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189/189

189弾 この手で一つどうだろう

「もしかして、前に相談していた件で何か案でも。」


 面会すると商業ギルド長のブーファロ・ドーラゴさんが早速そう言ってくる。


「ええ、妙案が浮かんだのですが……。まあ一応宰相補佐官に会いましたので、その方からも書簡を組合本部長に送ってくれるとのことでしたが。」


「早い目の手回し、ありがとうございます。ただ、補佐官の書簡だけでなかなか効果が出ないものですからね。」


「もちろんです。ところで、組合本部長は王都にいました。そこで遭遇しましたので。」


「うーん、休暇をとってそっちに行ったのですか……。」


「ええ、子どもたちを眺めていました。」


「全く、あの人は……。」


 そう言ったあとブーファロさんが頭を抱える。


「で、話は変わるのですが、この町では養護院はあったりするのですか。」


「ええ、もちろんです。でもそれが何か。」


「王都でも聞いてみたのですが、養護院では引き取り手のない子たちを16歳の誕生日まで置いて、教育と食事をしっかり与えるようにしている、10代前半からは、外でお手伝いをしてもらいながら本人の能力の適性を見たりしつつお金を稼ぐ勉強みたいなこともしてもらってる、無茶な働かせ方はしないようにチェックもしている、と聞いたのですがそれは間違いないですか。」


「その通りですよ。しかしなぜそんなことを聞いてくるのですか。」


「ええ、その前に相談していた組合本部長の抜け出し防止の件なのですが、養護院の子を見張りにしてみたらどうでしょう。見張り兼身の回りの世話係として手伝いをしてもらうというのは、と思っているのですが。」


 大した話に聞こえないかもしれないが、職員の負担を減らす策である。裏の策も期待はしているが、それはあえて見せないことにする。


「ふーむ、確かに養護院の子を使うというのは……、我々は商店や店での手伝いばかりを考えていましたが、なるほど組合本部にて手伝ってもらうということですね。」


「どうでしょうか、職員がしょっちゅう組合本部長を見張るのも負担が増える。そこを養護院の子たちに手伝ってもらうような形にするのは。」


「そうですね……、学校との兼ね合いもあるでしょうけど……。」


「交代交代で代わる代わるやってみるのはどうでしょうか。一人が専任するというわけじゃないですから。」


「じゃあ、その案に乗ってみましょうか。11歳くらいから15歳くらいの、養護院にいる少年少女を見張り役に。」


「うーん、……まあ、見張り役というと組合本部長も警戒するでしょうから、小姓とか世話人とかそんな感じで役名をつけてみて手伝わせましょう。これが俺の考えた妙案の内容です。」


「なるほど、我々も養護院に協力するような感じですね。それに組合本部長を見張らせる、それに将来冒険者とかで生活するかもしれない子どもたちに、組合本部長が手本となることで、組合本部長も抜け出そうとは思わなくなる、心理的効果を狙ったのですね。」


「ええ、商業ギルド長のいう通りです。」


 俺も表面上はそう言うが、あの大師匠、そこまで真面目になるとも思えないけどな……。


「まあ時間をかけて準備してみましょう。ありがとうございました。」


 上機嫌になったブーファロさんに見送られて帰宅する。



 下宿先に帰宅してヘルバティアに活動資金としてヘルバティアの口座に預け入れたことを報告して夕食をとり灌水浴室で体を洗う。

 自部屋に戻ると、すぐにいつも通りのヘルバティアとの入浴を終えたメムが戻ってきた。


「ダンがそこまで考えていたなんてね。」


 自部屋に入って、水を一皿飲むとそう言い出す。


「え、何のことですか。」


「またまた、とぼけちゃって。養護院の子どもたちに仕事先を増やしてあげたのね。だから王都で補佐官とそんな話をしていたのね。人身売買するとか言ってごめんなさい。」


 メムがそう言って頭を下げるのが何か不気味なのだが……それともそう思うのは俺がメムを信用していないということだろうか。

 メムが続けて、


「子どもたちの手本になるように考えるから、行動が改まるということね。なるほど商業ギルド長がそう言ったのも納得だわ。感心のあまりさっきの入浴中にヘルバティアに話しちゃった。」


