68弾 襲ったケジメとってもらおう
翌朝、朝食をとった後に、ヘルバティアが、メムと戯れる時とは違った真剣な顔で、
「相手から、回収の件について了解した、と連絡があったわ。」
と言ってきた。
「そうですか、引き渡し場所とかの指定は?」
「ええと、レンソロシアの森、入り口の廃村。この街と王都を繋いでた旧街道の近くね。」
「確か、やや、イチノシティ寄りの場所。ドラキャで走れば半日弱ですね。他条件は?。」
「特にないわ、期限は、明日朝から昼前までの間、その間に届けてとのことよ。」
ふーん、やはりそうか。俺は考えた結果を話す。
「では、このグランドキャット、メムを預けますので、よろしくお願いします。ただ届けるだけでいいので。」
「え、ニシキ様はいかがなさるのでしょうか。」
と双子の妹のミアンが疑問を口にする。
「俺は、先行偵察しますよ。先に行って準備等しておきます。」
「このメムも連れて行って欲しいのだけど………。」
双子の妹のミヤンが困惑気味に呟く。まあ、この後、姉がメムに猫可愛がりする絵が想像できるのだろうが。
それを察したのか、姉は
「仕事は仕事です。しっかり変装して行きますよ。」
と言う。
(と言う事で、メム様、よろしくお願いします。)
(わかったわ、ダン。あなたこそ無茶しないでね。)
念話術でやり取りを済ませて、目的地へ向かう手段を考える。魔弾はあれでいけそうだし、交通手段をどうするかだけか。
結局、俺は、ドラキャの乗り合いと、付近へ行く農夫に同乗をお願いし、数万クレジットを払って目的地付近まで行き、後は徒歩にて廃村に到着した。
廃村に到着したが、まだ取引相手は来ていないようだ。夕刻に近いので、どこか廃村の中で屋根のしっかりしてそうな場所で、半ば野宿としよう。そう思いながら、そのような場所を物色し始めたところ、ドラキャの走ってくる音がして、5台のドラキャが廃村の中心にやってきた。
俺は、とりあえず身を潜めて、様子を伺う。
ドラキャからゾロゾロと降りてきたのは21人。そして、最後に一人降りてきたのは、あの人豚野郎のアンチージョだった。アンチージョの配下達と一緒に登場か。
一旦この廃村を出て、遠くから様子を伺うことにする。
彼らは、村の中心で火を焚き、テントを張って、食事をし、そして眠りについたようだった。
不寝番が3名か。
それを確認した俺は、廃村の隅っこにあった小屋に身を潜め、しばらく休む事にした。用心のため、顔に炭を塗って。
どうやら、彼らは、あまり用心深くなかったのか、火の周りで飲酒をしてくつろいでいるし、夜も深くなると不寝番を交代で行う他は、みんな眠りについた。この不寝番は、火の用心だろう。それを見て俺も、さっきの小屋に行き、一眠りする事にした。あまりいい寝心地ではなかったが。
夜明けになり、目が覚めて、周りを伺い、その後、廃村の中心を観察する。不寝番がうつらうつらしていたが、誰かが起きてきて、 その不寝番を蹴っ飛ばした。
どうやら、今日は引き取りだけして、帰るだけだろうか。そう思いながら、携帯食糧と水を朝食としながら見張りを続ける。
向こうも各自朝食を終えたところで、しばらくすると、整列をしだす。
あー、朝の朝礼みたいなものか。
何やら、あの人豚野郎が、整列した隊列に向かって、演説をしているようだ。そして、一人を呼びつけ、蹴りを入れた。さらにもう一人を。
「おーおー、パワハラ朝礼か。ずいぶんっと気合の入った事で。」
侮蔑的に独り言を呟く。
その2人は、演説の終わった後、隊列に戻り、他の仲間達に袋叩きに遭っていた。まあ荒み切っているな。
そして彼らは、配置につくようで3人ずつ組を作り、各所各所へと散っていった。火の近くの廃村の中心にアンチージョがどっかりと腰を下ろす。それを見ながら俺は、用心のため、偵察位置を変更する。
廃村の周りをあちこち移動し、偵察を終える。
