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42弾 臨時メンバーで活動しよう

「ところで、皆様、パーティ名は、変更ということでよろしいのでしょうか?」


 そこへ、セイクさんが確認を入れる。


「ああ、構わない。パーティ名、四つ星 (クアトロ・エステレイア)、で頼む。」


 イハートヨさんがそう言い切り、


「承知しました。ではそのように変更いたします。無事の帰還を。」


 セイクさんが了解して、パーティとして再活動を始めることになった。


「前は、七つ星 (シエテ・エステレイア)だったのだがね。」


 ニザールさんが軽く教えてくれた。そういえば、各人は◎印の刺繍をした小さな布を、装備のどこかしらかに付けていた。


 今回は、慣らし活動として、ベルンニュルクの洞窟へ向かう。


「ドラキャの操縦は、まだしたことは無いの?」


 タータルさんが、メムをなでながら聞いてくるので


「ええ、まだ、組合本部付きもあってか、そういう機会がなくて。」


 と答えると、


「まあ、しょうがないか。でも操縦に慣れれば何かと便利よ。まあ個人で持つと維持費はかかるけど。」


 とベランツさんも、メムをなでながら言う。


「もう直ぐだぞ、用意しろよ。」


 と、ドラキャを操縦しながら、イハートヨさんがみんなに告げる。

 それから間も無く、ベルンニュルクの洞窟の前に到着した。

 この洞穴は、元々、冒険ランクでローランカーからミドルランカーレベルの者が入っていける洞穴で、元々ハイランカーだったクアトロ・エステレイアの皆々にすれば、本当にいい肩慣らしと言った感じで、探索を進めていく。

 イハートヨさんが前衛役、ニザールさんが前衛補佐、ベランツさんが魔法攻撃、タータルさんが後方作業と後方支援、俺とメムは後方の見張りとアイテム拾い、という役割分担で洞窟内を進んでいく。

 ハイランカーだった皆さんの動きは、ものすごく参考になるなあ。そう思いながら、洞窟の最深部へ辿り着く。結局、洞窟内で罠らしきものは解除しまくっただけで、戦闘らしきものは無かった。


「しかし、獣がこんなにいない洞穴でしたっけ。」


 ニザールさんが、腑に落ちない、といった感じでみんなに尋ねる。


「どうするの、早いけど入口に戻ってしまう?」


 タータルさんが、リーダーに確認する。


「そうだな、少し拍子抜けな気もするが、一旦戻るか。」


 イハートヨさんがそう決断する。


「気は抜かないようにしないといけないわね。」


 ベランツさんが、油断を戒める。


 なるほど、これがハイランカー達のレベルか。パーティをいい具合に緊張感を持たせたりしているのか。戻る途中で、偶然バフロッグ3匹に遭遇したが、ものすごくあっさり、1発で倒してしまったのだった。



「ふう、肩慣らしとしては少し物足りないかな。」


 ニザールさんが洞穴入口に戻って、首を回しながら呟く。


(ダン、周辺に人の気配よ、10名くらい、賊っぽいわ。)


 メムが念話術で俺に緊急連絡してきた。


「付近に賊の気配がします。10名前後です。」


 急ぎ、みんなに伝える。


「何、本当か?」


 イハートヨさんが疑問を俺に投げる。

 その時、奥の茂みから、ゾロゾロと賊が現れた。


「よし、お前ら、おとなしく金目のものを出せ。」


 賊の集団のリーダーっぽい奴が偉そうに要求する。やられ役のテンプレ台詞だな、これ。


 そこへ、


「ロックショット!」


「フレイムカノン!」


 ベランツさんとタータルさんが、杖を出し、ほぼ同時に魔法を発動させる。

 もうもうと埃が上がり、周りの視界が遮られる。


(まずいわね、相手は6人ほど倒れたけど、こっちも2人、前衛が倒れているわ。)


 メムはこの状態でも見えるようで、念話術でそう俺に伝える。


(敵味方、両方の視界が戻った頃が勝負か。メム様、最強の囮役、お願いします。)


(わかったわよ、非常事態ね。)


