248弾 この珍獣と一緒に帰ろう
「ミヤンはんの気合の入ったその言葉、このバンナいたく感動いたしました。おおきに、ありがとうございます。」
バンナがそう言ってミヤンに感謝の意思を示す。
「いやいや、そんな体だとね、あっという間に悪い奴らにさらわれて、ああぅ……。」
ミヤンは想像力豊かに何かを思って、変な声を出して悶える。
「ああ、ウチもこれはいわゆる節約モードみたいなものでっさかい。」
「「「「「はい?。」」」」」
バンナの発言に全員がハモって首を傾げる。
「ああ、一応ウチは変形というか、変身というか。まあ、ちょっと広めの場所へ出てもらえれば説明しやすいんですけど。」
「じゃあ、裏庭に行きますか。」
俺はそう言ってバンナに説明してもらうため、みんなと裏庭に出てみる。
「ああ、じゃあ、ここら辺で。ちょっと離れてもらえれば、ええ。」
バンナが裏庭でそう言って皆を少し離れて立つように指示を出し、
ボワン
音と共に白煙がブワッと上がり、
「まあ、こんな感じになりま。」
ホードラと同じような大きさになったバンナがいたのだった。
「これは、一体………。」
「本当に急に大きくなった?。」
「こんな能力が?。」
「な、何これ。」
「大きくなってもきゃわいい。」
一人は驚きを示していないが、
「まあ、通常モードというか、これでウチは思いっきり空も飛べることができま。」
「じゃあ普段は節約モードという感じで、小さくなっているということか?。」
「はい、ニシキはんの言う通りで。通常モードはごっつう力使うよって、後で大量に飲み食いせんといろいろ維持できひんので、普段は節約モードで小そうなっております。」
バンナが説明してくれるのを俺たちは半ば口を開いて聞き入っている。
ボワン
またブワッと白煙が上がり、また小さくなったバンナを見つめる俺たち。
「まあ、基本は節約モードでやってますんで。」
「こりゃあ、驚きだなあ……。ところで、バンナ様。」
「そんなかしこまって言わんでもええねんけど……、まあ飼い主がらしくない気もするけど。何でっしゃろ、ニシキはん。」
「いえ、その訛りはどこで身につけたのかと思ってまして……。」
「ああ、これ。オトンとオカンの会話もこれやったさかい、それでこうなったのやと思いますけど。」
「……そうですか。」
まあ、関西弁みたいなものを使う場所がこの異世界のトゥーアールにもあるのだろう……。
「あの訛りは、多分カサーオ地方でよく使われる訛りですね。まあカサーオ地方から、世界のあちこちに移住したりして広がっていっているので。」
ミアンがそう俺に教えてくれる。
皆が連れ立って居間に戻って席に着くと、ヘルバティアが宣言する。
「まあ、何やかんやとありましたが、明日朝には出発します。ヨーンノガクトの街で一泊して、イチノシティの街へ戻ることになります。エビンロコ山の特訓所での特訓、お疲れ様でした。」
「えーと、このバンナ様をこのまま連れていって大丈夫ですか。」
「大丈夫ですよ。ニシキさんの益獣として登録予定なのですから。」
ミヤンがバンナを右肩に乗っけながら言う。
「じゃあ、イチノシティの街に戻ってから登録すればいいわけですね。」
「ええ、それで大丈夫でしょう。」
ミアンがそう言うと、ミヤンが悲しそうな顔をする。
「ねえ、ニシキさん。やっぱり、私の益獣として登録しては……いえ、失礼しました。」
ミアンが呆れた表情でミヤンを眺めているのを、ミヤンも認識して発言を途中で打ち切る。
「では、これからはちょっと中途半端になったロッジ周辺の掃除をしますか。」
俺はそう言って、メムとそしてバンナと一緒にボロ布人形の置き場に再度向かうことにした。
とはいえ、だいたい掃除をしていたからあっさり終えて、ロッジ内の掃除をしている3姉妹に合流して手伝うことにする。
「お疲れ様でした。荷物もまとめ終えていますし、あとは夕食と明日の朝食ですね。」
とミアン。
「バンナちゃんの分の食事は私の分から分けてあげるから。」
「じゃあ、メムちゃんの食事は、私の分を分けてあげる。」
「メムの分は元々用意されていましたが……。それに、俺が持っている携帯食糧にしますので。姉妹で張り合わないでください。」
ミヤンとヘルバティアがお互いに益獣を可愛がりあって、妙に張り合い出しているので、やんわり釘を刺しておく。
