが大きすぎると言われたのよね。」
「ええ、そうですね。」
俺も、そう言われたことを思い出す。
「この岩人形を操るのも、魔力を持続的に流して操るのだと考えれば、あなたの場合、瞬発力があるけど、持続力がないから、岩人形ができても、すぐに崩れるのじゃない。」
「ふーむ、他人の使っていた魔法をコピーするように、使えるとはいかないわけですね。自分の魔術の性質を見極めることですね。いや、確かにいい研究になる。」
俺は大きく頷いた。
「むふーん、どう。私の魔術に対する知識と考え方。まんざらでもないでしょう。」
メムがまた図に乗ってくる。でもまあ、今回はいいや。
「さすがです。今回は、非常に参考になりました。さすが女神様です。大食いでなければもっといいのですが。ブラボーです。」
そう言って、拍手をするが、
「今、なんて言った。ああん、大食いでなければだと………。」
やばい、褒めるつもりが、いらんこと言ってしまって、虎の尾を踏んだか。
「まあいいわ、帰りましょう。結果の記録をとって分析して、研究を続けるのよね。」
何か悪いものでも食ったのか、妙に静かだけど。そう思ったが………。
俺がメムの後に続いて帰ろうとしたところへ、急に振り返って頭突きをかましてきた。グハッ。
「大食いは余計でしょ。フェイントに引っかかったな。」
まさかの高等テクニックを使ってきたのだった。
寮に戻って、研究結果の記録をつける。
「うーん、これで………、あとは………。」
ぶつぶつと、つぶやきながら記録を紙に書き散らし、書いたものを紐で綴る。
「魔術研究の現状と戦闘等体制、って何。」
メムが俺の背後から覗き込んで聞いてくる。
「ああ、今までの研究成果を記録して、そのあと、現在の自分が、どういう魔術を行使できるか、あとは、それを元にどう言う戦闘方式ができるかなどをまとめてみたものです。」
「ふーん、どれどれ………。」
俺が止める間も無く、ガッツリ覗き込み、それを読みにかかる。
「使用可能魔法、火球、水球と氷球、風球、岩球、光球、闇球。ふむふむ。瞬発的な魔法なら使用可能と思われる。ああ、これが本日の研究の成果ね。」
「もういいですか。メム様。」
「いや、ここまできたら、ふむふむ。魔弾素材の研究。叩後紙、装飾店から入手。インク、雑貨店などから入手。ペン、羽ペン、雑貨店などから入手。髪の毛、少しずつ切ること、0.1ガラム、0.3ガラム、0.4ガラム、0.5ガラム。体力的に0.5ガラム入りの魔弾が限度か。」
「もういいでしょ、メム様。」
「何これ、ふむ、課題。インク、自分の血液はありだが、乱用できない。ペン、羽ペンより細かに書けるペンがあるかどうか。紙、魔伝紙は安定的に入手不可。自分、体力の向上、主にスタミナ面。戦闘中の装填速度、状況に応じた魔弾の選択。」
「もうこれ以上は、メム様。」
俺は必死に止めにかかるが、
「ん、何、メムって何書いているのよ。」
「もう勘弁を、もう勘弁を。」
「いいから、見せなさいって。」
力ずくで読みにかかってくる。
「なになに、メムについて。女神の力として、知力、体力は高いレベル。戦闘力もあるが、魅力的なのか、囮として最強。いやー、分かっているじゃない。グランドキャットのなりになっているが、女神と一種のハイブリッド状態。状態異常に異常な強さ。体の使い方も上手。いいわねー。」
「もういいでしょう。もう少し、書いておきたいことがあるので。」
「あとちょっとでしょ、いいじゃない。何、欠点。大食い、財政について無関心、増長しやすい、意外と短気。へー、ダン。私をそんな風に見てたんだ。」
「いやー、あのー。現実を見ないといけないですし、はい。」
メムは静かに、無表情で怒りをたぎらせていく。
「じゃあ、その部分は、修正の必要があるわね。」
「えっと、現実というのを見ておかないとですね、メム様。」
「修・正・の・必・要・があるわね。」
「はい………。」
「修・正・の・必・要・があるわね。」
「そんな、しつこいです。わかりましたから。」
俺の目の前に顔を近づけて、ものすごい圧力だ。
結局圧力に負けて、メムにしばかれながら、見ている前で、欠点を消し、あちこちからマスコットとして愛でられていると、書くことになった。
これが今の現状か………。
メムの欠点は、俺の頭の中の記憶巣にきっちり書いておこう。パワハラ気質と追記もしておこう。
「どうしたのですか、その顔は。何かあったのですか?。」
翌朝、組合本部の受付で、担当のセイクさんに尋ねられることとなった。
「ええ、まあ、諸般の事情で。ところで、依頼の方は。」
そう言って、かなり強引にお茶を濁したが、それでもセイクさんは怪訝な顔をしたままだった。
何せ、あの元女神猫、昨日、修正と言いながら、気に入らない部分を書くと俺を頭突きをかまし、俺の顔を引っ掻いて書き直しをさせたのだから。もはや独裁国家の検閲官である。おかげで、顔は青タンに引っ掻き傷という、まあ、浮気バレして、キレた彼女に引っ掻かれ殴られた男、みたいな感じになってしまった。
「………本当に大丈夫ですか?。」
なお疑わしげなセイクさんに、
「いや、あれです。魔術研究と、体力アップのトレーニングをしていた際のアクシデントでこうなっただけです。」
まあ、間違ったことは言っていない、はず。
(私への尊厳が足りないからよ。)
(メム様、ここでそれは勘弁してください。)
念話術でメムが乱入までしてくる。
「で、依頼ですか。」
もはや強引にでも本筋に戻そう。
「………今回、冒険者ランクのランクアップ試験になります。でも、コンディション的に厳しそうに見えるのですが。」
「わかりました。何をするのでしょう。」
前みたいな荷物運びの試験か。その中での危機対処みたいなのが、試験のメインだったな、前回は。
「試験官と一緒に、とある場所に行ってもらいます。その場所で、試験内容は告げられることになります。」
「試験場所、試験会場についてから試験内容が告げられるのですか。じゃあ、これからそこに行く準備で、街を回ることは。」
「それは、一切できません。これから、すぐに試験として、その場所へ行ってもらいます。もう試験官も待機しております。」
「メムはどうなるのでしょうか。」
「そのまま、一緒に行っていただいて大丈夫です。」
なるほど、ランクアップ試験、前回以上に厳しめか。
とりあえず、依頼に対応できるように、常に装備品や回復ポーションの準備をしているのと、魔弾の作成はコツコツやって、弾数は多い目の108発分。じゃあ、行ってみますか。
セイクさんに案内されて、組合本部に停まっていた2台のドラキャに行くと、覆面をした者が3名。
「今回の試験官です。試験の公平を期すため、顔は隠しておりますが、組合本部の担当者ですよ。いきなり攻撃しないで下さいね。」
と、セイクさんに言われ、そのままドラキャに乗り込む。2台で行くようだ。
「申し訳ないですが、しばらく目隠しをして下さい。」
覆面の試験官にそう言われ、俺は、渡された袋を被る。
(じゃあ、私は、おとなしく寝ているわ。)
念話術で、メムはフォローする気がないことを伝えてくれる。少しは助けようという気がないのなら、それはそれでいいのかも。




