211弾 開発には一苦労だろう?
メムに技を覚えにくいという欠点があるのはわかったし、その自覚もあるのもまあいいことなのかもしれないが、じゃあどうやって技を体に覚えこませるかだろうけど、もはや実戦で体に覚えこむしかないのかと循環した思考に陥りながら、メムを見つめる。
「どうしたの、ダン。口が開いているけど、そんなままで私を見つめられても。」
どうも本人はとんでもないことを言ったのに気づいていないようだ。
「いや、メム様、攻撃した体の動きを覚えられない思い出せないというのは、……どういうことで。」
「さっきも言ったじゃない。本能的に動いてしまうから、単発の攻撃はなんとか同じことができるのだけど、コンボとか連続攻撃を同じように繰り返してるとズレが出ちゃう感じなのよ。」
「それでも、必殺技の開発は諦めないのですよね。」
「そうよ、だからダンの協力が欲しいの。」
うーん、やる気になってくれるのはいいことだし、必殺技の開発方法にも納得はしてくれたけど、体が覚えるかどうかの問題が出てくるなんて。
猫に芸を仕込むようなことになるが、芸を覚えるのは犬より難しいのだったっけ。
「でも、そうなると、攻撃技を徹底的に体に染み込ませるしかないですね。反復してその動きを続けるしかないでしょうけど。」
俺の魔術研究は後回しにするか……。
結局その日はボロ布人形を爪斬撃で3体、噛みつきで3体、頭突きで3体、必殺技用で2体、合計11体を綺麗に潰してしまう。
攻撃の的用に積まれているボロ布人形もさすがに足りなくなるだろうしなあ。
「どうですか、身についた感覚はありますか。」
夕刻になり、夕食の時間も近いので、この日はこれで特訓を終わらせてメムに聞いてみる。
昼食後から夕刻までずっとメムの特訓に付き合って、俺は今後どう協力していくかを考える必要もある。
「そうね、単発の攻撃はなんとかなるけど、コンボとなるとね……。」
「体で覚えようとしてもコンボを忘れる、みたいなことですね。」
「やっぱり本能が邪魔をするのかしら……。必殺技ってこんなに難しいものなのかしら……。」
メムがしょんぼりとする。
どうしようか、そう思いながらロッジに戻ってくると本日の特訓を終わらせたヘルバティアたち3姉妹も戻ってきていた。
「あら、メムちゃんの特訓ですか?。ニシキさん。」
居間で武具の整備をしていたミアンが俺たちの戻ってきたのを見てそう声をかける。
「だいぶハードにやったのかな。」
とミヤン。
「ちょっと、メムちゃんを特訓と称していじめていないでしょうね。」
と妙に誤解したヘルバティア。
「いや、それはないのですが……。」
少しぐったりした口調で俺が答える。
「ふう、夕食にしてさっさと休みましょう、ダン。」
メムも同様の口調である。
「ああ、そうだ。ヘルバティアさん、訓練用の受けに特化した防具というかそういうのはここにあったりしないですか。」
「うーん、じゃこれから特訓所所員が夕食を届けにきた時に聞いてみましょう。」
「ありがとうございます。」
人形じゃ限度があるし、生産量もそう大量じゃなさそうだしな。
「メムちゃんの必殺技は……。」
俺とメムがミヤンをじっと見るとミヤンが質問しかけてた口をつぐむ。
「ミヤン、メムちゃんのこと気にしてる余裕があるの。」
ミアンがそう言ってミヤンを見る。
「……ありません、はい、ミアン姉さんの言う通りです。」
ミヤンはそう言ってしょんぼりとする。
そこにドアをノックされて、特訓所所員が夕食を持ってきたので受け取って、ヘルバティアがパーティリーダーとして俺の話した訓練用の防具について聞いてくれる。
「夕食は?。」
「配膳は終わったわ。ティア姉さん。」
ヘルバティアとミアンが口数少なく会話して夕食になる。
「ニシキさん、さっきの訓練用防具の話だけど。」
ヘルバティアが切り出す。
「物がないということですか?。」
「いや、あるから。ただ明日の朝に届けてくれるそうよ。それと、装着するとほぼ動けなくなるからって所員の方から言われたけど、大丈夫なの?。」
「まあ、装着してみてから考えましょう。」