 どうやら、パーティ内のコンビーネーションが低下していて、魔法を同時に発動させてしまい、前衛にもダメージがあったようだ。

埃がおさまってきて、視界が戻りつつある中、ベランツさんとタータルさんが、伸びているイハートヨさんとニザールさんを見て、誤爆させたことに気付く。しかし、賊側も、被害が出ているので、倒れた賊を放っておいて攻撃するのか、このまま倒れた賊を担いで引き上げるか、迷っているようだった。

 俺とメムは、とりあえず、倒れたイハートヨさんとニザールさんの前に立ち塞がり、ショートソードを構える。

 残った賊は3人、2人が倒れているのを見て、いけると判断したのか、まずメムに、予想通り攻撃を仕掛ける。


「集中」


 メムもこっそり鍛えていたのか、俺から何か戦い方を学んだのか、賊の攻撃をかわしつつ、カウンター気味に頭突きをヒットさせ、賊をふらつかせる。俺もメムの攻撃が予想外だったので、賊の動きがゆっくりに見えていたとはいえ、ええいままよ、と思いながら右膝を出してみると、見事に賊の顎に入って、そのままノックアウトする。

 それを見て、残りの賊2人は、慌てて踵を返し、逃げ去っていった。そこへ、ベランツさんが追い打ちをかけるつもりで魔法を発動させようとするが、タータルさんに止められる。


「ベランツ、まずうちの2人の回復を。」


「そうね、回復ポーションね。」


 とりあえず、倒れた二人を、みんなで担いで賊との戦闘現場から離れていく。

 近くに乗ってきたドラキャを停めていたので、そこまで運びこむと、二人は気がついたようだった。

 二人に回復ポーションを飲ませ、ドラキャに乗せ、街へ戻ることにする。予定より早いが、怪我人がいるのでやむを得ない。


 幸か不幸か、魔法の発動によるダメージは大きな怪我にはならなかったが、頭を打っていたようなので、タータルさんがドラキャを操縦して、街へ帰ることになった。



 夕刻に組合本部の受付に戻ると、セイクさんが意外そうな顔で


「ずいぶんお早い帰還ですね。おや、怪我人ですか。」


 と言うと、


「ちょっとトラブルが発生して、依頼はこれで完了したいの。彼は十分な働きをしたから。」


 と、タータルさんが説明して、書類をセイクさんに渡す。


「わかりました。今回の依頼はここで完了ということですね。でも一体何があったのですか。」


 すると、ぐったりしていたイハートヨさんが、頭を振りながら、


「ベルンニュルクの洞穴入口付近で賊に遭遇したのだが、味方の魔法の誤爆を喰らってしまった。俺と、ニザールがな。」


 と途切れ気味に説明した。


「まあ、わかりました。まずは家に戻って一旦怪我の治療を。」


 セイクさんがそ言うと、


「ダン君、ありがとう。後でお礼はゆっくり言わせてもらうわ。」


 とベランツさんが言って、パーティは急いで受付から離れていった。


「どうやら、再活動したのはいいのですが、細かいところでのコンビネーションが悪かったと思います。個人個人の力量はすごいですが。」


 俺は、このまま残って、セイクさんに誤爆の経緯等を説明している。


「賊の発生は、組合本部内で共有する情報としても…やはり再結成、再活動する場合はコンビネーションに不安があるのですが、今回はよくない形で出てしまいましたか。」


 セイクさんが淡々と評する。


「そういえばパーティメンバーと話した時に、前のパーティ名は七つシエテ・エステレイアだと伺ったのですが、もしかしてメンバーは7人いたとか。」


「ええ。その通りです。冒険ランクが8級のハイランカーの者たちがいて、色々活躍されていたのですが、転身、転職とかあって、活動停止したのです。再結成、再活動するにしても各メンバー家庭を持ったりすると、難しくなることもありますから。」


「ふーん。パーティ結成するにしてもそこも考えないといけないし、というところか。あ、ところで、依頼完了でいいのかな。」


「ええ、代金は、こちらになります。書類はもらったのですが、1日で終わると思わなかったです。」


「まあ、でもいろいろ勉強になりました。」


 と言うことで、俺たちの臨時パーティメンバーの活動は終わったのであった。

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