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187弾 補佐官にあの人の問題相談しよう

 子供たちがメムと戯れて、メムがそれに愛想を振りまき、2人の少年が子供たちをあやしている状態がしばらく続いていたが、


「そろそろ戻りなさいよ。今日は夕食の準備を手伝ってちょうだい。」


 割烹着のような格好をした、初老の女性が、声をかけてきた。養護院の方だろう。


「どうもすみません。グランドキャットに触れてみたかったのでしょうか。ご多忙のところ、足を止めさせてしまって、申し訳ございません。あれ、以前にもお会いしましたっけ。」


「ええ、そうですね。後、帰ったら、手洗いとうがいをさせてください。」


「お気遣いありがとうございます。さあ、みんな、行くわよ。」


 そう言いながら、その初老の女性が、手際よく子供達をまとめる間、少年2人が俺の前に来て、


「子供たちの相手をしてくれてありがとうございました。」


 そう言って頭を下げてくる。


「なかなかしっかりしているなあ、君たちは何歳だい。」


 俺が聞いてみる。


「自分は11歳です。」


「自分は12歳です。」


 本当にしっかりしている少年だなあ。


「この近くの養護院の子達かい。君たちも大変そうだなあ。」


 俺がそう言うと、


「今日はちょっと腹痛の子がいて、院員がその看病のため、自分たちが子供を引率していました。」


「本当にありがとうございました。」


 各自がそう言って初老の女性に合流するために子供たちの方に向かっていった。



(メム様、お疲れ様でした。)


(気配りお疲れ様、おじさん。)


 メムがそう言って俺の労いに返してくる。俺はメムの頭を撫でる。


(ところで、さっきからあの老紳士はやはり少年2人に視線を送ったままですね。)


(あれ、もしかすると、大師匠の変装かもしれないわ。)


(まさか、いつの間にか王都に来ているのか。)


(ちょっと失礼。)


 頭を撫でられていたメムが急に走り出し、その老紳士にじゃれつきにかかろうとすると、その老紳士は老人と思えない素早い動きで立ち上がり公園を去ろうとする。

 メムがしつこく付きまといながらその老紳士を追っかける。

 メムの付きまといを振り払いながら逃げ出す老紳士、足止めするようにまとわりつくメム、それを見ながら追う俺。老紳士を追いながら裏通りの方に少し入る。人通りはない。そこで老紳士は足を止めると、


