214弾 必殺技ができるだろう?
「もうちょっと優しく洗ってくれてもいいのじゃない。」
入浴後メムがそう言ってぼやくのを聞きながら俺は眠りについた。
翌朝、メムが
「昨夜はもう少しで混浴イベントというところ、イテテ、ダン、ごめんなさい、ごめんなさい。」
起床していきなりの発言に、少し腹が立ったのでメムの頭を両拳でグリグリしながら、
「メム様、朝っぱらから疲れさせないでください、特訓は終わっていないのですから……。」
そう言うと、
「やっぱり、遠出してのイベントとして、イテテ、いやすみません、許して下さい、離してください、私が悪うございました。」
懲りるということを知らないのかこの元女神猫は……。必殺技の取得の熱意はどこにいったのやらと小さくため息をつく。
「……まあちょっとふざけすぎたわね。でもあれよ、疲れとストレスがこうさせるのよ。」
メムがそう呟く。
俺は大きくため息をつきながら両拳をメムの頭から離す。
「付き合うこっちの身にもなってください。」
冷淡にそう言うと、メムが無言で頭をぺこりと下げた。
居間に行くと3姉妹がもう揃っていた。少し俺は寝坊したかな……。そう思いながら食卓につくともう朝食が届いていたようだった。
「「「「「いただきます。」」」」」
4人と一匹が声を揃えて唱和して食事を始める。
「昨夜はありがとうございました。」
ミヤンがそう言って俺に頭を下げる。
「ああ、風邪は引いていないですか?。ミヤンさん。」
「ええ、ありがとう、大丈夫ですから。」
俺はそう言いながらパオニスをかじる。
「でも、今夜から入浴は2人1組にした方がいいわね。」
「そうですね、ティア姉さんの言う通りですね。」
ヘルバティアの提案にミアンが早速賛意を示す。
「じゃあ、メムとヘルバティアさんで一緒に入りますか。」
「いいわねー、その考え方。ニシキさんがそう言うのなら。」
ヘルバティアがそう言って満面の笑みになる。
「じゃあ、ニシキさんは誰と一緒に入りますか。」
ミヤンがそう言うと、
「じゃあみんなで見張りますか。」
ミアンがそう言ってくるが、
「冗談やめて下さい。一人で静かに入りますよ。」
「えー、ダン、混浴のチャンスよ。ダンが3人から選びたい放題よ。」
「ここで変なチャチャを入れないでください。と言うかメム様が見張りして下さい。それが一番でしょう。」
こんな余計な議論で朝から疲れたくないので、そう言ってこの話を終わらせることにする。
「ふーん、じゃあ、ミアンとミヤンが先に入浴して、私とメムちゃんが次に入浴して、ニシキさんが最後に入るのをメムちゃんが見張る、という形にしてみるわね。」
ヘルバティアがそう言って結論を出してこの話も朝食も終わる。
そして今日もメムの必殺技開発のために特訓となる。
「さあ、メム様、今日は一つ一つしっかり集中して技を出していきましょう。」
「ええ、よくってよ。」
「では、さあ来い!。」
「いやーっ!。」
メムが技を出して、俺がそれを不動の受防具で受けて、を3回繰り返して、休憩して俺が蒸れた体をぬぐって防具の中も拭いて装着して、再び技を出してそれを受けて、の流れで特訓を繰り返し、途中で昼食をとり、その後また同様に特訓を続けて一日が終わる。
そんな形でメムとの特訓を繰り返して自主特訓も6日目になる。
その日の特訓開始前にメムが
「ねえ、ダン。今日は必殺技の完成形が見せられそうな気がするの。」
と俺に言い出してくる。
「え、そうなのですか。」
俺が半信半疑の状態でメムにそう聞き返す。
「何よ、もっと驚いてみてもいいのじゃないの、こう『ついに、ついに必殺技が、完成するのか。苦節36年、見せてみよ、貴公の必殺技を。』とか言ってくれることを期待したのに、なんて薄い反応なのかしら。この薄情者。」
