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183弾 商業ギルド長の悩みを聞こう

 翌日、3姉妹の案内と紹介文を持って貨幣商に新たに口座を作りに行く。

 まず一つ目の貨幣商、エーユ貨幣商に行って口座を作り300万クレジットを預ける。この貨幣商は商業ギルドとも付き合いが深く、運用を商人への貸し付けと投資を行うことで利益を出しているという。

 ついで二つめの貨幣商、ナール貨幣商に行って同様に口座を作り300万クレジットを預ける。こっちの貨幣商は、冒険者ギルドと付き合いが深く、冒険者向けの貸し付けと投資、探索で得たお宝を換金するなどして運用している。

 最後に三つめの貨幣商、キーツ貨幣商に行く。こちらは先ほどの2つの貨幣商と違い、手堅い運用で商人と冒険者向けの両方へ貸し付けと投資を行う。実は組合本部と付き合いが深い。こちらを普段使い用にして100万クレジット預金する。

 朝食時に3姉妹に貨幣商について話を聞くと、ご両親がそうしていたということで、各貨幣商に口座を作るように勧められたのでその勧めに従ってみたのだ。

 俺とメムがそのために外出している間、3姉妹は魔術研究に勤しみたいということで、気を使う意味もあって口座を作った後、久しぶりに街をぼんやりとうろつく。でもなぜか組合本部に足が向いてしまう。


(ダン、あなた貧乏性というか仕事人間の気があるのじゃないの。)


 呆れているようなメムの念話術。


(体が勝手に、といったところでしょうか。まあ、依頼でも見てみましょう。)


 メムに念話術でそう返して、何気なく依頼の掲示板を見て、


「あれ、え、俺の呼び出しか?。」


『ニシキ・ダン 殿 知らせたき事あり、受付に来られたし。』


 指名依頼用の掲示板に『依頼』とは書かれずにただ呼び出し、一体何が。



 書かれた紙を持って受付に向かい、掲示板からはがした呼び出しの書かれた紙を提出すると、窓口の受付が奥に引っ込み、奥からセイクさんが出てくる。


「どうかしたのですか。セイクさん。」


「もしかして警備隊総隊長から聞いたと思うのですが、イハートヨの財産確認が終了したので、警備隊との合同調査の臨時協力についての直轄依頼の追加料金が支払われます。」


 ああ、そういえば警備隊員の臨時勤務の終わりかけで言っていたなあ。あの直後に消息不明からの騒動で巻き込まれたのだったっけ。


「おお。そうでした。総隊長の話の直後にあの消息不明に関連して俺も巻き込まれましたので、そういう話を今思い出しました。」


「そうでしたね、組合本部長自ら先陣を切って消息不明について対応していましたからね、大変な出来事でした。で、追加料金の話です。支払額は150万クレジットになります。」


 予想以上に追加料金が支払われるな。でもこれは、


「わかりました。これから支払われるのですか。」


「ええ、そうです。」


 そういって150万クレジット、黄金貨1500枚の入った袋と書類を渡してくれる。


「ありがとうございます。ではこの受取証にサインをしましたのでそちらに渡します。」


「はい、確かに。ああ、そうだ、ニシキ様、もう口座を作られているのならそちらに預けてもいいですよ。前からそのことでアドバイスしようと思っていたのですが、多忙故か言いそびれてしまって。それにこういう高額支払いの場合は貨幣商の預かり証で渡すことも可能ですから。」


「ちょうどいいタイミングでのアドバイスです。ありがとうございます。」


 そう言って受付から引き上げる。



(じゃあこの収入で何か美味いものを食べには。)


(行きませんよ。この追加料金、イハートヨの関連する金から出ているので、ヘルバティアに預けてパーティの活動資金にしましょう。)


(ああ、ごもっともですね。)


(ところで、昨夜の話はなんだったのですか。あんな真剣な表情で食い意地を張りすぎないとか言っていましたが……。)


(いや、あれよ、少し心が揺れ動いただけよ。まだ決意はしても心が定まっていないのよ。)


(それは、決意がもう崩れたということではないですか。)


