66弾 襲った奴らとお話ししよう
しばらく歩いて、茶店ノンブリに着く。
(では、先にお願いします。メム様。)
(いいわよ。今のところ、3人共中にいるようだしね。)
そうして、メムを先に行かせた後、俺はおもむろに茶店の出入り口ドアを開けた。
「申し訳ないです。本日は、諸般の理由で休業します。」
奥のテーブルにて何か書いていたチャイ・ヘイルさんが、立ち上がって俺に告げる。
「すみません、うちのメムが、グランドキャットが、この店に入り込んでしまって。ちょっと、連れ出すのにご協力お願いできますか。」
俺はそう言いながら、構わずに、するりと奥のヘイルさんの目の前に進み寄り、しっかり彼を観察する。
「諸般の理由って、俺を襲撃した際に怪我したからですか。俺の魔法を受けてか、右耳と右側頭髪が、少し焦げていますね。」
そう言うと、相手はサッと右側に手をやってしまい、慌てたように右耳を隠す。
「やっぱり、そうですか。どうしてそんなリアクションをされるので。襲撃していなきゃ、そんなリアクションしないですよね。」
決めつけるように言い、一気に畳み掛ける。
と、そこへ
「きゃっ。きゃー。」
「このグランドキャット!。」
と言う2人の甲高い女性の声が上がり、店の奥から下着姿の2人の女性がメムと共に飛び出してきた。そのうち一人は、腕に包帯を巻いている。
しかし、この2人、双子か。実に同じような体型、髪型、顔の作り。まあしかし、まずは、
「さて、ここでやり合いますか。俺は、別に構わないのですが。まあ、やりあえば魔術の発動があるでしょうし。そうなれば、街内での魔法発動で警備隊の方々がやって来て、いろいろ話をする事になりますね。もし、今、ここに警備隊の方々が来てしまえば、困るのはどちらでしょうかね。」
ゆっくりと、ホルスターから拳銃を出しながら、一旦話を切り、3人の反応を見る。沈黙が支配する。
「………まあ、こっちも襲われた被害者です。しかし、お互いここで共存の手もあるのですがね。」
「こんなの何よ、お姉ちゃんに何するのよ!。」
双子のうちの一人が、そう叫ぶ。そして、しまったという顔をする。
「この前、店に来た時は、兄弟で店をやってるとは聞きましたが。姉妹が男装して茶店とは。さて、どうですか、ここは俺の話を聞いてみませんか。多分、悪い話にはならないと思いますから。」
まあ、話に応じなければやるしかないか。この店を潰すのは、ものすごく惜しいけどな。
しかし、冷静にみたら、拳銃持って、女の子達を襲っている絵図にも見えちゃうのだけどな。
「………わかったわ。あなたの話を聞いてみましょう。いろいろバレたようだし。でも他人には話しないでね。」
「いいですよ。別にこの茶店を潰すとかじゃないので。俺のいや、俺たちの事情を押し付けるための脅迫。話に応じてもらえれば、それでいいですから。」
「ふーん、で、そちらの話とは?」
「裏切りませんか、この俺たちの襲撃を依頼した奴らを。まあ、立ち話もなんですので、座って話しませんか。そちらのお二人も含めて。」
我ながら、無茶な言いぶりなのは自覚しているが。
「そうね、茶は出さないけど。あと二人に着替えさせて。下着姿のままじゃねえ。」
「いいですよ。どうぞ、どうぞ。」
そう言って双子には、一旦奥に行ってもらう。メムも当然とばかりに双子に付いていくのを、俺は横目で見ながらも、しばらく拳銃は出したままにする。
すぐに双子は軽装に着替えて、お姉ちゃんを左右で挟むように、テーブルに座る。メムも戻って俺の右横に座る。
「………その物騒な短杖はしまってくれない。もう何もしないから。」
そう姉が言うのを聞いて、俺は拳銃をホルスターにしまう。
「では、まずこちらの話をするのですが、その前に、偽名じゃない本名を教えてください。」
姉妹は観念したかのように、
「僕は、いや私は、姓はチャティーア、名はヘルバティア。一番上の姉よ。ティアと呼んで結構よ。」
「私は、名はミアン。2番目の姉よ。」
