218弾 人を起こす時、気をつけよう?
研究といっても今回は、新型の魔弾の開発をした上で、文字数と体力消費の関係をどうやって調べるかを課題としてるのだが、
「うーん、実際に作って撃ってみて調べるしかないのだけどなあ。」
独り言のように思わず愚痴が出てしまう。
「どうしたの、ダン。」
怪気炎を上げていたメムが、俺の愚痴を聞き取り怪訝な表情をしながら俺に話しかける。
「測定機みたいなものがないから自分の感覚になるのだようなあ。それじゃあ魔力何ポイント使ったってわからないからなあ……。」
メムの問いかけにまた愚痴を漏らしてしまう。
「まあ、ダンが愚痴るのは珍しい気がするけど。もうすぐ昼食よ。」
「ああ、そうですね。もうこうなったら一休みしますか。」
ロッジの玄関前に出て外の空気を吸っていると、特訓所所員が昼食を届けてくれる。
昼食をとりながらメムとよもやま話をして気分を変えて、食事後はまた研究に勤しむ。ロッジの居間でしばらく研究をしているところに、本日は何かあったのかこの所は夕食時刻ぐらいに戻ってくる3姉妹が早々と夕食まであと2時間のところで戻ってきたのだった。
「おや、ずいぶんお早いお戻りで……。」
3姉妹を見ながら少し俺は驚く。メムも同様の表情をしている。
「ああ、ニシキさんは魔術の研究中でしたね。」
疲れ切った表情でヘルバティアが戻っての開口一番である。
「そういえばメムちゃんの必殺技名も完成したのですか?。」
とミアンが俺とメムに聞いてくる。
「もうバッチリよ。そのうち披露するから。」
ものすごいドヤ顔でメムが胸を張って言ってくる。
「しかし、どうかしたのですか。みなさん疲労もかなり溜まりに溜まっている感じですし。」
俺は3姉妹の疲労感が気になってきて聞いてみる。
「……ああ、疲労が溜まりすぎたのか、どうも思うように体が動かない……。」
「…なるほど、ミヤンさんが一番疲労しているように見えますが。」
俺の問いかけに最初に答えたミヤンの声がかなりかすれ気味な様子から、相当にハードな特訓をしていることはわかるが。
「ティア姉さん、ここはやっぱり明日ニシキさんに協力してもらうのがいいのでは。」
ミアンが深刻な表情と声でヘルバティアにそう言ってくる。
(3姉妹に何かあったのかしら、ダンはどう思うの。)
メムが念話術で俺に聞いてくる。気を使ったのだろう。
「ふー、よく分かりませんが、俺が聞いてみますか。あのー、皆さんは何かあって俺に協力してということですか。」
「あのー、一緒に、明日、私たちの特訓に……、来てもらってくれれば、……ありがたいのですが……。」
ヘルバティアが歯切れ悪く言ってくる。
「何か問題があったのですか。特訓に一緒に行くのは、俺とメムとしてははやぶさかではないですが、そんな奥歯にものが挟まったような言い方だと……。」
「でしたら、実際にニシキさんたちに見ててもらいましょう。ミヤン、ティア姉さん。そうしましょう。」
「ダン、いいの?。あなたの魔術の研究が後回しになりかねないわよ。」
「こうなったら見るだけ見てみましょう。それに戦闘スタイルを変えてみるのも一つの手では、とアドバイスしたのは俺なのですから。アドバイスの責任は負うべきでしょうし。」
「ありがとうございます。ニシキさん。」
ミアンがそうお礼を言ってくれる。ヘルバティアとミヤンが疲れ切っているせいか椅子に座りウツラウツラとし出している。
「まず、しっかり休みますか。3人は先に入浴して休んでください。」
3姉妹がメムとヘルバティア、ミアンとミヤンの組み合わせで入浴する。メムは3姉妹が寝落ちしないように見張る仕事もしてくれる。
「寝落ちしたら、ダンが全裸の状態の彼女たちを寝室に運べば面白いことに。」
「やめてください。ちゃんと見張って服は着せてやってください。湯冷めから体調を崩すとあと大変ですから。」
メムが変なことを言い出すので、大慌てでそれを潰しにかかるために被せ気味に言う。
「でも日の明るいうちに入浴なんて贅沢ね。ダンは昼から入浴とか朝から飲むとかはしたことはないのかしら。」
「朝寝朝酒朝湯が大好きで それで身上潰した。」
「ハァー モットモダ モットモダ。……何合いの手入れさせるのよ。まあそう言うってことはそんなことはしたことが。」
