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208弾 その方法でいいのだろう?

「ちょ、ちょっと、ほんの冗談よ。それにあくまでイメージよ。実際にそんなことができたらいいなあって思ったことを言ってみただけなのだから。」


 まだ未練があるのかそんなことを言い出すメム。


「あんなことを言うのでしたら必殺技なんて無理に決まっているでしょ。俺は必殺技というのは積み上げてきた技の集大成みたいなものじゃないかと思っているのですから。それにメム様の体に炎をまとわせるって、一体どういう風にまとわせるのですか。メム様に魔法の発動は難しいでしょうし、俺にも難しいですよ。」


「う、ううぅん、……じゃあ、一緒に協力して研究しましょうよ。今夜からというのも無理があるから、とりあえず明日、明日だけでも話しましょうよ。」


 ずいぶんとしつこいのが気になるけど……。


「わかりました、いいですよ。じゃあ明日、可能性の追求として研究してみますか……。」


 半ば諦めと呆れが混じり合った気分で妥協する。それにこのままだと徹夜でお願いされ続けそうだしな……。


「じゃあ、明日からに備えてしっかり眠りましょうか。特訓のキャッチミーイフユーキャンの疲れもとりましょう。メム様の必殺技開発の件では俺の言うこと聞くのですからね。」


「そうね、わかったから。じゃおやすみ。」


 さっさと眠りに入っていった。



 翌日、まずは早起きして書類を作成する。


「え、何しているの。ダン。」


 メムが起きてきて俺に聞いてくる。


「ええ、まずは書類の作成ですよ。契約書類のね。」


「はあ?、何の契約書類。ちょっと見せて。」


「いやしばらくお待ちを、……はいどうぞ。」


「え、これって……。」


「ええ、メム様の必殺技開発にあたって俺のいうことを必ず聞くという契約をする書類です。嫌ならこの話はなかったことになります。」


「何もそこまでしなくてもねえ、というか、たまにダンがバカなんじゃないかと思う時があるのよね。こういうことをしていたらね。」


「ああそうですか。ええ、でも無茶言われても困りますのでしっかり契約はしておきましょう。嫌なら……。」


「ああ、もうわかったわよ。でも私のこのなりじゃサインはできないわよ。」


「じゃ、インクを足に肉球に塗って………、はい、そこに足を下ろして下さい。拇印みたいにしますから。じゃそういうことで。」


「肉球を拇印がわりにする書類なんて聞いたことはないけど……。」


「ええ、俺も今までそんな書類は作ったことはありませんね。でもあったほうがいいでしょう。そうでもしないと、また無茶だけして俺たちのこの10日間が無意味になりかねないので。」


 そう言いながら俺はメムの足に肉球についたインクを拭き取ってあげる。


「俺も魔弾の研究をしようとしていることをお忘れなく。」


 そう続けて言っておくとメムが、


「まあ、そうなのだけど……。」


 少し不満げな表情を見せる。


「それより朝食にしましょう。」


「そうね。朝食ね。」


 ということで居間に向かう。



 居間で3姉妹と朝食をとる。メニューはパオニスに肉と野菜を挟んだもの、今までの中では一番マシな食事かもしれない。あの冷たい空気の中での夕食に比べたらはるかにいい空気なのだから。


「昨日はありがとうございました。ニシキさん。アドバイスのおかげでこの10日間、私たち3姉妹は前の戦闘スタイルを見直してみようと思います。それに昨日までの3日間で見えてきた課題とも向き合って特訓しようと思いますので。しばらくメムちゃんにもかまってられないかもしれませんが……。」


