233弾 この姉妹喧嘩、収めてみよう
「もしかして、ヘルバティアさんとしては、ここまでいくと自分の力じゃ止められないとか、姉の威厳が欠けるとかの理由で放置して見ているのでしょうか?。イテッ。」
俺がそう質問してみると腹部にヘルバティアからいいパンチを喰らう。
「まあ、ただ見てちょうだい、それだけよ。」
ヘルバティアはそう言うが、表情を見ればどうやら俺の言ったことは図星のようだ。
「よーし、さあお二人さん、やっちゃえやっちゃえ。」
こっちはもう、只の煽り人いや煽り猫になっているメム。女神の威厳もへったくれもない。性格悪いなあ……。
「ねえ、ダン。どっちが勝つか賭けない、イテッ。」
メムが賭けにまでしようとするあたりで悪ノリが過ぎるので、とりあえず一発ゲンコツを食らわせて黙らせようとするが、
「ねえ、女の子同士の戦いを止めたいの、それとも見たいの。ダンはどっちかしら。」
とさらに続けて言ってくる。
「やっぱり俺は自室にこもっていましょうか?。正直、もうどうでもよくなってきましたので。そもそも、話し合いはどこに行ってしまうのでしょうかね。俺の魔術についての説明をと言う趣旨は無かったことにしましょうか。まあ、そもそも他人の魔術にはあまり立ち入らないのがこの世界の慣習というかルールみたいなものでしたよね。」
「まあまあ、ダン。いいじゃない、ある意味これで双子の稽古になるのでしょうから。」
メムとそう会話をしているうちに、
バシッ
バシッ
二人のビンタの応酬から戦いは開始される。
しかしいつも冷静なミアンがここまで熱くなるのも珍しい気はするが……。
ミヤンが左足でミドルキックをミアンの腹部に打ち込もうとするのをミアンが受けてミヤンの左足を関節技に極めようとする。そこを、ミヤンが右足で蹴りはがして一瞬距離を取る。ミアンが右拳をジャブのように突き出しての三連打、ミヤンはそれを全てかわすが、そこへミアンが右足の回し蹴りを喰らわそうとする。ミヤンは両腕でガードをしっかりして受け切る。互いに間合いをとって一度2人は息を整えると、
「はあぁあっ。」
「おりゃあっ。」
気合い声とともに両者飛び蹴りの撃ち合いとなり、……両者ノックアウトになる。
「はい、ドローね。今回はあっさりと終わったわね。」
ヘルバティアがそう言いながら二人の間に割って入る。
よし、このどさくさでもう俺もこの場を去るか、そう思ってこの場から離れようとしたら、
「何仕切っているのよ、このちび姉ちゃん。」
大の字になりながらミアンが悪口をヘルバティアに浴びせる。
「本当、ちんちくりんなくせに仕切るのだけは上手なんだもん。」
ミヤンもさらに追撃するようにヘルバティアに悪口を浴びせる。
おいおいおい、これで終わらないのか……。
メムを見ると、目をらんらんと輝かせてこの状況を楽しんでいるようだ。こりゃ止める気ゼロだな……。
メムが俺を見て、
「ダン、これはもっと面白くなってきたわね。止めちゃダメよ、ここまできたら。」
とのたまう。
それを聞いて俺は大きくため息をつく。しかしそんな会話の間にも、
「ちんちくりんで悪かったわね、悔しければあんたたちもそうなってみなさいよ。」
「誰が、こんなお子様体型になるもんですか。色気なしのそんな体型になんか。」
「ふん、体型だけで色気の有無を判断しちゃダメでしょうが。女の価値は体型だけじゃ決まらないのよ。そんなこともわからないようじゃミアンもミヤンも所詮中身がお子ちゃまね。」
「何たわごと言ってるのよ。この世は見かけで判断されるから、私たちと歩くと、ティア姉ちゃん、長姉と見られなくて散々末妹扱いされてきたもんね。」
「悔しければ私たちのように成長するためにもっと努力したら。」
「ムキー、そんなこと言ってるから2人とも彼氏に逃げられまくってるのじゃないの。」
