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191弾 ランクを昇り詰めてみよう

「では、ここからはランクアップの話になります。」


 セイクさんが依頼完了して喜ぶ俺たちのパーティに対し静かに言い出してくる。


「ランクアップですか。誰がランクアップ試験をうけるのですか?。」


「パーティメンバー全員でです。」


「へ?。」


 ヘルバティアがセイクさんの回答に予想外だったのか、変な声で驚きを表明する。


「実は、組合本部長から冒険者ランク10級にしてしまおうと言う話がありまして。この前の特別直轄依頼完了の分とこの依頼完了の手際をみて、一気に全員トップハイランカーにしてもいいのではないだろうかということです。ただし、後日試験を受けてもらおうということであらかじめその話はしておくように組合本部長から指示がありましてお伝えする次第です。」


「えっと、それはいいのですか?……私たちのランクもミドルランカーですけど。」


 ヘルバティアが怪訝な表情と声で確認する。


「パーティ全体で受けさせるからいいのだ、あと、……知り合いの師匠が弟子の成長を見込んで勧めるのだとも言っておられました。それにこのパーティのエースならイケる、とも。」


 え、組合本部長兼師匠として公私混同しまくっているのじゃないのか……。で、エースって誰?。


「えっと今回このランクアップ試験をあらかじめ告げるということは、相当に厳しい試験だということですか?。」


 俺がセイクさんへ質問する。


「ええ、この試験の内容も、もう世間的には公然の秘密みたいな試験内容になっていますので……。」


「そう、ニシキさん。単純だけど難易度は相当高いのです。」


ミアンが俺にささやいてくる。


「基本は、3ヶ月以内に、強獣ごうじゅう15体以上もしくは狂獣きょうじゅう2体以上を退治すること、イダーゴンの葉を1人あたりで3カロガラム、私たちのパーティだと12カロガラム集めること、組合本部長及び警備隊総隊長の推薦する者と戦闘して勝つこと、この3つを全て終わらせることで10級ランクアップ試験合格になります。」


 ミヤンが試験内容を教えてくれるが、なるほどね……。


「聞いただけで家に引きこもっていたくなりますね……。」


 俺が弱気に言う。それを聞いたメムが俺をキッと睨むが、無視しておく。


「ええ、内容はその通りですし、ずっと10級ランクアップ試験の内容は変化していないですから。」


 セイクさんがミヤンの発言を肯定する。


「変化していないのですか、なぜ。」


 俺が疑問を示す。


「試験に合格すれば話はしますが、そもそもこの試験はロストエリア(喪失域)に入るための実力を測ることと、絶対必要な物がこのイダーゴンの葉から作られる特殊被服の着用ですから。それに、ランクアップのためにこの数ヶ月チャティーア様が姉妹で色々努力されているのも組合本部長は存じているからでしょう。ロストエリア(喪失域)に行けるパーティが増えることも各国と大連合機関にとっては必要なことです。」


 ふむ、まあそういうことか。


「期間は後日、別に定めるのですね。」


 再び俺が疑問を示すと、


「今から、情報を集めにかかることになりますので。特にイダーゴンの葉と狂獣の情報はしっかり集めて確認をしたいのです。以前ニシキ様がランクアップ試験を受けた際に情報収集の不備で強獣退治をさせてしまって、組合本部長からその点を厳しく叱責されましたから。」


 セイクさんがキッパリと答えてくれる。

 そう言われると仕方ないな……。組合本部の仕事がいい方向に向いているようだしな。


「私たちも来たる試験に向けて、準備とか鍛錬とかしておかなけれななりませんね。」


 ミアンがそう言い出す。


「そうね、2ヶ月ぐらいはそうしておきたいわね。特訓ね、特訓。」


 ヘルバティアが気合を入れてくる。しかし特訓ですか……。そんな意気込んでやってもな、効果が出ればいいけど……。


「そのイダーゴンの葉と狂獣の情報を得るために、このパーティで探索に行くのはいかがなのでしょうか。」


 俺がふと思いついて聞いてみると


「うーん、今のランクで情報を得るための探索については可能は可能なのですが、他国に入る可能性も大きいので書類上の手続きがもろもろ出てくるため、ニシキ様もみんなもその書類作成準備をしなきゃならないですよ。それにイダーゴンの葉があるのはセナシュー・イキュン国かデー・イッカホ国になりますので、海越えになるのですから。ここからだと近い国はデー・イッカホ国になりますが、情報によってはセナシュー・イキュン国に行くことになるかもしれないですからね……。」


