250弾 高難度試験の準備に取り掛かろう?
まず、俺が飼い主となり益獣としてフォグコリン種の登録を行う。
「はい、バンナという名前なのですね。でもいいですね。美しいグランドキャットに可愛いフォグコリン、ニシキ様が羨ましくなります。」
セイクさんがそう言いながら登録を済ませてくれる。ただセイクさんは、多分この後訪れるであろう飼い主の地獄のような苦労を知りはしないだろう。
「では、報告書類を渡しますので、確認お願いします。」
ヘルバティアが緊張の面持ちでセイクさんへ何か書類を渡す。
「はい、確認いたします。……特訓所からは連絡は来ていましたが……なるほど。ではこちらも少し急ぐ必要があるやもしれませんね。」
うーん、何を話しているのかよくわからないが、エビンロコ山の特訓所からヘルバティアに託され渡された報告書類には、一体何が書かれていたのかは気になる。
「そう言えば、以前に特にイダーゴンの葉と狂獣の情報はしっかり集めて確認するとか話していましたが、何か新たに情報でもあるとかですか。」
俺が特訓所からの報告書類の内容を気にしながら、何気なくセイクさんに質問すると、
「……ニシキ様は時にとんでもなくいい勘というか、すごいタイミングでエグい質問しますね。実はそれらの情報が入ってきまして……、エビンロコ山特訓所からの報告では、もう何も特訓することがない、さっさとイダーゴンの葉を得て、狂獣を倒してしまう事は確実とまでの評価が出てまして。ニシキ様は一体何をしたのですか?。」
セイクさんが驚きの表情で逆にそう俺に質問で返してくる。
「ただ協働戦でオラオライオンを倒してしまっただけだと思いますが……。」
「いえいえ、報告では特訓所で八面六臂の大活躍となっていますよ。連れているグランドキャットに技まで仕込んで暴れまくったとも書かれていますが……。」
えっと、一体どんな報告書の内容なんだろう……。そして3姉妹とメムがセイクさんと俺の会話を聞きながら小さくうなずいているのはどういう事なのだろうか。
「ええ、ですから、そうですね……少し急いで書類を作って、5日後にはランクアップ試験を始めることになるでしょうから、それまでにランクアップ試験のため準備をしておいてください。」
「えっと、それは、イダーゴンの葉を集めて、ヘビースネークを2頭倒しに行くということですか?。」
「ええ、そうよ。そういうことになるから、ニシキさん、メムちゃん。頼りにしてるから。」
ヘルバティアが俺とメムにそう言ってメムの頭を撫でる。
「この報告書類は組合本部長にも提出しておきます。特訓所から試験受験にゴーサインが出たのですから。しかもとんでもなく高評価な結果で。イヤァオ!。」
セイクさんもテンションを抑え気味にしていたのようだが、もう抑えられないようだ。
「わかりました。では明日を含めて5日後にこの窓口に来ればいいのですね。」
「エヘン、はい、それでお願いします。では。」
ヘルバティアが日程を確認すると、セイクさんはそう言ってうなずいて、事務所の奥に急ぎ姿を消した。
組合本部を出てから、
「じゃあこれから装備品やらポーションやら買い出しね……。」
ミアンがそう言って何を買おうか考えだす。
「しかし、2ヶ月ぐらい特訓のはずだったのに、試験の日程が早まったようなものか。」
ミヤンはそう言って少し不安げな表情をしながらバンナを構おうとする。
「まあ、避けては通れない試験だから。記念受験みたいになるかもしれないけど、やれることはやっておきましょう。」
リーダーとしてヘルバティアがそう言って一度まとめにかかる。
「ふぅーっ………。」
「ニシキはん、どしたのでっか。そんな大きなため息ついて。それに試験って何ですか?。」
バンナが小声で俺の耳元にふわりと飛びながら聞いてくる。
ああ、そうか。まだ今のこの俺たちの状況を説明してなかったな。
「リーダー、俺はメムと先に帰って、このバンナに試験とかについて説明したいのですけど、よろしいですか。」