「「そう言うティア姉ちゃんも、一人で街に出たら警備隊員に声をかけられて迷子の子供扱いされてばかりじゃないの。」」
えらく散々な口喧嘩になってしまっている。
「メム様、俺はもう放っておきますがいいですか。メム様だけが楽しんで下さい。」
あまりに収拾がつきそうにないし、女同士の喧嘩に、野郎が、特に俺みたいな中身がおっさんな者が入ってもロクな事にならない。放っておくのが一番だ。まあ後は流れに任せておくか。そう思ってこの場を本当に離れるつもりで一歩踏み出した瞬間、
「ちょっと、そこの3人。」
メムが声を張り上げて口喧嘩を抑える。
やっと止める気になったか……。そう思ったのも束の間、
「じゃあ、ここにいるダンに、この中の3人のうちで誰が一番いい女か決めて貰えばいいのじゃないの。」
とメムがとんでもないことを言い出した。
「おいっ!!、メム!、なんて事を……。」
あまりのことに思わず俺がメムに対して敬称をつけずに文句を言おうとするが、3姉妹の視線が俺に突き刺さるのを感じてしまう。3姉妹を見ると、
「そうね、メムちゃんの言う通りね………。」
「その手があったわね………。」
「ニシキさんに決めてもらうか………。」
ヘルバティア、ミアン、ミヤンがそう言ってまるで獲物を見つけたケダモノのような目で俺をにらんできた。これは、下手な回答をすると俺の命にかかることになるかもしれないし、ここからダッシュで逃げ出したいが、3姉妹の放つ不気味な圧が俺の足を縛りつける。
(おいっ。メム、お前はなんて事を言いやがる。こんなの解答不能だ。)
(どう、私は強制ハーレムフラグを立てる選択肢を生み出したのよ。)
(テメェ、自分が楽しみたいだけだろう。)
(さあ、頑張って決めてね。)
念話術で猛抗議をしてみるが、完全に遊んでやがるな、この元女神猫。
しかし、じわじわと3姉妹が近づきながら
「やっぱり、リーダーであるこの私よね。」
「この中で一番冷静なこの私でしょ。」
「ニシキさんと一番戦ったこの私でしょ。」
と言ってくる。
「あのー、そんな今急いで決める話ではないと思いますが、この話は後日。」
「何よ、ダン、ここはビシッと決めちゃいなさいよ。」
メムが3姉妹に合流する形で俺に接近しながら俺の3姉妹への説得を潰しにかかる。
何か今までの経緯からこうなったのを考えると、だんだん腹が立ってきた。
「あー、わかりました。そんな殺気を出して接近しないで下さい。じゃあ皆さんはそこで一旦じっと止まってください。」
そう言って俺は皆をその場に留めさせる。
「えーと、じゃあ目を閉じていて下さい。」
俺はそう言って3姉妹の目を閉じてもらうことにする。そこは素直に聞いてくれて、おまけにメムまで目を閉じてくれる。
「えー、ダンも意外と大胆な事を考えたのね。誰かに決めてその子に接吻でもするつもりかしら。目を閉じさせれば興奮もするわよね。」
そう言うメム自身が興奮し出している。
「そういえばさっき、俺の魔術について確認したいと言ってましたね……。」
「何、ダンってば、もうー、焦らしにきたわね。いやー、やるじゃない、興奮が増してくるわね。誰と接吻するのか。」
メムは興奮して話が止まらないような感じになっている。
俺は拳銃を出して、【火炎弾】の魔弾を一発、空の弾倉に装填して、狙いをつける。
「じゃあ、結果を発表します。」
3姉妹とメムが固唾を飲んでじっと身を固めて結果を聞こうとする。
俺はハンマーを起こし、引き金を引き、【火炎弾】の魔弾を3姉妹の足元目掛けてぶっ放す。
ドシュッ
ジュドーン
見事に狙い通り炸裂し、地面が爆発して、3姉妹とメムが吹っ飛んでいく。
「いい加減にしやがれ!!。しょうもない喧嘩に人を巻き込むんじゃない!!。」
俺はそう叫んで拳銃を納めて、その場を立ち去って寝室に戻った。
俺の答えは、『そんな選択肢をぶっ潰す』、だった。