 念話術で会話しながら組合本部の食堂で早めの昼食を済ませる。決意の程を証明するためか、珍しくメムは少食だった。まあいつもの半分の5人前の定食を平らげただけだが。


(もう少し食べてもいいですけど……メム様。)


(いいのよ、私の決意を示してやるわ。食い意地に流されないように生きるのよ。)


 意外と決意は固そうだが、そのメムの決意とやらはいつまで続くのだろうか。



 昼食を終えて、組合本部の食堂を出ていくと、


「おお、ちょうどいいところに、ニシキ殿。」


 イサドさんと商業ギルド長のブーファロさんが連れ立っていて俺に声をかけてきた。そして俺たちは2人に組合本部のロビーの空いた一席に連れて行かれて、


「実は、折り入って頼みたいことがありまして……。」


とイサドさん。


「はあ、ここでそんな話をするということは、依頼にしにくいようなことですか。」


「実は、組合本部長のことでして……。」


 困った表情のブーファロさん。

 一体組合本部長をどうしろというのだろうか、こっそり護衛しろとかかなあ。


「組合本部長に何かあるのですか?。」


「いえ、依頼にしにくいことになるのですが、……組合本部長を……きちんと仕事させたいのですが、何かいい知恵はないかと……。」


 困った表情から苦渋の表情に変わりながらブーファロさんが俺にこう言い出す。

 まあ、あの大師匠兼組合本部長だからな、昨日も実質サボりまくっていたようなものだし……。


「……もしかして、組合本部長がここから逃げ出さないように、仕事をこなしてくれるように知恵を貸して欲しいとかですか?。」


「全くその通りです。仕事ができる者であり優秀であることは事実ですが、いかんせん急に仕事をサボり、組合本部長室から消えてしまうこともままありまして。」


 ブーファロさんがそう言ってため息をつく。


「何せ変装が上手いので、そうされて出ていかれると追いかけようにも追えないのです。」


 イサドさんが補足しながら同じくため息をつく。

 確かに変装術の師匠だからな……。


「依頼にするにはちょっと難しいのもありまして……。」


 とブーファロさん。

 まあ、それはそうか。逃げ出したのが判明したタイミングで依頼を出して冒険者を使うのも何だか効率が悪そうだ。


「こう、誰か言うことを聞かせられる方に釘を刺してもらうとかはどうですか。」


 俺が聞いてみる。


「まあ宰相補佐官はいいストッパーになるのですが、しょっちゅう抑えてもらえるかというと、そういう訳にもいかないですから……。」


「警備隊総隊長もいいのですが、何せ多忙のため組合本部長をしょっちゅう抑えられるという訳にもいかず……。」


 ブーファロさんとイサドさんはそう言って2人とも頭を抱える。


「組合本部長はその、外に出られることで何か言っておられるとかは。民の生活状況を知り今後の仕事に生かすのだとか。」


 そう言って俺は別口から切り込むことで何か見えるかと思いながら聞いてみるが、


「ええ、それが口実になってまして。毎度毎度戻ってきた時はそういうことしか言いません。」


 イサドさんが眉間にシワを寄せて答える。こりゃあ本当に大変だなあ。


「外出していなくなるおかげで、うちの職員も組合本部長の捜索に人手を割かれ、書類処理が滞るので残業も増えてしまいまして、一部には不満も。これはうちのところだけではなく、冒険者ギルドのところもそうでして……。」


 商業ギルド長として苦悩が垣間見える。


(ねえ、なんとかしましょうよ。可哀想過ぎるわよ、職員が。)


 狸寝入りしていたメムが念話術でそう言ってくる。


「……究極手段として一つあるのですが、警備隊に協力してもらって牢屋の一部を改装してそこに組合本部長を入れて仕事させるとか、もういっそ牢屋にぶち込んで仕事させればいいのではないでしょうか。」


 冗談半分であるが、俺がそう言ってみると


「おお、いい考えだ。」


「ひっ捕らえて、牢にぶち込んで仕舞えば……。」


 2人はかなり真面目に食いついてきたのだった。

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