207弾 必殺技を開発しよう?
「でもダンはどうしてあの3姉妹の戦い方が違うのかと思ったのかしら?。」
「うーん、何となく勘で。……というわけじゃないです。ちょ、ちょっと頭突きは待ってください、メム様。」
夕食と入浴を終えての寝室である。
俺は、説明するための言葉を探すため軽くはぐらかそうとしたが、メムは頭突きの構えをして俺に向かってにじり寄ってくる。
「…私をコケにしてるわけじゃ・ない・わよ・ね。」
そう言いながら俺をじろっと見つめる。
「実は違和感があったのは、あの補佐官を護衛した時にトテポの滝で3姉妹がコンビネーションの魔法、フローズンケージとフレイムフラワーガーデン、それにガイドライティング、あれで敵を一網打尽にした時ですね。あの時見て正直すごい魔法だとは思いましたが、後になってから思い返した時に盗賊、暗殺者のような潜入していくような者が使う魔法にしては派手で大威力すぎると気がつきました。」
「ああ、やっぱりダンもそう思っていたわけね。実は私もそう思っていたの。最初にファチオア商店の絡みで3姉妹の襲撃を受けた時を思い返すとね。」
メムはそう言って俺に同意を示しながら頭突きの構えを解いた。
「俺がミヤンを投げ飛ばした時ですね。」
「話が早いわね。なぜかダンがミヤンをうまく投げ飛ばせたのよね。」
「あの時は偶然かとも思いましたが、思い返すとそれも違和感はありましたから。そしてトドメは。」
「「杖を使い出したこと。」」
俺とメムが同時に発言する。どうやら同じ結論に達したようである。
「ダンもわかっていたのね、さすがよ。ふふふふふ。」
「いえいえ、メム様こそ、ふふふふふ。」
まるで前世の日本でのテレビ時代劇の悪代官と悪徳商人のように笑ってしまう。まあここで山吹色のお菓子は出てこないが。
「でもねえ、あの3人に戦闘スタイルを変えると言ってもねえ、ジョブチェンジみたいなことをしろっていうことでしょ。できるのかしら。」
「冷たい言い方ですが、彼女たちが考えて出す結論を尊重しましょう。どっちにしても10日間は課題を見つけてメニューとして特訓する、まあ自主特訓みたいなものでしょう。それに俺もメム様も彼女たちのことをどうこうするより先に俺たちの課題に向き合う必要がありますからね。」
「じゃあダンもジョブチェンジするつもりなの?。」
「うーん、どうなんでしょうかね、俺たちはこの世界トゥーアールにおいて異世界人となっているのに、ジョブチェンジみたいなことが可能かどうかは全くわからないですから。」
俺は一旦会話を止めて伸びをする。
メムが思案顔で、
「……さっき言っていた私とダンの課題か、どうするつもりなの。」
「そうですね。ところでどうですか、筋肉痛の方は、痛みは引いてきましたか。」
「マシにはなってきたという感じかしら。じゃあ明日から私は筋トレみたいなことをすればいいのね、あと、尻尾も鍛えておくわ。」
「痛みと話し合うような感じで自主トレしてください。痛みがひどい時は休養するなり俺に話することも大事ですよ。」
「ありがとう、でもダンはどうするの。」
「魔弾の研究開発ですね。一度、あのイハートヨ相手に四文字の漢字を書き込んだ魔弾を試してはいましたが、さらに研究をします。以前言っていた文字数と体力、魔力消費の関係についてもこれを機会に研究しようかと、それにあまり体力、魔力を削らない方法がないかどうかも。」
「最初は『球』から始まったのよね。」
「ええ、そうです。それを発展できるかということで『弾』にしてみました。」
「威力は上がったのよね。」
「はい、でも威力の向上については今後も研究として大事なテーマになるでしょう。それと魔弾を使い出してからの課題である、魔弾の運用方法、装填速度の向上、あとはこの『タイムマネジメント』の能力の使い方をさらに研究することになるかなあ、と。」
