182弾 預金について話を聞こう
大師匠兼組合本部長の俺たちが異世界から来たことについての事情聴取は一旦終了ということになる。
そして、大師匠の変装術についての講義が始まり俺とメムと3姉妹はありがたく講義を受講することになる。さらには大師匠と一緒に夕食を取ることになる。
「いやー、美味かった、美味かった。何、これはヘルバティアが作ったのか。ほうー、特訓の成果か。孫弟子はちゃんとあたいの言いつけを守ってくれたのだな。どうだ、このヘルバティアに料理を教えてみて。いや、孫弟子は直接教えなかったのだっけ。」
大師匠は直弟子のヘルバティアの料理の味を堪能している。
「ええ、ニシキさんは特訓してくれる方を手配してくれたのです。実は宰相邸で特訓を受けまして……。」
「む、なんとな。まあ、特訓させろとは言ったが……、少し話が違うのじゃないのか。」
俺に対して大師匠は妙に因縁をつけてくる。
「え、そうですか。『好きに教えなさい。任せる、ニシキ君。』と大師匠は言っておられたのですから、俺はその通りにやっただけです。それにちょうどいい機会もありましたので。もし不満がおありでしたら、この料理特訓の話に応じてくれた宰相補佐官のリーゼさんに一つ話をしにいきましょうか、それからでもいいのじゃありませんか。」
「ぐ、ぐぬぬ。そう言われると……、まさかあの人が絡んでいるとは……。」
孫弟子の反撃に、思わず顔を歪めて言葉を失いかける大師匠である。
「まあまあ師匠、おかげで私も料理の腕は良くなったと実感できていますから。」
ヘルバティアがそう言ってこの場を納めにかかる。
「それに、ニシキさんが教えたら、彼の異世界の知識が逆にティア姉さんに悪影響を及ぼしていたかもしれませんから。」
ミアンがそう言ってヘルバティアの発言を援護する。
「まあ、それもそうか。確かにそう命じた時は、この孫弟子が異世界からの者とは全く知らなかったからな。」
そう言って納得の表情を見せながら立ち上がり、
「まあ、ヘルバティアの料理がよくなっているのも確認できたしな、そろそろ引き上げるか。」
そう言って一瞬何か思いついた表情をするが、
「師匠、お帰りですか。」
「ああ、あまり家を空けるとな、ちょっと問題があるかもしれないからな……。」
もしかして組合本部長の仕事をサボりすぎたとかかな。
俺たちは玄関まで見送り大師匠が帰っていった。
大師匠が帰った後は食後の後片付けをして、各人がそれぞれの時間を過ごす。メムとヘルバティアが久々に一緒に入浴しに行く間に俺はミアンとミヤンの双子妹に呼ばれる。
「ニシキさん、そう言えば貨幣商とのお付き合いは?。」
ミアンが聞いてくる。
「?、かへいしょう、って何ですか。チラッと聞いたことはあったのですが……。」
「まあ、異世界の方ですからそこまではまだ知識不足なのかもしれませんが。」
俺が知識不足を露呈すると、やっぱりといった感じでミヤンがそう言ってうなずく。
「そうですね、端的にいうとお金を預けたり貸してもらったりするところですね。ニシキさんはかなり稼いでいるようですけど、まさか、貨幣商を使ったことはないとかですか。じゃあ稼いだお金は……。」
ミアンが聞いてくる。
「えっと、カバンに入れていますが……。」
「入り切るのですか、それ。」
「まあ、その、そうそうメムの食費が大変で、かなり出ていくことがあるので。やけ食いとかで30人前はペロリと平らげてしまうから、一食で。」
あまりカバンのことは言いたくないし。でも結構よく入るよな。お金を入れて出してをあのカバンでやっているが……。そういえばどのくらいあのカバンに入るかはまだ調べ切っていなかったが……。
「まあそうだとしても、貨幣商に口座を作りましょうよ。複数の貨幣商があるから複数口座を作っておけば安心ですよ。」
ミアンにそう勧められる。
確かにそこまでは考えていなかったが、あのカバンの存在はぼやかしておくことも考えるとなあ。