 まあ、いろいろ大変で面倒くさそうなことになるということか……。でもこの際さらに聞いてみるか。


「書類上の手続きと言いましたが、どのような手続きが必要になるのですか。」


「うーん、一例としては、例えば他国で犯罪に巻き込まれて正当防衛のために手を出した場合や襲ってきた山賊を討伐した場合、犯罪者じゃないことを証明するために書類を書いて出身国とやり取りする必要があります。依頼実行中なら依頼関連の書類を示すことになりますが、単に探索をしているのなら、本人証明や犯罪の現場検証を確認して書くべき書類がありますので、書類作成のために拘束されることも起こり得ますので。大連合機関が間に入ってくれるとはいえ、作成とやり取りは時間がかかりますよ。」


「じゃあ冒険者はそうとして商人とかはどうなるのですか。」


「商業ギルドの証明書があれば冒険者より時間はかからないですし、商人が探索することもないですからね。複数の町や国に商店を持っていればそれを証明する書類があればいいので。」


 なるほど、商人は冒険者じゃないから扱いは違うのか。


「大商人となれば大連合機関の証明書類もあります。冒険者については、……まあこれは10級になればわかることになりますが。」


「なるほど、説明ありがとうございます。」


 とりあえず納得はする。


「まあ試験のために準備などをなさってください。ちなみにこのランクアップ試験は、何回でも再受験はできますが、行方不明率も死亡率も高いので十分心してください。」


「受験拒否はできないとかですか……。」


「途中で撤退するのは別に問題ありません。再受験は可能なのですから。危ないと思ったら退くことの判断も大切ですから。」


 なんかかなりハードな試験になるのかなあ。


「まあ、ニシキさん。私たちがもう少し説明はしますから、あとで家で説明しますわ。」


 とミアンが言ってくる。

 そうだな、ここであれこれ言ってもしょうがない。


「ティア姉さん、ミアン姉さん。じゃあいろいろ準備をしましょうか。」


 とミヤンがヘルバティアを見ながら言うと、


「そうね。まず特訓にかかる準備をしましょうか。家に戻りましょう。」


 そう言ってここから引き上げることになる。



 下宿先に戻ってくると消耗品の確認、特に体力回復用のポーションを中心に使用数を確認する。

 俺がこの世界に来ていまだに納得できないのは、回復魔法がないところだ。普通、異世界なら回復魔法を使う美人のヒーラーとか回復術師なんてのがいるはずなんだけど……。まあ異世界だから回復魔法のない世界もあるかもしれないが、なんだか釈然としないのだ。それに魔力は体力に連動しているのもなんだか釈然としないが、まあ魔力の回復と体力の回復はポーションの使用で行うのがこの世界の回復なのだが。


「ポーションの使用数確認終わり。」


「こっちで作る分と買う分を確認しますね。ミアン姉さん。」


「わかったわ、ミヤン。」


 このパーティでは市販品を買うのと、ミアンが作ったのと両方で体力回復ポーションをまかなっている。

 作り方を見てると、俺も作れそうなのだがそれはまたの機会にするか。俺は、ポーション用の容器を再利用するために台所で洗って乾かしにかかる。


「今まで買っていたからなあ。こういうのも新鮮な感じだな。」


「じゃあ、ダンがポーション作る時は私が毒味してあげるから。」


 メムがそう言ってくれるが、少し心配である。俺がもし失敗したら、それをネタにして何かメムがゴツい要求してきそうだし……。

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