 そう告白したので、


「……いや、勘弁してください。なぜこの話を抑え気味にしたのかわかっていなかったのですね。ヘルバティアに話してしまえばそこから組合本部長に話が流れるでしょうが。……メム様、見張りがつくことを教えたのじゃあないでしょうね……。彼女の師匠は組合本部長兼任ですよ……。」


「あ、そこまで言っていないわよ。養護院の子どもを組合本部で手伝わせることまでよ。さすがに私もそこまでバカじゃないわよ。」


「だといいのですが、あと、あの大師匠のディマックさんが子どもたちの見本となるように行動を改めると思いますか。」


「……うーん、…………思、わない、わね。」


 メムが自信なさげにそう答える。


「でしょうね、そんな方とは俺も思っていません。享楽主義な感じが強い気がします。」


「一時の面白さにひかれて行動するタイプということね。そう言われると、まあ、私も否定できないけど。」


「ですから、この件についてはあまり口外しちゃダメです。メム様。」


 メムに釘を刺しておく。


「まあダンがそう言うのなら、今回はそうするけど。でもそれなら、なぜ養護院の子たちを組合本部で手伝わせることを思いついたの。これで組合本部長を抑えることができるとは思えないとダンは言ってるのに。」


 まあ、そう思うだろうなあ。


「ここからは決して口外しないでくださいね。最初あの大師匠に会った時メム様も言ってたじゃないですか。少年愛嗜好じゃないかと。」


「あ、まさか、そういうことまで考えてのことなの。」


「もしそうなら、そんなに抜け出すこともなくなるでしょう。考えてみれば、王都でも偶然とはいえ会っているわけですけど、その時も子どもたちを見ていましたからね、しかもガン見で。」


「確かに視線を感じたけど、その視線は少年たちの方に行っていたわね……。」


「それで少年を身近に置いておけば、まあ抜け出すことはしなくなるかなあ、というのが俺の本音ですからね。うまくいくかどうかは別にして。」


「ダンって結構えげつない事考えるわね。そこまで嗜好を利用するなんて……。」


 メムが半ば呆れ気味に俺に言う。


「でも少年愛嗜好があるからという理由じゃ話を持って行けないでしょう。下手すれば俺たちは大師匠兼組合本部長を誹謗中傷していると言われかねないですよ。キレたあの大師匠兼組合本部長を抑えるには俺も力及ばずというところでしょうから。」


 思いついたけど実際に実行させるには、うまく言わないといけないからなあ。


「でもキレたあの大師匠をうまく抑えたじゃない。」


「いや、本当にキレた状態のあの人をストリートファイトで抑えるのはかなり厳しいでしょうね。年増と言われて舐めた態度をとられたあの時を思い出したらわかると思いますが……。」


 補佐官の捜索、救出時にあの年増の姉ちゃんと言われてからのキレっぷりを思い出すと正直あまりやり合いたくない。


「まあ、そうね………。やっぱり、ダンが相手したとしても厳しいのかしら。」


「魔術を使った戦いなら全く別物になると思うので何ともいえませんが、素手の近接戦闘だと、というか武器を使ってもきついような気がします。」


 ただあの大師匠は武器を使っているところはまだ見ていないしなあ。底をまだ見せていない感じがとっても怖い。

 あとは組合本部の職員がうまく俺の話した妙案を使ってくれることを祈るしかない。



 結論、組合本部長を抑える効果はかなりあった。こんなに効果があるとは俺も思わなかったが。


「いやあ、学校の時間が終わった後に来てもらって、組合本部長の世話役ということで手伝ってもらっているのですが、組合本部長の抜け出しが激減しまして。ええ、おかげで、組合本部長を探しにいくことも激減しましたので職員も残業に苦しまずにすみましたし。ただ、お手伝いに来るのが少年の時は、組合本部長は妙な表情になるのですよ。あと、手伝いにくる少年には、やたらにおこづかいだと言ってお金を渡すようになるので、それはやめてほしいと言っているのですが……。」


とは、後日の商業ギルド長の談話である。

10月1日から、しばらくの間、毎日更新にいたします。

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