「それはいいのですが、怪しい貨幣商とかがあったら預けたお金はドロンと消えてしまうとかそんなことはないでしょうね。」
俺が確認してみる。
「それは大丈夫でしょう。組合本部の商業ギルドが各貨幣商を監査してお金の流れとかを厳しく確認していますし、大連合機関も同様ですね。それに貨幣商とそういうトラブルがあれば大連合機関の監査局に通報すれば真っ先に動きますから。」
ミアンがそう言って自信満々な様子を示す。
ここからミアンとミヤンが俺に対してこの世界の経済的なことについて説明してくれる。
・貨幣商は国と大連合機関の両方が許可した者しか関われない。
・各貨幣商はいわゆる借金や融資の際の利子や担保に取るもので特色が出る。また個人口座を作ったり預金額によってサービスの違いで特色を出す。
・通貨の製造(黄金貨、灰銀貨、赤銅貨、二穴貨)は大連合機関と各国宰相府が厳重に管理した製造工場で行われる。当然そこで働くためにはかなりの身元調査が行われる。ここで働くと給料はいいらしいが、外出にはかなりの制限もある。
「へえ、そうなのか……。」
俺は、双子妹の説明を聞いて納得する。しかし、そうなるとあのファチオア商店が資金をどうやって確保しているかが不明だと、以前商業ギルド長が言っていたがよりその謎は深くなる。魔法を使っているのかなとは俺は思っているのだが。
「まあそうですね、口座を作りに行きますか。この街にある貨幣商を教えてくれれば明日にでもすぐ行きますか。」
俺はそう決意し、自部屋に戻る。さっさと体を灌水浴室で洗い自部屋に戻ると、カバンの中から通貨を出して整理にかかる。
しばらくしてメムがドアをノックするので開けて入れる。
「ふー、さっぱりしたわ。で何をしているのこれ?。こんなにお金をカバンから出して。」
「ええ、メム様が入浴中にミアンとミヤンに口座を作ってお金を預けることを勧められたので、準備をしているところでして。」
「ああ、確かにそれはいいわね。このカバンの存在はぼやかしたほうがいいかもしれないから、口座を作って預けておけば、このカバンについてあまり詳しく聞く者もいなくなるでしょうし。まあ、ダンが寝床に黄金貨を敷き詰めてゴロゴロ転がったり、浴槽に黄金貨を入れて金貨風呂とかするような悪趣味さは、なさそうだけどね。」
「そんなことしてもね。まあ、しかし、結構貯まりましたね。食費の心配は続きますが……。」
「さすがに私も今から食費に全ぶっ込みなんてそんなことは思わないわよ。食い意地の張りすぎはいろいろ問題を起こすことも実感したしね。」
俺は驚きのあまり動きが硬直する。
「どうしたのよ、そんな動きを止めて。何、何、私も成長しているから、そんな驚いた顔はやめてよ。ちょっと、視点がどこにあってるのよ。そんな虚ろな顔をしないで。」
「………ちょっと意識が遠のいていました。」
「そんな驚くことなの!。今度は私を信じてよ。食い意地は張らない方向でこれから生きようと思っているのだから。」
メムが真面目な、本当に真面目な表情で俺にそう訴えかける。でも俺はまだそのメムの言に騙されるのじゃないかと思っているのだが……。
「しかし、よく貯まりましたね。まあ配当が大きいのかもしれませんが。」
「じゃあどれくらい預金するの。ダン。」
カバンの中から出した通貨の合計額を確認しながらメムと話し合う。
「300万クレジットで2口座、100万クレジットを1口座というところでしょうかね。後残りはカバンに入れておきましょう。食費も結構かかる時はかかりますし、急な出費にも対応することができるようにしておいたほうがいいですから。」
「そうね、私の食費が足りないから減食ということは嫌だしね。でもさっき言ったように食い意地を張りすぎない、これが私の今後の目標よ。」
「元の世界に戻ることも目標として忘れないでくださいよ。」
結局何やかんやでカバンの中で結構貯まっていた。1000万クレジットまでは行かなかったが。しかし通貨の整理をしていると夜も遅くになってしまう。
「ふう、いい夢が見れそうね。」
「さあ、寝ますか。メム様。」