186弾 王都で再び子供とたわむれよう
翌日は朝食をとり身支度を済ませると、開架時間を待って王都の中央図書館へパーティメンバー皆で向かう。
「でも、資料を漁るにしてもどの分野の資料を漁るのかな?。」
ヘルバティアが首を軽く傾げて聞いてくる。
「ダンジョンの探索に関する資料を中心に漁りたいですね。冒険記みたいなものを中心に探してみましょう。」
冒険者ランクが7級ともなると閲覧可能な資料が増えてくるのはいいことだ。
あれこれと参考になるそうな資料を漁り、読み出して必要と思われる部分はメモに書き写していく。
昼までかけて資料を漁るが、
「うーん、ランダムダンジョンについてはある程度分かったけどなあ……。」
ランダムダンジョン、何かの影響で発生するダンジョンで一度発見されても、時間の経過とともに存在がなくなるダンジョンをいう。場所を特定して目印をつけたとしても、時間経過するとそこにあるダンジョンがなくなってしまう、組合本部などに報告はあげても存在が不明になればその報告は意味をなさないこともある。そのために冒険者たちがランダムダンジョンについて記載した記録や冒険記は貴重であるが、参考にならないことも多い。ただその記録の蓄積のおかげか、ランダムダンジョンについて、ある程度ははっきりしてきたことがあるのだ。
まず、入ってみないと全くわからないこと。害獣の多いランダムダンジョンになるのか、財宝の多いダンジョンになるのかということ。そして最深部に辿り着いてダンジョン芯という棒状の白い結晶を持ち帰ることができればランダムダンジョンの証明ができるということであるが、ダンジョン芯を持ち帰ることに成功する確率もまあ低いのである。
確率が低いのは何故か、ダンジョン芯を持ち帰ろうとすると、そのランダムダンジョン内の害獣がダンジョン芯の気配を察知するのか、一斉にかつ次々と襲ってくる。その害獣のレベルが野獣とか猛獣クラスならまだいいが、強獣クラスになると厳しくなるし、狂獣クラスや災獣クラスで未発見な害獣に次々と束になって襲い掛かられて、ダンジョン芯を捨てて逃げ出すという手で生き残ったものもいるし、たまたま大人数でランダムダンジョンに入って行ったことで生き残った者たちもいる。
「準備をしてもランダムダンジョンをうまく見つけられないまま、ということもありますからね、私たちの両親がたまたまランダムダンジョンに入った可能性はあるのですが……。」
「無事に出て来れたという感じだった、とは幼い頃に父母から聞いてましたが。」
「撤退するか、進むかでものすごく迷わせるのよね。」
3姉妹が各々そう呟く。
「うーん、ランダムダンジョンにうまく行き当たるかどうかは運次第か……。あの正多面体の石についても記載はあるのだけどなあ。」
正直ランダムダンジョン攻略のヒントにはあまりならない。
正多面体の石が多数転がっているところがあった、その石を持ち帰ったが、何をしてもその形のままだった。という記載があったが……。
「財宝の持ち帰りと、害獣との相次ぐ戦闘と、出入り口に無事に戻ることで一杯一杯になるのかもしれませんからね。正多面体の石についてまで考えられないのかもしれません。」
「あとは、ランダムダンジョンはロストエリアに多く出現するということですから。」
「そこ以外でもまあ出現するけども、ということね。」
3姉妹が各々そう言って報告してくれる。
メモに必要な情報を書き写しながら、今後ご両親の足跡をどう追うかを俺は考える。
(ねえ、もう直ぐお昼よ。少し頭を休めましょう。)
メムが人目を気遣って念話術で俺に告げてくる。
「一旦、昼食にしますか。」
俺が皆に提案すると、皆一斉にうなずいたのだった。
「ふう、昼食後はどうしますか。このまま俺の資料漁りに付き合わなくてもいいですからね。」