 食事しながらヘルバティアがそう言って10日間の特訓内容を話してくれる。


「ニシキさんはどういう特訓をするつもりですか。」


 ミアンが興味を示す。


「まあ、魔術研究と、それと……。」


「私の必殺技開発に協力するのよ。」


 メムが目をらんらんとさせながら、俺の話を遮りそう言い出す。


「ひ、必殺技の開発、ですか……。」


 ミヤンがそれを聞いて目を白黒させる。


「すごいわ、メムちゃんが必殺技、……なんて、なんていじらしいの。もう私感動しちゃう。」


 ヘルバティアが何かを別方向に解釈したのか勝手に感動し出す。


「じゃあ、ニシキさんにもメムちゃんにも必殺技とやらができることを信じていますので。」


 さらりとミアンが重い期待を俺とメムに乗せ込んでくる。


「はあ、まあ、どうなるかわかりません………。まあ、皆さん頑張りましょー……。」


 メムの空気かき乱し発言にウンザリかつゲンナリしながら俺はそう言うのがやっとの気分である。

 さっさと朝食を終えて、寝室に戻り身支度を整えていると、メムが遅れて部屋に入ってくる。


「いやー、期待されてるのよ、私。3姉妹のあの魔法のコンビネーションみたいな必殺技を目指しているのって言ったらヘルバティアが感動して、お菓子をくれたわ。ああ美味しかった。」


 そう言ってドヤ顔でいるが、


「あまりハードルを上げると自分が大変なことになりますよ……。まだ必殺技もできるかどうかわからないのですから。」


 俺がそう言うと、


「いやーねー、そこはダンの力に期待するから。」


 メムがそれが当然と言う感じの表情でそう言ってくる。

 やっぱり必殺技開発、中止したいな……。



 3姉妹が外に出て各自の特訓を開始しに行って、空いた居間でメムと必殺技の話をする。


「メム様、いいですか。必殺技と言いますがそんな簡単にできたら誰も苦労しませんよ。メム様のできる範囲から追求していって必殺技に昇華させましょう。」


「……そうよね、『女神忍法ファイヤーバードドラゴンアタック』という必殺技名は考えたのだけど、そういう感じで必殺技を。」


「いいですか、もう一度言います。メム様のできる範囲から追求していって必殺技に昇華させましょう。いいですね。」


「そ、そんな表情を厳つくしてドアップで言ってこられても……、イエ、はい、わかりました。ダンの言う通りです。」


 全く猫のなりで焼き鳥なかつ龍付きの攻撃とはどんなネーミングセンスなんだか。こりゃ苦労しそうだな。


「本当に必殺技を開発するのなら、ちゃんと俺の言うことを聞くのですよね。嫌なら開発協力をやめますのでそのつもりでいて下さいね。」


 しっかり釘を刺しておこう。


「はい……、承知しました。」


「まずは、メム様の使ってる力を確認しますか。」


「え、じゃあ、私の技『バーニングヘッドバッド』について説明をしてあげるわ。」


「そんな説明要りませんので。もういいですよ。この話はなかったことに……。」


「冗談よ、軽い冗談。」


「本気で開発する気あるのですか。」


「ええ、あるわよ。だから必殺技名を何通りか考えていたの。」


 俺はうめきながら頭をかかえる。一旦深呼吸しながら、


「ふぅっ、スーハーッ、いいですか。必殺技名は必殺技を開発してから考えるべきものです。順序が全く逆ですからね。」


「えーじゃあ、『ナインヘッドドラゴンスマッシュ』とか『ダブルスマッシュ・デストロイナックル』とか『メムニウム光線』とか……。」


「いまはメム様が考えたそんな必殺技名、発表しなくてもいいですから。」


 全く、エネルギーを費やすところはそこじゃないのに……。


「もういいですから。こっちで話をしますが、メム様が敵と戦闘して使った技は、噛みつき、爪での引っ掻き、あと頭突きというところですね。」


「……まあそうだけど、でも必殺技に昇華できないような地味な技よね。」


 おい、この元女神猫、自分でなんてことを言うのか。


「うーん、それ言っちゃうと行き詰まりますね、必殺技の開発。」


「まあ、だから先に必殺技名を考えてイメージを先行させたら必殺技ができそうな気がしてたのよ。」


 ある意味大天才か大馬鹿のような気がする。神様って皆こんな思考なのだろうか……。

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