210弾 必殺技はこれだろう
「メム様、今の段階での必殺技ですから。そのうちメム様に新たな力に目覚めたり、覚醒したりすれば、また新たな必殺技ができるかもしれないですから。」
「あっ、そうか。まだ確かに私には女神として完全に覚醒していないところがあるのかもしれないわね。ねえ、ところでダンは私が覚醒すると思っているの。」
えらい質問してくるなあ。回答に困るなあ、変な回答して拗ねられると困るし……。
「まあ、可能性はゼロではないですね。」
ものすごく当たり障りのない答えを出しておく。
「そうよね、そうよね。必殺技開発できる可能性はどうなの。」
「それは、……メム様の心がけ次第かと。」
これまた当たり障りのない答えを出す。
「じゃあ、ダンの必殺技の魔弾はどうしてできたの。」
「可能性を追求して、メム様との些細な会話からヒントと閃きを得て魔弾としましたが、……そもそも必殺技というより、この異世界で俺という者が使う魔法の発動であり魔術を使う一つの異端な形と思っていますから。もしかして、…俺のこの魔弾にメム様は必殺技の可能性を見たのですか……。」
メムの思わぬ質問に回答していたら必殺技にメムがこだわり出した理由が見えてしまった。
「まあ、ダンの魔弾はね、何の力もチート能力もない私みたいなこの女神から見たら憧れに近いのよね。ダンが四苦八苦してここまできたのは側で見ていたからわかっているけど、妬けちゃうのよね。」
「でしたら、ここでしっかり必殺技の開発しましょう。一回開発の仕方を追求すれば、次に新たな必殺技も開発しやすくなるでしょうから。」
女神が嫉妬していたとはなあ……。
メムも自分の気持ちみたいなものを吐露してくれたせいか、必殺技の開発に努力が必要なことはわかってくれたようだ。
「メム様、もう一度さっきのコンボをあの人形にやってみて下さい。」
「わかったわ。」
そう言ってもう一度、一気に飛び込んで人形の腹部に頭突き、倒れるところに右前足の爪で斬撃、頭に噛みつき牙を突き立てる。
「うーん、さっきと何か違う感じがするのよね。」
ボロボロの人形を見る限りでは破壊力は変わらないはずなのだが、どうもしっくりこないという表情である。
「それはそうですよ、開発中なのですから。」
「何だろう、こう頭突き、爪で斬撃、噛みつきの流れのはずだけど、各攻撃で少し動きが止まるような感じなのよね。もっとスムーズに行きたいのだけどねえ。」
「だからさっき言ったように一つ一つの技を極める、ということになるのじゃないかと。あとメム様が違和感を感じているということは、まだ発展途上だということじゃないでしょうか。磨けばもっと良くなってくるでしょうから。」
「ふーん、まあそう言われるとそうなのかもしれないわね。しかしこのダンの考える必殺技って頭突き、爪斬撃、噛みつきの順番でやらなきゃダメなのかしら。」
「いや、それは状況によりけりじゃないかと。」
俺が技の出す順番にこだわらないと言うと、メムが意外そうな顔をする。
「じゃあ、爪斬撃、噛みつき、頭突きの連続攻撃でもいいのね。ダンがそんなことを言うなんて想像外だったわ。」
「そもそも、まず前提がこの3つの技を磨いて高めたものを連続技として使うことで必殺技にするということですから。」
メムがうなずく。
「もしかすると、一つ一つの技を磨けば、あとは技と技のつなぎ方を考えていけば必殺技になり得る、ダンがそう言う訳がわかった気がするわ。」
メムは心底から納得してくれたようだ。わかった気がすると言っているのは少し気がかりだけど。
「それはいいことですね。もう少しやってみますか。」
「ダンは魔術研究にかかるのでしょう。私のことは気にせずに魔術研究に励んでいいわよ。こっちはこっちで特訓してみるわ。必殺技の完成に向けてね。」
「でも人形は足りないのじゃないかと思うのですが……。」
