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181弾 大師匠は納得だろう

「うーん、聞けば聞くほど興味をそそられる世界だな。もっとじっくり聞きたいが、どうやってあの補佐官に説明するかも考えた方がいいな。」


 大師匠が腕組みをしながらそう呟く。さすが、大師匠兼組合本部長としての見地で考えてくれているのか。


「まあ、それともこっちで有る事無い事でっち上げを付け足して説明すれば、あの補佐官がどんな反応するか見るのも面白いかも知れないしな、クククク。」


 おい、ついさっき感心した思いを台無しにするなよ、この大師匠。


「でっち上げなんてしたら、それこそ私たちシャレにならないことに陥りませんか?。」


 メムが大師匠の発言を聞きとがめてツッコミを入れる。


「おう、冗談だよ、冗談。ちょっとあの補佐官には、恨みはないけどつらみがあるからな。」


 大師匠はそう言うが、結局それって恨んでることと一緒なのじゃないか。


「それってやっぱり恨んでるのじゃ……。」


 ミアンが俺が思っている通りのツッコミを入れてくれる。


「いいんだよ、そういう話は。多少はあたいが面白くなればいいのだからな。」


 ひどい大師匠だ。


「でも本当にどうしますか。宰相邸に行く時にはこの絵を持って行くことも考えましょうか。」


 ヘルバティアが真面目な顔でそう言い出す。


「そうだなあ、その時はあたいも同行するか、……それとも組合本部長、に同行させるか。」


 いまだに組合本部長バレをしないように演技してセリフを選んでいるが……よくボロが出ないようにできるな、まるでタイトロープのような小芝居だが。しかし変装術がすごいのでバレはしないのだろうけど。


「しかしこの孫弟子が、まさかの異世界人か、しかもこのグランドキャットも女神というのはなんだな、この孫弟子と、メムちゃんとはどういう関係なのだ。」


「私からみれば、ダンは私の下僕いや従者、それとも相棒というべきかしら。」


 ふーん、やっぱりそんな扱いで見ていたのか……。メムの発言で俺も少しムッとするが、


「まあ、前世で死んだ時に出会った女神ですね。出会った時はものすごくいい女でしたね。美人で仕事のできそうな、そう、まるで大師匠のスッピン状態とほぼ同等かと。」


 下手なことを言ってメムと大師匠をブチギレさせてもこっちの身がとっても危険なことになるのはよくわかっているからなあ、まあ褒めておくのが一番いい。年増なんて言ってブチギレたあの大師匠ディマックさんの状態を思い出すと、背筋がゾッとするし。


「ダンはわかっているわね。さすが私の従者で相棒ね。」


「そうか、孫弟子は見る目があるのだな。」


 メムと大師匠が妙にシンクロして納得する。しかし大師匠とメムが意気投合なんてした日にゃ、俺は隠居したくなるだろうな。


「しかし、ニシキさんのこの話をこれで2回聞きましたが、異世界にも女神がいるとは思いませんでした。しかも死後の世界にあるとは。」


 ミヤンが驚いた様子で言ってくる。


「そういえばここで生き延びて元の世界に戻るのに必死だったのでわからなかったのですが、信仰というか神についての考え方というのはこの世界トゥーアールではどんな風になっているのですか。」


 俺もふと疑問に思って尋ねてみる。


「まあ、主には精霊信仰かな。精霊神として多数の信仰物がある。魔術に通じることになるのだが、六精霊神としての火水風土光闇かすいふうどこうあんがあり、あとは地元の精霊神の信仰がある感じかな。世界的に六精霊神を祀る社があり、各国、各地域で信仰されているま地元ならではの精霊神というのが各々にある。それらをまとめているのが神であり女神であるといわれているが、みんなこの世界の神にはあったことがなくてな。」