「いや、そんなリアクションできるほうがすごいおかしいような気がしますし。そもそも36年ってどこから出てきた数字なんですか。」
「……まあ数字はノリと勢いかしら。まあそれくらい私的にはいけそうな気がするのよ。」
そういう時は大体が失敗に終わるものなのだが……、でもそれを言っちゃうとメムの勢いを削いでしまう気もするしなあ。まあやる気になっているから、期待せずに見てみるか。
「ええと、いきなり披露するわけじゃないでしょう。」
「少し軽く技を一通り出してからよ。じゃあ、ダン。構えていてね。」
そう言って右前足での爪斬撃、噛みつき、頭突きをして、俺が受け切るのを見ながら、
「じゃあ次は必殺技を見せてあげるわ。一度休憩にしましょう。」
ずいぶん余裕と自信に満ちあふれている。しかも主導権も握っているような感じである。まあ、そこまでメムが言う以上、しっかり構えて受ける準備もしておくか。
休憩を終えて、俺も体をぬぐい、防具の中も拭いて準備は万端な状態にする。
しっかり構えて腰を落とす。
「ダン、じゃあしっかり構えていてね。多分フッ倒れるから。私の必殺技を受けてみなさい。」
メムがそう言ってくる。
はったりか、それとも自信が相当あるのか。そう思いながら身構える。
「行くわよ!、そりゃっ。」
気合の入った掛け声と共にメムが高く飛び上がる。
諸手での爪斬撃、高さがあって威力も十分な斬りおろしの一撃目を喰らわせる。そのまま腹部への頭突き、少し俺の足元がおぼつかなくなり、後ろにバランスが崩れかける。そしてそこへ追撃するかのように右腕に噛みつき、右前足での爪斬撃、左前足での爪斬撃、あれ、技の発動速度が上がっている?、そう思う間もなく腹部への頭突き、これを立て続けに三連発、いやこれはまさか、そして左右での爪斬撃、噛みつき、俺が完全にふらつきバランスを崩すところに頭突き、仰向けに倒れたところに噛みつき、頭突き。特状からさらに頭突き。
防具で防ぎきれなくなってきているのか、俺もダメージを喰らう。
「ぐはっ、くぅー。」
俺は大の字に倒れて何もできない。
「シャァ!!。押忍!!。」
メムが俺の上に乗り俺の顔をバイザー越しに睨みつける。そして大きく深呼吸する。
「どうかしら、私の必殺技、かっこ仮かっこは?。」
そう言ってきたのだった。
「これは、とんでもなくすごい威力ですね。でも確かにコンボ技ですが……。」
防具を外して起き上がってその防具を見ると、凹みができている。今まで受け切れていた感じはあったのだが、今のはメムが必殺技というだけあって、なかなかの、いや、かなりの威力がある。それにこの今の技は、組み合わせを変えて連続発動させる技の手数を増やせば威力はもっと増加させることが可能な、伸び代のある必殺技だ。
「どう、コンボ技で威力も十分でしょ。それにもう少し研究すれば、必殺技として威力も大きくできるでしょうし、おまけに私に合いそうな技だし。どう、ダン、これこそが必殺技でしょ。」
「うーん、確かに必殺技にできそうなのですが……。」
「何か問題があるかしら。前にダンが言っていた各技を磨き上げて、その組み合わせを連続で出してコンボさせてここまでしてみたのよ。技の発動を早くして立て続けに出して攻撃をつなげる、それにね、相手次第で組み合わせを変えて、技を当てるポイントも1箇所に絞ることで威力を上げる。どう、必殺技となり得るでしょう。」
確かにメムのいう通りかもしれない。あとは、これを使って体力が持つかどうか、連続技がスタミナ切れで打てなくなるかもしれない懸念はあるが、これはメムと今後の研究が必要だろう。
「威力を考えれば、十分必殺技と言っていいでしょう。メム様、おめでとうございます。」
言い方はちょっとおかしいかもしれないが、俺は認めざるを得ない。メムは必殺技の開発に成功したのだ。