「ふーん、ダンもいろいろ考えているのね。」
そう言ってメムが少し落ち込んだ表情を見せる。
「どうしました、何かメム様に懸念することでもあるのですか。」
俺はその表情が気になってメムに尋ねてみる。
「うーん、なんというか、私にはその、……必殺技、みたいなものはないのかなあ、と思ってね、何となくダンや3姉妹に置いてかれているような気がしちゃって……。」
「……必殺技ですか……。」
メムの予想外な発言に俺は少し固まってしまう。
「……いや、少し恥ずかしいというか、変なことを言ってるのはわかっているのだけど、……でもね、地球の女神として何かできるかもって、……どうなのかしら。」
メムは必死に言葉を紡ぎ出す。
「メム様の探知、感知の力は十分必殺技に値するものだと思いますが。」
「でもね、戦闘時の最強の囮って言われてもせめて一対一で敵を倒せるようになりたいのよ。そのために必殺技を、……開発してみるのはダメなのかしら。ねえ、お願い、一生のお願い、私の必殺技開発を手伝ってください。」
うーん、そう言われてもなあ……、こればっかりはどうすればいいのか……。
「この機会よ、私に手を貸して。この格好だけど。」
メムが腕組みをして沈黙した俺に頼み込んでくる。
必殺技か、このグランドキャットの格好でできそうには思えないのだが、うーむ。諦めろよと言っても聞かないだろうし、
「ねえ、なんとか言ってよ。もし協力してくれたら、元の世界に戻った時に女神としてダンに便宜を図ってあげるから。」
おい、それって空手形じゃないのか……。メムの今言ったその約束は全く信用できそうにないのだが。そもそも便宜ってどんな便宜を図ってくれるのか。
「うーん、いろいろ考えてみなきゃいけないのですが……。メム様、俺の言うことをちゃんと聞いてくれるのなら協力はします。」
「くぅーっ、やっぱりダンは話がわかる子ね。じゃあ元の世界に戻ったら便宜を図ってあげるから。」
「そんな空約束いらないですから、それより、そんな便宜だなんだと言うことは、俺の言うことを聞く気はないってことのようですね。じゃこの話はなかったことで。」
「いや、いや。はい、ダンの言うことをちゃんと聞きます。ダンの言うことをちゃんと聞きますから、必殺技開発にご協力を。」
「本当にこの件で俺の言うこと聞くのですね。どこぞの奴みたいに国民に聞く力を自らアピールしておきながら、最高権力者の座に着いた途端に、聞く力なんぞ皆無どころか絶無になったくらい言うことを聞かなくなるのも絶対嫌ですからね。」
「妙にどす黒い何かがダンの言葉からほとばしっているのだけど、……いいわよ。そこまでダンの言うことを聞けなんて言うのは何か考えているからね。わかったわ、じゃ私に協力してくれるのね。」
「ええ、しかしメム様に必殺技が無理だと俺が判断した場合はそこで止めますので、それを承知して下さい。」
「え、もう無理だというの、そんなこと言われたらダンの言うことなんて聞けないじゃない。」
メムが少しむくれるが、
「ちゃんと話を聞いて下さいよ、まずは様々な角度から必殺技開発についての可能性を追求してみますが、その時点で難しくなるかもしれないし、ということです。」
「ああ、少し早合点したわね。ごめんなさい。」
メムがそう言って頭を下げる。
「しかし、どんな感じの必殺技にするかですが、メム様に何かイメージみたいなものはあるのですか。」
俺はまずメムがどんな必殺技をイメージしているのか聞いてみる。
「そうねえ、……こう、技名を叫んで、その直後に体全体に炎をまとって、そしてそのまとった炎が龍のようになって敵を突き刺す、みたいな感じなのだけど、どうかしら。」
「はい、終了ー。じゃメム様の必殺技開発についてはなかったことに。」
俺はずっこけながら、あまりものアホらしさに撤退を宣言した。