必殺技の完成に向けて自主的に特訓しようという気になったのはいいけど、どうするのだろうか。
「ロッジの外に太めの木があったわね。あれを的に特訓してみるわ。」
「いいですが、無茶はしないでくださいね。」
ここは俺が何か言うよりも思い切って任せてみるか。
ロッジに戻り、途中で別れて、メムは目をつけていた太い木に向かい歩き出す。
「まあ、昼食時間までは考えながら特訓してみる、まずは爪斬撃の出し方、斬りかかり方をチェックして、フォームをチェックする………。」
メムはそう呟きながらその木に向かい出した。
「じゃあ、俺はメム様のご好意に甘えてみますか。」
メムを見ながらそう呟き、ロッジの居間にて魔術の研究に励むことになった。
昼食の時間になってドアをノックする音がする。
ドアを開けると、紫の髪をボサボサにしてマントをつけほっそりした男がそこにいる。
「あ、自主特訓中のニシキ様ですね。昼食です。こちらに置いておきます。」
「この特訓所の方ですか。」
「ええ、そうです。ノジャッチと言います。ガーワンバーさんとトレガーマさんに代わって本日の担当をします。」
そう言って昼食を渡してくれる。
「あれ、チャティーア・ヘルバティアらの3人は?。」
「大丈夫ですよ。他の者が届けにいっていますから。」
そう言って去っていった。
じゃあ、メムを呼びに行くか、そう思ってメムが特訓している木に向かうと、メムも昼食の時間に気づいたのかトコトコと俺のところにやってきた。
「ふう、もう昼食の時間よね。さあ、食事をしましょう。」
そう言いながら、俺の先に立ってロッジに向かう。少し呆気に取られながら俺はその後を追う形になる。
メムとロッジに戻って居間で昼食をとる。
「ねえ、ダン。昼食後、私の技を見てくれてもいいかしら。」
「へ、技ですか。」
「そうよ、必殺技をコンボ、連続技で開発するのに各技を磨いたほうがいいと言ったのだし、見てくれないとは言わないでしょ。」
「何か手応えでもあるのでしょうね。」
「それはあるけど、それとダンに見て確認してもらいたいから。」
やる気になっているというのか、それとも何か疑問でもあるのかなあ。
「わかりました、いいですよ。」
俺は了解して、昼食を終える。
「では、見せてもらいましょうか。メム様の手応えとやらを。」
メムの必殺技開発の特訓のために的になってしまった木の前に来ている。
「じゃあ、3種類見せるからね。」
メムが自信を持っているのか発言に力強さを感じる。
そしておもむろに木の前に立ち、
「ふんっ、ふんっ、……ふんっ。」
え、これって、爪での3連続攻撃?、右前足の爪を使って袈裟懸けに斬撃の後、左前足の爪を使って右と同様に斬撃をして、最後は飛び上がって両前足の爪を使って斬りおろしての攻撃。
「ふーっ、どうかしら?。爪斬撃をまず見て欲しかったからね。」
メムが落ち着き払った表情で俺に問いかけてきた。
「……今のこの爪斬撃は連続技としての、爪を使った連続攻撃というコンセプトですか。」
少し驚きながらメムに聞いてみる。
「まあそうね、それもあるし、これって必殺技に組み込めるかしら。確かに私、今までの戦闘でそんな威力のある攻撃手段を考えたことがなかったの。このなりで本能的に攻撃をしていたような気がするから形を作ってみればいいかなって。」
とんでもなく天才的な発想に思えてくる。というか今まで本能の赴くままに敵に攻撃していたってことか……。俺とメムが組み手をしたことはあったが、それも本能の赴くままで組み手をしてた、しかもメムは自制して爪を使わずに組み手していたということだけど……。
「それにどんなふうに攻撃したか覚えていないから、どんな感じで攻撃したか体の動きをダンが記録してくれないかしら、お願いできる。」
続けて行ったメムの発言で俺は納得した。メムは、本能のみで技を出していて、技を開発しても覚えきれてないということなのか……。