「まいった、まいったから。」


 そう言って両手を上げる。

 そこへメムが何を思ったのか


「この年増のババアめ。」


 と呟くと、それを耳にした老紳士が急に激高して俺目掛けて殴りかかってくる。


「集中。」


 俺は急ぎそう呟き、殴りかかってくる老紳士の腰部を体勢を低くして相撲で廻しを取るように掴み上手投げの要領で投げ転ばす。老紳士は路面に転がり、即座に起き上がる。

 メムも何を思ってそう呟いたのか……。もしかして、


「やっぱり、大師匠ですね。落ち着いてください。」


「キサマ、孫弟子の分際で年増だと、ババアだと……このヤロー。」


「落ち着いてください、俺が言ったのじゃありませんから、落ち着いてください。」


 この老紳士はやっぱり大師匠のディマックさんだな。


「ガルルル、キサマ、この。」


「落ち着いてください、落ち着いてください。年増、の言葉に反応しすぎでしょう。変装がバレてしまいますよ。」


「お、あ、おう、そうだな、フーフーフー。」


 少し落ち着いてくれたようだ。


「今あなたは老紳士に変装していることを忘れてどうするのですか。大師匠、落ち着いてくれますか。はい、深呼吸。」


「スーハー、スーハー。」



「しかし王都に大師匠が来られているとは、何かあったのですか。」


「まああれだ、ただの休暇だ。保養だ。」


 落ち着きを取り戻した大師匠と会話する。転がった際についたほこりをはたきながらの会話になる。

 まあメムも変装しているのがディマックさんであること、それを確認するために年増と言ったのだろうけど。


「休暇ですか、組合の方は大丈夫ですか。」


「大丈夫だ、休暇届を出してある。」


 多分商業ギルド長も冒険者ギルド長も今頃渋ーい顔しているのだろうな。


「それでだ、休暇中だから、ただの衣料品問屋の隠居だからな、これ以上は関わるな。いいな。しばらくここにいたままでいろ。」


 そう言って、俺とメムを押し留めてジェスチャーでしばらくここにいるように指示して、スタスタと裏通りから表通りに歩いて行ってしまう。


「やっぱり私の鼻は、嗅覚は正しかったわね。」


「あんな確認の仕方は勘弁してください、メム様。とりあえず俺たちも宰相邸に戻りましょう。」


 もう俺たちも王都の街歩きを楽しむ気もなく、スタスタと宰相邸に向かう。



 大師匠との遭遇で精神的な疲労を抱えたまま宰相邸前に戻って来ると、偶然か補佐官のリーゼさんが宰相邸に入るのに遭遇する。


「あら、もう戻ってきたの、王都は楽しめなかったとか、なのかしら?。」


 リーゼさんがドラキャから降りてきて俺とメムにそう聞いてくる。


「いえ、少し疲労が……。」


「じゃあちょっとお茶しながら雑談でもしましょうよ。」


 そう言ってリーゼさんの私室へと連れて行かれて雑談になる。



「雑談する時間はあるのですか。」


「まあ、それぐらいの時間はあるわよ。それに前にあなたたちが捜索と救出と護衛してくれたお陰で、まあ仕事がしやすくなったのよ。」


「はあ、それならいいのですが。」


「うまく時間配分を考えてこなしていけば補佐官の仕事もうまく回るのよね。」


「なるほど、そうなのですか。」


 そう言って俺は翠茶を一口飲む。


「ところで王都を歩いて疲労するなんて、何か街に問題でもあるのかしら。」


「いえ、実は、先ほど大師匠に会いまして……、ただ自分は休暇中だから構うなと言ってどこかに行ってしまいましたが……。それによる精神的な疲労の方が。」


「ああ、あの子がそんなことを。」


 翠茶を啜りながらの雑談なのだが、この会話から大師匠のディマックさん、本名マックトッシュ・マーグレノアさんの話題が中心になる。


「仕事ができる子だから、変に手を抜いてしまうのよね。それで結構迷惑かけちゃうから。」


「ええ、その通りです。組合本部長が理由をつけて抜け出すので、組合本部の職員の残業が増加したとかで商業ギルド長のボヤキを聞くハメになりました。それに、抜け出し防止のための何か名案はないか、とも相談を受けることにもなりまして……。」


「またあの子は……まあ私が教えてた頃からそう言うことあったわねえ。」


 リーゼさんがため息をつく。


「変装して子供たちを眺めていたのよね。さっき公園で私が子供たちと遊んであげている時にね、そうよね、ダン。」


 メムが話に加わる。


「ええ、そうですね。本当にあの人は何を考えているのか……。」


 俺はそう返しながら、もしやと思うところがあるので、ふと思案にふけることになる。


「まあ、教え子の不始末は私が詫びるわ。もう少し厳しく教育すべきだったかしら。私が教えていた時に逃げ出そうとしたことがあって、その後は、牢を作って首輪と足輪と作って牢と首輪を繋ぎ、足輪にはおもりを繋げて5日間みっちり教育したことがあったのだけど……。」


 リーゼさんがそう言ってくれるが、本当にやったとしたらいろんな意味ですごい事だな……。


「組合本部長の立場では、それはいろいろ難しいでしょうね。部屋を改装することになるでしょうし……。俺にも妙案が浮かばないし。」


「まあ、あの子の性格からすると、鍵やら繋いでいるものを外して逃げ出すのがオチでしょうしね。」


 まるでどこぞの大怪盗の孫みたいだな。


「もしかして、リーゼさん。5日間だったのは逃げ出したからなのですか。」


「まあ、逃げ出そうとしていたのよね。まあ、キッチリとシメてあげたけど……。」


 どうシメたかは聞かない方がいいだろう。

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