「ありません。若い時は深酒、飲み過ぎ、二日酔い、と言うコースは経験していましたが。そもそもそんな潰したと言われるほどの身上、財産ありませんので。」
俺とメムは、そんな会話をしながら彼女たちを無事に入浴を終えさせて、夕食まで一休みしてもらう。
夕食を受け取り配膳を済ませて、
「メム様、ヘルバティアたちを起こしてやってくれませんか。」
「わかったわ。夕食の時間だものね。」
メムを3姉妹の寝室へ起こしにやってみんなで夕食になるのだが、……何か部屋からけたたましい声がする。すわ何事かと急ぎ3姉妹のいる寝室まで行くと、
「ちょっと、ちょっと。起きて、いや、やめて、モフモフしないで。ヘルバティア、寝ぼけてないで、起きて。」
メムが起こすのに手間取っているのか、そんな声がする。
ここは俺が入室するべきか、見守るべきか、実に難題である。しばし思案する。
「ちょっと、ダン。いるんでしょ、そこに。助けて、助けて。」
メムの声が悲鳴に近くなる。もうこうなったら、でも、用心のためにドアを一度ノックして、
「いいですか、入りますよ。」
そう言って寝室に入ると、
「ダン、ヘルバティアから引き離して。…抱え込まれて、動けないの……。」
そこには、ヘルバティアに手と足で木にしがみつくようにがっちり抱きしめられて、抱き枕のようになってしまったメムがいた。
「……えーっと、じゃあ皆さん夕食はなしということで、おやすみなさい。」
俺がそう言って部屋から出ようとすると、
「ちょっと、ちょっと、なんとかしなさいよ。ていうか何逃げようとしてるのよ。そんなことしたら後でおどおどろしい思いを味わうことになるわよ。」
「いや、これは……あきらめましょう。俺には、ヘルバティアからメム様を離す手段が見つかりません。」
「あきらめるの早くない。いいの、本当におどろおどろしい思いをすることになるわよ。ダンが寝室に侵入してこの3姉妹にイタズラしまくったことをでっち上げてやるんだから。もっとこれ以上えげつないことをでっち上げることもできるからね。」
これ、マジでヤバい状況か。脅しに屈するのはイヤだが、セクハラまがいのガセネタを彼女らに吹き込まれるのも後々大変なことになるからなあ。
「でも、このホールドされた状態、どうやって解きますか。」
「眠れる姫様には王子様のキッスが相場よ。ダン。」
メムはホールドされたままでそう言うが、仕様がないから、まずヘルバティアの体をくすぐってみる。
こちょこちょこちょ。
「いやぁあん、クスクスクス。」
「今なら抜け出れますよ。」
「うーん、よしっと。」
うまくメムは脱出できたようだ。
「メム様、まずミアンとミヤンを起こして、その後ヘルバティアを起こしましょう。」
「そうね、じゃあヘルバティアはダンがキッスで起こして。」
「ここは物語の世界じゃありませんし、俺は王子様というよりおじ様ですから、普通に起こしますよ。」
俺がそう言ってメムの注文を拒否すると、メムが怪訝な表情をして、
「えー、また親父ギャグ。」
と言い出すので
「と・に・か・く、ミアンとミヤンを起こしてきてください。」
そう言っているとヘルバティアが眼を覚ます。キョトンとした表情で俺を見つめる。と急に表情が険しく変化して、
「いやーーーーーーっ。」
そう悲鳴をあげて俺の顔面にパンチを叩き込んだ。
「どーもすみません。私はかなり疲れていたようでよく眠っていたので、ついうっかり。起こしに来てくれたところに、……申し訳ありません。」
左頬に湿布を貼って、俺は夕食を食べている。寝室に入った理由についてメムと俺が必死に3姉妹に説明して、了解はしてもらっている。
ヘルバティアの詫びは続く。
「それにメムちゃんにもあんながっしりと抱きついてしまうなんて、本当にごめんなさい。」
「ええまあ、夕食後はしっかり休んでください。」
「いいのよ、ヘルバティア。かわしきれなかったダンも悪いのだから。それにダンとしてはもう少しぶって欲しかったって思っているから。新たな扉を開いたはずよ。」
「メム様、俺が全く思っていないことを勝手にでっち上げないでください……。」
夕食はこうして進んでいった。