 大師匠が説明してくれる。


「なんていうのか、この世界の神、女神というのは触れざるものであり見ざるものである、というところでしょうか。大昔からの伝承と伝統でといったところになるのですが。」


 ヘルバティアがそう言って大師匠の説明を補足する。


「正直、この世界にはそんな詳しくないので、わからないことだらけでここまでやってきましたので、至らぬところはよろしくお願いいたします。くみ、ゲホン……大師匠殿。」


 おっと、俺も思わずやらかしかけた。


「……今何か言いかけ。」


「噛んでしまっただけです。噛んだだけですから。」


 ミヤンが何かツッコミそうなところを、やや強引だが被せ気味にそう言って押し切る。


「ところでだ、さっきその、こすぷれ、とやらが変装や仮装をしてと言っていたが、孫弟子はそういうことはしたことはあるのか。」


「本格的なことはしたことがありません。しかし……。」


「しかし……何だ遠い目をしだしたがどうかしたのか。」


「まあ、仮面をかぶって生きているようなものでしたから。朝起きて飯を食い身支度をして髪型を整え、服を着替えて、働きに出て、上役に媚びへつらい無茶振りに耐え、客の苦情や文句に耐え、努力をしても潰されたりして、責任を押し付け合い、要領のいいものだけが生き残り、安い給料でこき使われ、人間性はどうでも良く、将来もなく、終わりの見えないレースを走らされて、そんな世界で感情を爆発させることも許されず、感情を押し殺し他人に内面を見せないよう生きるために、個性という名の仮面をつけているような生活はしていましたので、ええ、まあ仮装という生活をしていたのは事実でしょう………ククククク。」


 俺も前世の生活を思い出しながら語ると………


「おい、大丈夫か、壊れたのじゃないだろうな。」


「何か魑魅魍魎ちみもうりょうの世界ね……よほど恐ろしい世界だったのかしら。」


大師匠とヘルバティアが互いに顔を見合わせる。


「もうここはそんな世界じゃないはずよ、ダン。しっかりして。」


 そう言ってメムが俺の頭に軽く頭突きを喰らわす。


「……うう、痛え、ああ、失礼しました。まあ前にいた世界では心の仮面をつけて生きていたことは事実のようです。」


 とりあえず、メムのおかげで落ち着きを取り戻す。


「まあ、戻ってきたようなものですね。」


 とミアンが心配そうに俺を見つめる。


「ええ、しかしまあ、あの世界は皆かなり変装というか、いろんな顔を出し入れしていたものですから……。」


「本当に恐ろしそうな世界だな……。」


 ミヤンがそう呟く。


「まあ、変装術の核となる部分をこの孫弟子は把握していたのかもしれないな。」


 大師匠はギロリと俺をにらんで言う。


「いろんな面を持っているのに一面だけで判断しちゃう相手が多いから、その一面だけじゃない部分を見せて相手を惑わすと言うことが変装術の肝じゃないかとは思っていますが……。」


 俺がそう言うと、


「フフフ、直弟子より術の基本概念は把握しているのかもしれんな、この孫弟子は。」


 大師匠は怪しく含み笑いをする。


「理想の変装術は、大仰なものじゃなくもっと単純に目と認識を惑わすのじゃないかと。」


「そこまで言うとはな……。こりゃ鍛え甲斐があるかもしれないが……。」


「ねえ、それはいいけど、これで私とダンがあなたたちの言う異世界からきたということはわかってもらえたかしら。」


 メムが妙な方向になり出した会話を聞いて軌道修正にかかってくれる。


「うむ、しかし確かに皆にそう話す時期はまだ先になるかもしれないな。説明するには時間がかかるしな。それに孫弟子もメムちゃんも、元の世界に戻りたいのではないのかな。」


 と大師匠。


「はい、そうです。」


「もちろんよ、このグランドキャットの体じゃなく女神としてね。」


 俺とメムが各々そう答える。ただその答えを聞いた3姉妹が不安そうな表情をしているのを、俺とメムは気づいたのだった。

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