215弾 この必殺技見事だろう?
「ふぅ、これで必殺技ができたのだけど……。」
メムが何か考え込んでいて、俺の祝いの言葉も届いていないようだ。
「どうしましたか、何か不満な点でも。」
「多分この必殺技に、ダンは何点か弱点になりそうなところがあると思っているわね。」
「え、まあそうですが。」
「この必殺技もまだ一発目よ、私が発動させたのは。」
メムが俺の考えを見抜いている、といった感じの目で俺を見ながらそう言う。
「じゃあ、必殺技を打つことで体力が落ちたりやスタミナが切れて必殺技としての威力が落ちる可能性は。」
「当然考えているわよ。まあその対策は今後考えていくしかないでしょう。」
どうやら、メムもわかっているようである。
「じゃあなぜ考え込んでいたのですか。」
「そーねー、この必殺技の名前をどうしょうか思っているのよ。」
「……ああ、そうですか。じゃあメム様のネーミングセンスに期待しますので。」
もう必殺技の名前はメムの好きにすればいいと思うのだが……、これ以上は付き合い切れない。
「いやーねー、必殺技の開発よ。必殺技名まで開発するに決まっているでしょう。ということだから、ダン、あなたも私に協力しなさい。」
「は……、いやいやいや、メム様が使う必殺技ですから。どうぞメム様が考えてください。俺は一切口出ししませんので。最初に色々言ってたじゃないですか、『ナインヘッドドラゴンスマッシュ』とか『ダブルスマッシュ・デストロイナックル』とか『メムニウム光線』とか『女神忍法ファイヤーバードドラゴンアタック』とか『バーニングヘッドバッド』とか。」
言外に協力する気がないことを含めて、そうまくし立てててみるが、
「ああ、ダンが今言ったあれ、私のこの必殺技の内容と、必殺技名が全く合っていないじゃない。いい、必殺技名よ、いわゆるフィニッシュホールドよ、必殺技で必ず強敵を倒す前には、必殺技名を叫ぶのが様式美なのよ!。そんないい加減な名前をつけるわけにはいかないのよ!。」
メムが青筋を立ててそう主張する。というか、必殺技名を叫ぶのが様式美って、どこで誰から学んだのだろうか……。
「まあそれより、まだ一発しか出せていないのですから、あと二発ほどこの必殺技を出してみて仕上げましょう。必殺技この一発だけでは、必殺技名どころかただのまぐれの一発になっちゃいますよ、それでもいいのなら構いませんが。」
「……そうね、ダンの言うことも一理あるわね。じゃあこのあともう一発必殺技を発動させてみるわ。それと昼食後にもう一発ね。」
「必殺技名を考えるより、必殺技の完成度を上げることを最優先にしましょう、メム様。」
「わかったわ。」
まずは必殺技の完成を進めることにする。
「はぁああーっっ!!。」
ドカバギャ、ドサッ。
初のメムの必殺技を発動したあと、休憩と防具のチェックをしてから、メムがもう一度必殺技の発動をさせる。
「ふぅー、……いや、お見事です。メム様。さっきのより威力は上がっている感じがします。」
「そう?、さっきと違って連続技の構成を少し変えてみたのだけど、これもイケるわね。」
「いいですよ、じゃあこのあとは昼食にしてそのあと一発必殺技を決めますか。」
「ええ、いいわよ。でもやっぱり、必殺技名を叫んでから発動させるともっと威力が上がりそうだけど……。」
「まあ、必殺技名については、昼食後に一発必殺技を決め切ってからにしましょう。」
俺は、メムが必殺技名を考えることに意識を集中させることのないように油断することなく声をかけて必殺技の完成を急ぐことにする。
本音は、必殺技名をメムと一緒に考えるのが嫌なので、先延ばしして誤魔化すつもりなのだが。
「しかし、もう防具は使いにくいのじゃないの、かなり傷めてしまったわね。」
今までメムの攻撃技と必殺技を受け切ったこの不動の受防具も、ここにきてかなりボロボロになってしまっている。
「メム様の努力の成果でしょう。」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、昼食後はそんな薄着で必殺技を受けようとするつもりかしら。」
