177弾 とりあえず説明してみよう
「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうか。そもそもお前たち直弟子たちもこのことは知っていたのか?。」
ディマックさんが表情をキリリとしたものに変えて本筋の話を聞く体制になる。
「俺が口外しないように言っていましたので。」
「うーん、それはまた何故に。」
「では、メム様。どうぞご説明をしてください。」
「エヘン、実は私とダンはこの世界じゃないところから、全く別の世界から来た異世界のものなのです。私は女神として前の世界にいましたが、故あってこの世界トゥーアールに転移してしまったのです。その転移の際に私は、この世界でグランドキャットと言われる獣になってしまったのです。」
「そうです。俺はメムと同じ世界にいましたがメムと同様に転移してしまったのです。」
メムと俺がそう言うと、
「仕込みはバッチリだな、こんな話があるとは何かの冗談か。」
やはりというか予想されたというか、大師匠のディマックさんの反応はいまいち芳しくない。
「そう、信じてくれないだろうという反応は予想していましたが、俺もメムも何故こんな状況でこの世界に転移したのか全くわからないのです。」
「そもそもその前の世界、孫弟子とメムちゃんがいた世界ってなんていう世界か知らんが、その異世界から来たというなら証はあればな。」
話を聞いた大師匠は意外に頑固そうな反応だが、
「前にいた世界、俺たちのいたところを地球といいますが、正直言いづらくて。」
俺がそう言うと、キリリとした表情を大きく崩して大師匠は爆笑しだす。
「あーはっはっはっは。ヒーヒー、『チキュー』という世界か、前にいた世界がそう言うだなんて、ぎゃあはっはっはっは。ああ、……だからさっきここであんな感じで、むつみ合おうとしてたのか、はぁっはっは、死ぬー。」
この世界での『チキュー』の意味を知ったから大師匠のそのリアクションもまあ予想されたが、どうやらさっきの感動のシーンに対しての誤解は完全には解けていないようである。
「まあ俺もこの世界での『チキュー』の意味を知っていますから、笑うのは構いません。ところで、異世界から来たといえるような証ですか……。」
「いや、笑いすぎたな、失礼、失礼。孫弟子の言う通り確かに言いづらいな。」
必死に笑いをこらえて大師匠が真面目な顔をするが、笑いをこらえすぎて変な表情になっている。
「私たちの家にある絵が、彼らが異世界から来た証拠になるかと。」
ヘルバティアがそう言って師匠の顔を見つめる。
「ううん?、そうなのか。君たちの両親の件は知っているし、あの事件は解決はしたのだが、……そうか、もしかしてその絵が解決の糸口になったとかいうのか?。」
「はい、両親が残した絵の謎は、彼らが異世界から来ていないと説明がつかないものでした。」
ミアンが答える。
「私たちが驚いたのは、両親の残した資料を読んで解析して、彼があの男の持っていた絵を予想し、その通りだったということもあります。」
ミヤンが補足するように答える。
「しかし疑問が残るな。君たちの両親はどうしてそんな絵を残したのかね。」
大師匠は当然の疑問を発する。
「実は、……どうやら、両親は過去に、何かの拍子でニシキさんらがいたその世界に行っていたことがあったからです。その時の記憶でインパクトのあったものを絵にしたのです。」
ヘルバティアがそう答えると、
「じゃあ、その孫弟子のいた世界でこの孫弟子は君たちの両親に会っていたとか。」
「それはないです。どうこけてもないです。その両親のいた時期、その場所に俺はいなかったことは断言できます。」
俺が強く断言する。
「まあ、直弟子の話を聞いていると、この孫弟子が異世界人なのはわかってきたし、このグランドキャットが我々の会話を理解できるし会話もできることはよくわかった。うーーん。よし、明日の朝に組合本部長の部屋に来てもらうか。……あ、助っ人の私はあとで別に組合本部長と話をするからな。昼食後に君たちの家に行って、その絵を見せてもらおう。」
大師匠ディマックはそう言って、自分自身を納得させているようだった。でもいまだに組合本部長であることを3姉妹の前では隠そうとしている。何か無理してる感も結構出てきてる気はするのだが……。
結局大師匠が買ってきてくれた夕食をとり、この別宅に宿泊となる。
「じゃあ、お前たち一緒の部屋にして……。」
「俺とメム、3姉妹で分けてください!。前にここに来た時の部屋割りをお願いします!!。」
大師匠が全て言い出す前に頭を下げてしっかり言っておく。というかまだこの大師匠は誤解したままひきずっているのか……。
「まあ、そんな大声で言わなくても、わかったから、わかったから。そんな頭を下げたままでいることはない。」
大師匠はそう言ってヘルバティアを見る。
「どうだ、パーティリーダーとしては部屋割りは前に来た時のでもいいのか。」
「……まあ、ニシキさんがそうまでして師匠に言うのなら、いいのですが……。」
ヘルバティアがやや不満そうな表情を見せながらもそう答えてくれる。
「チッ、意気地なしが……。」
メムがボソリと言ってくる。
この元女神猫、後で覚えていろよ……。
そう思いながら俺はさっさと前に来た時に使った部屋に入る。もう精神的な疲労が溜まりまくってしまっているので静かに休みたい……。
「何よ、意気地なし、根性なし。いいじゃない、やり逃げも男の甲斐性っていうし。」
部屋に入り落ち着いた途端にメムが物騒なことを言う。
「………メム様、どこでそんな言葉覚えたのですか。時代が古すぎですよ、どこぞの優秀な種馬じゃないのですから。」
「何、結構怯えているの?。せっかくの据え膳じゃないの。据え膳食わぬは男の恥、ともいうじゃない。」
「俺はいつからそんな軟派野郎なキャラ付けされたのですか。」
「さっきから。」
俺はそれを聞いて無言でメムの顔を両拳でグリグリする。
「人をなんだと思っているのですか、こっちは元に戻ることを最優先に考えているのですからね、わかっていますか、メム様。」
「ダンさんごめん、ごめんなさい。ジョークよジョーク。」
「ジョークにしては洒落にならなさ過ぎですから。本っ当にもう、あなたのやらかしからこうなっているのですからね。」
「わ、わかった、わかりましたから、勘弁、してください。申し訳、ありません、でした。痛い、痛い、結構痛いわ。」
まあとりあえずということで、メムの顔から両拳を離す。
「ふう、ダンはいつの間にそんな新たな痛めつけ方を、尻尾以外の部位を痛めつけることを覚えたのかしら……。ところで、結局はどうなるの?、私たちは。」
「まあ、明日には、家に、下宿先に戻ってあの5枚の絵を見ながら説明することになるでしょう。人体実験やら解剖やらはなさそうですが……。まあやっぱり、俺とメムが異世界から来たということをすぐには信じられないという反応でしたね。ただ、あの補佐官とあの組合本部長兼大師匠ですから、何を考えているか読みにくいし、どんな条件をふっかけてくるか。正直に元の世界に戻る方法を探していることも言わなきゃならないでしょうし。」
「協力してくれればいいのだけどね。」
俺たちは部屋で大きくため息をつく。今後どうなってしまうのか。
「ダン、もう一つ聞くけど、あなたが前世の地球での日本での、死ぬ前にあったことはあの3姉妹には説明しないで元の世界に戻るつもりかしら?。前世での過去のことはこの世界では封印したままにするの?。」
「正直、それが一番でしょうし、互いに傷つかずに済むのじゃないかと思っていますから。メム様……。」
「うーん、それでいいのかしらね。」
「もう俺は嫌ですから、あんな思いするのは………。」