陣形というほど大袈裟なものではないが、廃村の中心から外に出る道を一本に絞っている。3人組が7つで、道の左右に3つづつに分かれ、火の近くにアンチージョと3人組が一つ居座る形か。
その確認をしていると、日陰が濃くなってきて、ドラキャの走行音が聞こえてきた。
「相手が来ましたー。」
と、声が上がり、ドラキャが見えてきた。
その時
(ねえ、メムよ。認識できる。)
メムの念話術が届いた。
(ああ、認識できます。アカデミー賞級の演技を期待しています。女神様。)
(わかったわ、任せてちょうだい。)
そうして、メムの乗ったドラキャは、廃村の中心へ着く。俺もその隙に、アンチージョから見て右後方の廃屋に、素早く気付かれないように潜り込み、様子を伺う。
ドラキャから降りてきたのは、メムと、2人は同じくらいの身長の老人、1人は小柄な身長の老人だった。
「依頼の品物ですじゃ。」
小柄な老人が立ち止まり、そう言う。
「飼い主はどうしたのだ。」
アンチージョが尋ねる。
「眠っていますよ。永遠に。」
小柄な老人が答える。
「何をしたのだ。」
アンチージョがさらに問いかける。
「毒を使いました。」
小柄な老人が答える。
その問答の間、落ち着かなさそうにメムはくるくる回って歩く。
「そうか、わかった。代金を払おう。」
アンチージョはそう言って、右手をあげる。
すると、老人達を配下達がくるりと包囲しだした。
「このグランドキャットはわしが連れて帰る。きれいに片付けておけ。」
(メム様、あの人豚の左手側に3人と共に逃げて行ってください。)
念話術で伝えると、メムは、小柄な老人にひょいと飛び移り、そのまま飛び降りて俺の指示通りにアンチージョの左手側に走り出す。それを見て3人の老人も猛ダッシュでメムについて行く。
「殺せ、殺せ。」
アンチージョが喚いた瞬間、俺は拳銃を抜き、魔弾を放って魔法を発動させる。
ドシューッツ
静かな重低音がしてすぐに、
ドギャアーッ
配下の目の前の地面が激しく吹き飛び、命令を受けていた配下が地面と一緒に吹き飛んでいく。
以前に魔術研究の際、髪の毛を0.5ガラム入れた【火球】の魔弾を発動させ、賊を灰にしてしまったが、今回は、狙う場所を変えてみたのだ。
「今回の魔弾は一味違うぜ。でも、これじゃ爆裂弾だな。」
そう呟きながら、もう1発。
ドシューッツ
また静かな重低音がしてすぐに、
ドギャアーッ
またもや、配下が地面と一緒に吹き飛んでいった。
「集中」
俺はそう呟き、運動速度感覚を上げて、ゆっくりに見えてきたところで、アンチージョの周りにいる配下3人を次々に、銃把で殴り飛ばしながら、アンチージョの前に立つ。
(ダン、3人共無事に逃げたし、私はそっちに行くわ。)
メムが念話術で伝えてくる。
(了解。)
そう返して、
「もうそろそろ、大概になされてはどうですか。俺たちから、手を引いたほうがいいと思いますよ。」
俺は、アンチージョを睨みつけながら、冷たく言い放つ。拳銃は手に握ったままにする。
「まさか、特工部隊のファファロイをここまでやるとは。あの時13人送ったのだが、無傷なのは一人だけだった。そんな飼い主から、グランドキャットを捕獲した話を聞いて、迂闊にも喜びすぎたのが間違いだったか。」
悪びれもせず、淡々と悪役としての矜持を見せつけようとする気か。
そんなアンチージョの背後からメムが忍び寄る。
「貴様にそんな魔術が発動できるとは。だが、わしも、ファチオア家執事長。貴様は魔術について、まだ深奥を知らんようじゃ。ロックハンド。」
手にものすごく短いペンのような杖を持ち、そう言うと、岩の手が現れて、長杖がアンチージョの目の前に。
俺は怒りを押し殺しながら、
「まだやる気なのですね。」
と言ってやる。
アンチージョは、長杖を掴んで、それを地面に突き刺すと、
「ロックゴーレム・パイロット!。」
と叫ぶ。