「………私は、ミヤン、一番末っ子よ。」
なるほど、俺が投げ飛ばしたのは、この末っ子か。右腕に巻いた包帯が痛々しい。
しかし、みんなショートヘアーにしていて3人共、ほぼ同じ髪色、髪型。ただ、双子の妹の方が彫りが深く大人っぽい顔、身長も姉のヘルバティアより大柄で、メリハリのあるスタイル。ミアンとミヤンの方が姉と言っても、全くおかしくないくらいだ。ヘルバティアの方が顔立ちも幼い感じで、スタイルもすっきりしているのか、3人並ぶと、よりヘルバティアのロリ感、それがはっきり見えてしまう。特に、胸囲の格差が驚異的で。
「俺については、もうご存知ですよね。あなた方のターゲットとして、昨日襲われたわけですから。」
皮肉も込めて、そう言ってみる。
「ええ、よく存じ上げていますわ。」
ミヤンが、トゲトゲしく答えてくれる。まあ、俺に投げられて、腕怪我したからかな。
「では、こっちの事情を説明させていただきます。数日前に、このグランドキャットのメムを買い取りたい、という話が俺に来ました。買い取りを申し出た相手は、ファチオア商店の副店主、兼ファチオア家執事長の、アンチージョ・リージー。」
「いくらで買い取ると言って来たのです。」
とヘルバティアが尋ねる。
「5億クレジットです。」
俺はさらりと答える。
「ご、5………5億クレジット。」
ミアンが驚いてしまったようだ。
俺は話を続ける。
「その後は、接待にまで招待されましたが、そこでキッパリと断りを入れたのです。その後、あの人豚は、失敬、アンチージョ氏は、後悔しても知らんぞと、悪役テンプレセリフを、俺に向けて吐いてくれたのです。」
「それは、いつのことですか。」
ヘルバティアがまた俺に尋ねる。彼女が代表してやりとりするみたいだ。
「四日前ですね。多分、話が完全に決裂したので、荒事という実力行使に移ったのでしょう。あと一昨日、怪しい集団がこの街に来て、昨日の昼過ぎに慌てて去っています。アンチージョ氏は昨日の昼前にここを離れましたが。」
「ふーん、………私たちが裏ギルドを通して、依頼を受けたのは一昨日。隙あれば、飼い主を半殺しか、抵抗するなら暗殺してもいい。そして、グランドキャットを回収して指定の場所へ渡して欲しい。という依頼だったわ。」
「まだ、報告はしていないのでしょう。」
「報告するにもどういう形で報告するか、これは問題なのよ。失敗の仕方によっては、いろいろ厄介な事になるから。」
「でしたら、このメムを囮にしましょうか。」
メムが俺をジロリと見て、上を見上げ、その後、俺を見つめる。
「なるほど、回収しました、と報告をあげて、このグランドキャットを連れていけばいいのね。」
ヘルバティアが面白いといった表情をしながら言う。
「ええ、連れて行くだけでいいですよ。後はこっちでやりますので。それに、メムの事、とっても気に入ってますよね。王都で孤児院の子に化けて、最初にメムを触らせて、といって来たのはあなたでしょうから。それに宰相邸に侵入したのも。」
俺がこう言うと、ヘルバティアは、怒りと驚きの入り混じった表情で、
「な、な、なぜ、わかったのかしら。もしかして、あなたは何もかも知っていて、まさか………。」
激しく動揺し、絶句した。
「姉さん、仕事の技術を私的に使うだなんて。」
「ミアン姉さんの言うとおりです。何しているのですか。」
おいおい、妹達も知らなかったのか。
俺も当てずっぽうで言ってみたのだが、まさか見事にヒットするとは。
「だって、だって、ニシキがこの店に、あのグランドキャットを連れて来た時から、可愛いって思って、一目惚れしたんだもん。いいじゃない、触りたかったの、愛でたかったの。」
ヘルバティアは逆ギレをした。というか、まるでお子様が地団駄踏む感が強いなあ。
「だからって、いくらなんでも。」
「行き過ぎです。やり過ぎです。」
左右の双子妹達から、姉へのつっこみコンビネーションが炸裂する。とはいえ、話を本筋に戻そう。




