57弾 この交渉を主導してみよう
組合本部受付に行きしばらく待つと、リーナオさんと、もう一人連れ立ってやってきた。
「組合本部調査班商業ギルド担当、姓はイサド、名はドイサイバと申します。」
組合本部の管理土地ということと、権利関係で立ち会うことになっているということだった。
3人と1匹で旧街近傍の洞穴へ向かう。歩きながら、発見までの経緯について説明する。
「ふむ、フレイムウォルフの退治の際に箱を発見して、ということですか。」
「ええ、その中に抽象画とただの紙が入っていまして。」
「なるほど、それを読み解くと、宝の地図がということですな。」
「そういえば、白粉石は何に使われるので。」
「白壁の材料や、石組みで石同士のつなぎに使われます。」
などと会話しながら、現場に着く。
「はい、こちらから入っていただければ、さあどうぞ。」
俺はそう言って、二人を案内する。
「おお、これは。」
とリーナオさん。
「意外にも、このようなところにあるとは。」
とイサドさん。
両者、この現場を見て感嘆気味の声をあげる。
「質的にもかなり良質ですね。埋蔵量も期待できそうですし。」
とリーナオさんは、商品価値を見出しているようだ。
「ふーむ、利用の仕方と土地の権利をどう設定するかですな。」
イサドさんは、管理土地の利用について思考を巡らしている。
どうやら2人にとって、とんでもないお宝だったようだ。
現場確認を行なっていた二人は、非常に満足した様子だった。
「では、ここで昼食後に、組合本部へ。」
イサドさんが、皆に告げる。
「これなら、充分に利益も出せそうですな。」
とは、リーナオさん。
両人とも笑みを隠しきれない。
「さあ、ニシキ様も一緒に組合本部で、今後について話し合いを。」
そうか、再度発見の経緯についての説明か。そう思いながら昼の食事をして、組合本部へ戻って行った。
組合本部へ戻るとすぐ、小さめの部屋を借りて、セイクさん、イサドさん、リーナオさん、俺とメムで話し合いが開始された。
「まず、この鉱脈を発見したニシキ様の権利関係について確認します。」
セイクさんが緊張からか、やや強張った表情でそう切り出す。
「えっと、発見者の権利って?」
俺は、どうなるのか分からない不安を感じながら聞いてみる。
「基本的に、依頼関連で発見したものは全部が、その発見者に帰属します。例えば依頼や探索で敵を倒したり、獣退治で得た物がそれに当たります。ただし、今回の場合、発見した場所が組合本部の管理する土地内ですので、一部の権利が帰属することになります。」
なるほど、まあ、そうなるわけですね。人の土地で、埋蔵金やらを発見した場合に近いようなものか。まあ、埋蔵金の発見は、俺の前世でいた日本だと遺失物法や文化財保護法とかの適用を受けるって聞いたことがあったな。
イサドさんがセイクさんの後を受けて話を続ける。
「今回発見したものは、かなり特殊な物になります。鉱脈というものになりますので、採掘権の一部が、これは、組合本部と発見者で4対1の割合になります。」
なるほど、土地の管理者と発見者だから割合はこんなものか。発見者の俺は、20パーセントの権利ということか。
「なお、この割合の細部については、後でニシキ様と組合本部で交渉することになります。」
「この交渉とは、年数が経てば、割合が変わるようにするとかそういうことですか?」
と聞いてみる。
「ええ、その話も含めてになります。」
とイサドさん。
「では、テタミク商会として話をいたします。当商会としては、採掘権を買い上げるか、採掘権の借用という形、どちらかを取らせていただきたいのです。」
と、リーナオさんが話を切り替える。
「組合本部としては、どちらでも構いません。採掘権の買い上げにしても、借用にしても条件の交渉次第です。」
イサドさんが答える。
「ニシキ様、いかがでしょうか。」
リーナオさんが俺に振ってくる。
「うーん、条件は組合本部に合わさなければならない、とかではないですよね。」
「はい、組合本部と合わせる必要はありません。発見者の権利もありますので、そちらの希望条件とこちらで交渉することになります。」
「分かりました。ではこちらも交渉次第ということになりますかね。」
「承知しました。では、組合本部分と、ニシキ様分で各個で交渉させていただきます。早速戻りまして、上と条件案を練らせていただきます。」
「では、今後の交渉場所は、組合本部の会議室を用意します。ニシキ様もどうぞ。」
とイサドさん。
「ありがとうございます。リーナオ様、よろしくお願いします。」
と俺が言うと、
「では、当方はこれにて。」
そう言って、リーナオさんは、サッと席を立ち、テタミク商会へ戻って行った。
リーナオさんが行った後、俺は深呼吸をし、
「いやー、こんな大きな話になるとは、全く思ってもいませんでした。」
と驚きを込めて言う。
「あの箱2つから、とんでもないものが出てきてしまいました。」
とセイクさんが言い、
「これからが大変です………。しかし、ニシキ様は採掘権については、どのような条件を付されようと思ってらっしゃるので。」
とイサドさん。
「正直ありかどうか分からないのですが、採掘権を売ろうかと思います。ただ、一括で支払わせるのも難しいでしょうから、分割払いか、この採掘によって出る売上利益の何パーセントかを払ってもらう。と言う形にしたいですね。それと、採掘し、加工する場所も近傍に作るのなら、この街に粉じんや騒音などが及ばないように建設するとか、そういう条件をも付したいですね。」
ビジネスマンの経験から、工場とかの建設操業の際は、ご近所への配慮とか環境への配慮とか色々あるからなあ。そう思いながら発言する。
しかし、この異世界、採掘するのってもしかして魔術を使うとか、そういう話はあるのかな。
少し沈黙していたセイクさんが、考えながら言う。
「採掘権、売るのがいいのか………、長期で借用させるか………、分割払いで売るか、どちらがいいか、ですね。埋蔵量もあるでしょうから。でも、まさか子供の宝探しごっこと思わせておいて、こんなお宝があることを残しておくなんて。」
「それに関しては、とりあえずこの宝探しに乗ってみての結果ですから。しかし、誰がこのお宝の地図と暗号を作ったのでしょうかね。」
本当に誰だろう、この暗号文に、この地図。とんでもなく天才か大阿呆か。そう思いながら俺は疑問を投げてみる。
「もし、よろしければ、その地図と、暗号文と、それらの入っていた箱をこちらの商業ギルドにいただければ、調査班で調べてみますよ。どこまで調べられるかは不明ですが。」
イサドさんが俺の疑問に対して、提案をしてくる。そして話を続ける。
「あと、テタミク商会との交渉については、一緒にやりませんか。もちろんニシキ様の意志は尊重させていただきます。何か、もっと大きなことを考えていらっしゃるのではないですか。」
「そうですか、大きなことと言われても。ただ、もしあの白粉石の採掘が開始されて、加工用の工場ができたら、街の近くなので、この街に来る人が増えるでしょう。他の街との往来が活発になり、この街の歓楽街も繁盛し、労働人数は増えることになる。でもそうなると、そこで、治安の悪化とか物価の上昇とかそういうのも考えられるのでは。」
「なるほど、確かに。短期か長期かはさておき、この街に住む者も来る者も増えるでしょう。そこを見込んでと言うことですね。交渉条件に際しては、それを考えることは有りですね。」
イサドさんがものすごく納得した感じで答える。
「依頼も増えるかもしれないですね。」
セイクさんが呟く。
ふとメムを見ると、よく眠っていた。
「交渉の日程は、また後での連絡になります。明日、受付にきていただければ。」
と、セイクさんに言われて、現場確認と話は終わりとなった。