「そんなことはしませんから。普段の冒険者としての時の装備と格好をしますから。」
「じゃあ、かなりダンが危険じゃないかしら。」
「回復ポーションは多い目に持っていきますので。手加減はなしでかかってください。」
この不動の受防具越しではなく、実際にどんな感じか、実戦的に受けてみてもいいのかもしれないからな。まあちょっと怖いけど。
そう思いながらロッジに戻ってしばらく休憩する。そのうちに昼食の時間になり、特訓所の所員が昼食を持ってきてくれるので、昼食にする。
昼食をとりながら、
「メム様、俺はこの必殺技をかわしてみますが、気になさらずに必殺技を発動させてください。」
あらかじめそう言っておく。
「いいのね、本当にいいのね。」
メムが少し驚きながらそう言って確認する。
昼食が終わり、後片付けをしてから、準備をして装備を確認する。拳銃は持って行かないでおく。
「さて、必殺技をやってみてください。」
俺が庭の隅に出ていき、両拳を握り、親指をあごに当てるようにしてボクサーのように構える。
「じゃあ、いくわよ。」
口数少なくメムが突進してくる。
「集中。」
メムの突進を見て俺はすぐにそう呟く。
メムの動きがゆっくりと見える。
まず最初は闘牛のように突進して腹部への頭突き、スッと反時計回りに足を動かしながら右に体を動かしてこの頭突きをかわす。
頭突きがかわされたメムがそのまま突進の勢いを生かすかのように、反転しながら一気に飛び上がると、次に繰り出したのは両手爪を振りかぶっての爪斬撃の打ち下ろし、際どくかわすが、速度が上がっているのか俺にも余裕がなくなってきている感じだ。
爪斬撃をかわされたメムがそのまま低くジャンプして低空飛行で俺の足元を狙って噛みつきにかかる。俺は跳び箱を飛ぶ要領で両足を開脚してメムを飛んでかわす。
着地した瞬間、俺に向かってメムが後方から素早く左足を狙って頭突きを繰り出す。
交わし切れなくなり、左ふくらはぎを頭突きが襲う。少し俺がバランスを崩したところを後方から右前足の爪が切り裂きにかかるので、そのまま前のめりになりダッシュするようにエスケープをする。もうこれからは逃げ切れないか……。メムが俺のダッシュに追いすがるように頭突きを背中に喰らわし俺は前のめりに倒れたのですぐに柔道でいうところの亀の甲の姿勢をとり、攻撃をガードにかかるが、そこで一気にメムの攻勢が強まり、背中で爪斬撃と頭突きと噛みつきを立て続けに連続で受ける。集中からのタイムマネジメントの能力が切れた感じになり、一方的にメムに蹂躙される。おお、これはすごい攻撃だ、そう思っているところに後頭部にメムの頭突きがヒットして俺は気を失ってしまった。
「………ちょっと、ダン!、ダン!、起きて!、起きて!、目を覚まして!!、目を覚ましてよー!!。」
耳元でメムの喚き声が響き俺は気がつく。
「…う、うーん、ふうー………、ああ、メム様、俺はもうダメですね。確かに必殺技ですね……あとはよろしく。」
俺は自分で何を言っているのかわからない状態で呟くが、
「ダン、大丈夫?、これを飲んでよ。」
うつ伏せ状態になってしまった俺の体をメムが自分の体をうまく俺の胸にこじいれてひっくり返して仰向けな状態にする。
「ああ、ここは、どこ、私は誰。いやっ、おう、いててて。」
ああ、必殺技のメムの連続技を喰らってのびていたのか。
「さあ、ダン。飲みなさい。」
メムがそう言って、回復ポーションの瓶を口で器用に咥えて俺の胸に置く。
「ああ、ありがとうございます。メム様。」
俺はそう言って回復ポーションをゆっくりと飲み干す。
「大丈夫、ダン。」
「ああ、メム様。……必殺技を受けて伸びていたのですね。かなりの時間伸びていたのですかね?。」
「気をしっかり持って。伸びていたのはまあ5分くらいよ。そんな重症ではないわ。確かに私の必殺技を浴びてノックアウトされたけど。」
「これで必殺技は完成ですね。」
「もういいわよ、それよりあなたの回復が優先よ。」
回復ポーションが効いてきたようだ。頭ははっきりしてきた。少し背中に痛みが残るが……。