俺はそう言って食事を口に入れる。明日から大変な苦労をしそうだが。
夕食は意外に皆口数少ない状態で終わり、入浴を済ませて寝室へ。
「ねえ、私に必殺技は難しいのかしら。」
メムが疲れのせいか気だるげな口調で聞いてくる。
「ここまできて、それはどうしてまた。でもメム様の必殺技としてできる可能性は十分ありますし、この特訓をやってみる価値はあります。」
「ふーん、ダンが訓練用防具の話をしていたけど、いいの。私のために。」
「人形相手だと、人形が足りなくなるでしょうし、木を的にしても特訓の成果が出てくるかどうか測りづらいでしょうからね。ま、こうなったら俺も付き合いますから。」
俺がそう言うと、メムが寝床に潜り込み掛け毛布を頭から被りながら、
「ありがとう。感謝するわ。」
と照れたような声で言ったのだった。
翌日、特訓所所員から朝食と一緒に届けられたものを見て、
「うーん……。これは……。」
俺は絶句してしまう。
「ニシキさん、まず朝食をとりましょう。」
ヘルバティアにそう言われて食事にして身支度を整えてから試着をしてみる。
「えっと、まずは下半身部分をつけるのか……。」
まるでオーバーオールのような形で、足の部分はゴツく分厚く太いズボンで生地はジーンズのようなデニムっぽい肌触りである。
「これは、こうやって……、こうか。おおっ、重たいなあ、これは。」
背中から肩越しにベルト部を通して前の胸部にある留め具にはめ込むように止めて、長さを調整して、なんとか着用完了。
「で、次は、上半身部分をつけるのか。」
左脇の部分の紐をほどいて、袖を通し襟に手を通す。とても分厚いダウンジャケットを着るような感じがする。
「うーんこうやって自分で見ると、もこもこしすぎたぬいぐるみみたいだなあ。」
「なんか可愛いわね。中身はなんだけど。」
メムが訓練用防具を装着した俺を見てそう論評し、軽く右前足で俺の脛の部分を触ってみる。
「意外と見た目以上に……中に板が仕込んであるみたいね。」
「ええ、これでメム様の攻撃を受けてみます。これなら特訓になるかと思いまして。」
とは言っているみるが、外見は頭部保護のない耐爆スーツのような感じになる。
「ふーん、これでメムちゃんの攻撃を受けてみるのね。」
「うーん、すごい格好です。」
「どれどれ、へえ、頑丈にできてるなあ。」
装着し終えた俺を見にきたヘルバティアら3姉妹が口々にそう言ってくる。
「これでやってみますか。ヘルバティアさん、ありがとうございます。ところで、これは何というのですか。」
お礼を言いつつこの防具の名称を聞くと、
「不動の受防具というらしいわよ。で、どうなのかしら。着けた感じは。」
「ええ、重たいですね。よっこいしょっと。」
そう言いつつ歩いてみるが、
「ああ、動きにくいですね。というか、思うように歩けない。」
「でもこれなら、そうそう、頭部保護具も着けてね。」
そう言ってヘルバティアから渡されたのは、まるでバイクのフルフェイスのヘルメットのようなもの、ただしバイザー部分は面金で組まれたようになって視界を確保している。
「関節がまあ緩くしてあるから、なんとか腕を上げれますが、………よっと。」
「どうなの、ダン。」
「本当に動きづらいですね。あとなるほど、まるで着ぐるみを着たような気分だ。」
俺がそう言うと、ミアンが、
「きぐるみ、って何ですか。」
と聞いてくる。
「ああ、そうですね。我々が着用するようなぬいぐるみ、みたいな物です。……ああ、一度外したいのですがよろしいですか。」
「ああ、はいどうぞ。」
ミアンは少し慌てて答える。
装着した時と逆の順序で、外していく。うーん、装着時より時間がかかるなあ……。
「ふぅ、脱ぐのがしんどいなあ……。」
重さも中々のものであり、乱暴に投げるわけにもいかない。
「すごいわね、脱いで床に置いたらどすって音がするのだもん。」
「メム様、今日は近くで特訓しましょう。手頃な場所を先に探しますか。」
「え、装着したまま歩くと言うのは。」
「無茶です。特訓する前に俺の体力がかなり削られます。」