「そうか、そうね。いいわよ、先に帰って。鍵はじゃあ渡しておくから。」
「えっと、では私も。」
ミヤンがそれに便乗しようとして、ミアンに思いっきり殺気のこもった目でにらまれる。
「あなたの装備品のこともあるのよ、ミヤン、分かっているのかしら。」
「そんな、ミアン姉さん。後生ですから、私も一緒に説明の補助役としてニシキさんの説明をフォローするから。」
「とてもそんなふうには見えないわね。いい、ティア姉さんもメムと一緒にいる時間を削ってでも買い出しを優先しているの。あなただけわがまま言ってどうするの。説明の補佐なんて後でニシキさんやバンナちゃんからの質問を聞いて答えればいいのよ。」
ミアンの至極もっともな説明にミヤンはあっさり撃沈する。
「ワカリ、マシ、タ。」
「何、ミ・ヤ・ン。不服なのかしら。」
「いえ、そんなこと、ありません。」
ミヤンのイヤイヤな気持ちが回答によっく出ているが。
「まあ、喧嘩せずに仲良く買い出しをしてください。俺とメムとバンナは後日装備品を見繕っておくつもりですから。」
「いいわよ、飼い主としてしっかり教育ね。じゃあよろしくお願いね。」
ヘルバティアがそう言って了承してくれたので、俺とメムとバンナは3姉妹と別れ、下宿先へ先に戻る。
「ふう、なんか、あないに気に入られると……、ウチもちょっとしんどいでんな。」
先に下宿に戻って自部屋に入ると、バンナがぼやく。
「ああ、まあ、あれは向こうも距離感を掴んでくれたら、多分マシになるからね。」
メムがそう言ってバンナをフォローする。確かにメムもこの下宿に来た当初は、ヘルバティアにかなり付きまとわれていたな。
「人の振り見て我が振り直せ、っていう諺があったからなあ……。」
俺がそう呟くと、
「んん?、今ニシキはんが呟いたのはどういう意味でっか?。」
バンナが俺の呟きを耳にして首を傾げながら俺の肩元にフワリと飛び乗って聞いてくる。
「うーん、確か、他人の行動を見て感じることがあったら、わが身を振り返り、改めるべきところを改めよ、という意味です。この場合は、かつてヘルバティアがメムに付きまとっていて、双子妹がヘルバティアを抑えていたのですが、その行動を思い出してミヤンも自省してバンナバンナと付きまとわないようにすれば、というところでしょう。ですよね、メム様。」
「へー、学びになりまんなあ。」
「何か私にも刺さってくる感じなのは何故かしら……。」
俺の説明に納得して感嘆するバンナ、思い当たる節があるのか顔を背けて呟くメム。まあ、反省して改まればそれでいいけど。
「ああ、そうや、で、試験ていうのは何でっか。」
「冒険者としての能力、実績を鑑みて級別にランキングをつけていきます。そのランキングで受けられる依頼とその代金が決まってくるものです。最高位が10級というランキングでそこのランクに達すると、ロストエリアに行くことができるのです。で、俺たちがこれからその10級のランクアップ試験を受けようとしています。バンナ様と最初に会った時は、その試験を受かる確率を上げるようにするために特訓をしていたのですよ。」
「ロストエリア、それって、世界の元中心とかいう、なーるほど、あそこか。オトンらと一緒に上空を飛んだことはあるけど、ごっつ飛びにくかったなあ……。」
バンナの発言に俺は思わずバンナを凝視してしまう。
「ねえ、バンナ。そこはどんな感じなの、飛びにくいって何、何。」
ミヤンも俺と同じような好奇心を抱いたのか、俺が聞き出すより先に聞いてくる。
「えーっと、なんていうか、飛んでて思ったのは、ごっつう天気が変わりまくる、ということやな。なんせ晴れてたのに、急に雲が出てきて雹が降ってきたり雨になったり、また晴れてきたら今度は大風が吹きまくったりして飛ぶのには難儀したさかいにな。」
俺とメムはそれを聞いて互いに顔を見あわせる。
「「うーん。」」
メムと俺がハモりながらうめく。上空でもそんなに気候が変わりやすいとは………。