「まあでもあれだけ資料を漁ってもね……。」
パーティメンバー皆で昼食を図書館の近くの食堂でとりながら、今後の予定を相談し合う。
昼食をがっついているメムを横目に、俺も、
「まあ、今回はこれで調べものと資料漁りは一旦置いておこうかと思います。」
と言いスープをすする。
「置いておくということは、昼食後は何をするの?。」
ヘルバティアが俺の予定を確認しようとする。
「ちょっと王都を散歩しながら服を見てみようかなと考えています。そのあと早い目に宰相邸に戻りメモした文書を整理したいですね。」
俺がそう答えると、
「あとさあ、ニシキさん、この世界の知識というか常識をもう少し知っておいてもいいのじゃないかと思うのだけど。」
ミヤンがそう言い出す。
「ミヤンさんの言う通りだと思います。俺もいろいろ巻き込まれていたことが多いようなので、この世界の知識や常識を学ぶ機会が少なかったですからね。で、皆さんはどうされますか。」
「そうね、茶店に使う雑貨とかを見ておきたいわね。長期閉店中だけど、再開に向けてどうするか考えながら。」
とヘルバティアが答える。
「そうですね、ティア姉さんの言う通りですね。私たちも一緒に見てみますか、ミヤン。」
「はい、ミアン姉さん。」
「じゃあ俺とメムは別行動で散歩しながら服を見て宰相邸に先に戻ることにします。」
「わかったわ。」
少し遅めの昼食をとって3姉妹と別れて、散歩しながら紳士用衣料店をウインドウショッピングしてみる。
(まあ、さすが王都ね。衣料店だけでもかなりあるわね。)
(まあ見てみるだけでも結構な時間をとりますね。)
(ところで、衣料店を見て回っているのは変装用の衣装も考えてのことかしら。)
(ええ、そうですよ。メム様の読み通りです。)
そう念話術で会話しながらあちこちの衣料店を見て回る。そのまま歩いていると、
(あれ、ここって。)
(ああ、以前に子供に囲まれた公園ですね。)
(あなたがおじさん扱いされた公園でもあるわね。)
ベンチに腰掛けると、
「あー、グランドキャットだー。」
と言う子供の声がする。その声をきっかけにしてか、子供たちがわらわらとメムの周りに集まってくる。
「ねえ、おじさん。」
と8歳くらいの男の子が俺に声をかける。
メムが笑いを噛み殺す。
俺は苦笑いをしながら、
「どうしたのだい。坊や。」
「ねえ、このグランドキャット、触って撫でてもいい?」
(メム様、いかがなさいますか。)
(別に良いわよ、子供にはそれくらい。お・じ・さ・ん。でも、クスクスクス、何かデジャブ感があるわね。)
「優しくしてあげてな。坊や。」
「あーいいなー。僕にも触らせて。」
「あー。あたしもー。」
そう言いながら、同年代の子供計7人くらい男女問わずわらわらとやって来て、代わる代わるメムを触り出した。
「きゃー。すべすべー。」
「きれいな毛だー。」
ちょっと、混雑してきたか。そこへ、
「おい、みんなー。順番になでなでしろよー。」
「はい、並んでー。」
と言いながら11〜13歳くらいのしっかりした感じの少年2人がそこにやってきて子供たちをコントロールし始める。
どうやらこの少年も子供たちもこの近くの養護院の子たちかな。
そう思いながら、メムが子供たちに撫でられつつも愛想を振りまき、ファンサービスみたいなことをしているのを眺める。
うむ、この少年2人もメムに触りたがる子供たちをなだめすかしながらで、なかなかしっかりした子だな、と思いつつしばらくボケッとしてると、妙な視線を感じたのかメムが俺の後ろに視線をやる。俺が振り返るとグレイヘアをオールバックになでつけた紳士然とした傘を持った隠居老人っぽい方がメムたちを眺めている。いや、子供たちを仕切っている少年を見つめていた。