やがて時間になり夕食が届けられて、昨日と同じような豪華なメニューに、新たに加入したバンナも舌鼓を打ちながら夕食を終える。
「じゃあ俺が最後に入浴しますので、メム様は見張りをお願いします。」
夕食を終えて入浴をするが、ミヤンがバンナと一緒に入浴したがるが、俺としてはそれは断り、メムに見張り役を頼み、俺とバンナが一緒に入浴する。
「ああ、ええ湯でんなあー。」
洗面桶の中での入浴であるがバンナも満足そうであった。メムはヘルバティアと一緒になって風呂場に入ってこようとするミヤンを押しとどめていた。
「ミヤンはんも、そんなしつこく付き纏わなくてもとは思いますが、ニシキはんはどう思いまっか?。」
「まあ、そのうち落ち着きますよ。ええ、多分……。」
「そうでっか、ああ、図々しいお願いなのですが寝るところは、ニシキはんの付近にしたいのですがよろしいでっか?。」
「ええ、メムと一緒になりますがいいですか。」
「まあ、絡むことがなければよろしゅうおま。」
「なんとかしてみましょう。」
ということで俺とメムの寝室にバンナが入ってくる。とりあえず分配したアクアウォルフの毛皮を敷いてバンナの寝床を作る。寝室のテーブルの上でいいか。まあ節約モードのために小柄な体だしな。
「ふう、これでよし。」
「ああ、おおきに、ありがとうございます。」
「じゃあ、ゆっくりお休みを。」
「ダン、えらい特訓になったわね。まあ、私は必殺技を開発できたし使うことができたからいいけど。ダンにも付き合ってもらって助かったわ。」
「まあこっちも、魔弾の研究と開発が進んだし。」
「へえ、メムはん、必殺技なんて開発できるのでっか。すっごいでんなあ。」
そう言ってバンナがメムを感嘆の眼差しで見つめる。
「ええ、そう?、そう。でへへ。」
バンナに言われたメムがだらしなく相好を崩し照れる。
「さて、じゃあもう寝ますか。」
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
そして俺とメムとバンナは眠りについた。
眠りにつきながら俺は、メムとバンナがこれから仲良くなることを願ったのだった。
翌朝、この広い特訓所を離れる。朝起きて、携帯食糧の簡単な朝食をとり、ドラキャに乗り込みロッジを離れる。
途中でドラキャを止めて、ヘルバティアとミアンが事務棟に寄ってから、再びドラキャを走らせる。来た時とは逆の道を走り、しばらくはダラダラと下り坂を下りエビンロコ山がだんだん遠ざかっていくのを見ながら少しの感傷とメムとの必殺技開発のことを思い出し、その日々の思い出に耽る。
交代でドラキャを操縦して夕刻の少し早い時間にヨーンノガクトの街に到着してどうやら特訓所から紹介か先に予約をしたらしい宿にドラキャを止める。というかこの宿って……、俺はデジャブ感に囚われながら宿泊する部屋に。その部屋の隅には大きめの棺桶のような箱が置かれていた。
「何やろう、これは。」
バンナがその棺桶のような箱に触れながら呟く。
「ああ、これは、就寝箱ですね。」
俺がそう呟くと、
「は、就寝箱?、何をするための箱でっか。」
バンナは初めて見るもののようなのでそう聞いてくる。
「特訓後も間違いが起きないようにするための寝床です。男は俺1人なのでそこに入って寝ればちょうどいいのです。」
と俺は開き直った気分でバンナに説明する。
「もう分かっているじゃない。いいじゃないの、またダンはここで寝てしまえば、いろいろ安心安全ということね。」
メムがニヤニヤしながら俺に向けて言ってくる。これ前にも見たシーンだな……。
「メム様、今度は言い出しっぺが入ってみるのが、自然な流れだと思いますが。」
「何言ってるのよ!。メムちゃんと私が一緒に寝るのよ。」
「バンナちゃんとは私が一緒に寝るわよ!。」
横合いからメムちゃんラブのヘルバティアと、バンナちゃんラブとなったミヤンが、連続して強い口調で言ってくる。
まあやっぱりそうなるか。またあきらめてこのカプセルベットみたいな就寝箱に入って眠ることになる。
俺はこの箱でよく眠れたのだった。でもこれまた何か釈然としないというか、なんか納得できねー……。
その翌日の朝にはヨーンノガクトの街を発つと、交代でドラキャを操縦して、夕刻にはイチノシティの街に着き、下宿先に戻ったのだった。




