176弾 説明準備しておこう?
「あ、あ、しまったわね……。」
メムはやっちゃったと言う感じで軽くそう呟くが、
「!!!!!!!!!!!!!」
まさかこのタイミングで言葉を発してしまうとは……。俺も思わぬことに顔が引きつりパニクってしまう。
「なるほど、言語を発するグランドキャットか。」
「今発した言葉からすると、私たちの言ってることも理解していると言うことね。」
ディマックさんとリーゼさんが立ち去ろうとするところをそう言いながら急速にUターンして、メムに接近してジロジロと眺め出す。
「もしかして、他にも何かあるのじゃないか。」
「ダンちゃん、あなたにも何かあるのではないですか。」
ディマックさんとリーゼさんが俺からもいろいろ話を聞き出そうとする。
「……あ、あのう、これから組合本部に行かれるのではないですか。急いだ方がいいと思いますが。で、メムの会話できちゃう件については後日詳細に説明しますので、今はまず組合本部とかに行かれたほうが……。」
必死のパッチで俺もパニクる頭の中を整理しながらそう言ってみる。
「よーし、補佐官を組合本部に送った後は早速戻って話を聞こうじゃないか。補佐官殿は今後のことも警備のこともありますので、本日は大人しく警備隊員に警護されてください。」
ディマックさんがそう言うと、
「うーん、話は聞きたいけど、……じゃあ後日話は聞かないとね……。近いうちにね。」
リーゼさんはそう言ってディマックさんに連れられて組合本部に行くことになりこの場を去っていく。俺は2人が去るのと同時に膝から崩れ落ちながら頭を抱えてしまう。
リーゼさんとディマックさんが去って、しばらく沈黙の時間が続いたが、
「まあ、いつかはバレるものでしょうから、いいのじゃないですか。」
メムに駆け寄りハグしながら、ヘルバティアがそう言って慰める。
「そうね、食い物につられてついうっかり言葉を発してしまったのよ。これは事故ね、事故。」
この元女神猫はとんでもなく勝手な言い訳をかます。アンタのその意地汚さがこの状況を生んでしまっていることを自覚してほしいのだが……。
「しかし、あの2人にバレた以上どうなるのでしょうね。」
ミアンが顔を上に向けて天井を見つめながらそう呟く。
「まさか、ニシキさんとメムちゃんは実験材料になるとか、何か拷問とか……。」
恐ろしい予想か妄想をするミヤン。
「ミヤン、なんてことを言うの。いくら何でもひどすぎるわよ。メムちゃんは決して渡さないわよ。パーティリーダーとして断固渡さないわよ。」
ヒシとメムを抱きしめてヘルバティアが決意を示す。ただ力が入りすぎたのかメムが苦しそうになり必死でヘルバティアにタップをする。
「というか、ティア姉さん、そこにはニシキさんも入れないと。まあ……私が一生かけてもニシキさんを守りますし、ええ、決して渡さないですから。」
何か重い感じも含んだミアンの発言を俺は思いっきりスルーしてこの後あの2人にどう説明するかを考える。
「私たちもこのことについて師匠に聞かれるのかなあ……、少しやりにくくなる気がするわ。」
ミヤンが俺とメム、それにメムに抱きついたままのヘルバティアを見ながらそう呟く。
「もうこうなったら開き直って、俺とメムがこのパーティを離れて好き勝手やるか……。」
俺がそう言うと、
「「「何言ってるのですか!!。そんなことはさせません!!。」」」
三姉妹が一斉にそう言って今の俺の発言を潰しにかかる。そしてそう言ったヘルバティアがメムを強く抱きしめてしまい再びメムがヘルバティアにタップする。
「……しかし、こんな時にうっかりとは言え、メム様をどうするかは考えなくちゃならないですね。……まあ、正直に説明するしかないでしょうけど……。」
結局思考の行き着く先はこれしかないのだろう。
「まあそうでしょうね。」
ミアンが不承不承ながらもそれを認める。
「でも、何か条件をつけられるのじゃない。」
ミヤンが暗い表情で可能性を示す。
「まあ、条件次第でしょう。あまりにもふざけた条件を押し付けてくるのだったらこの世界全部を相手に一戦やりあうのも一興かと………。まあその際は皆さんとは一生の別れになるかもしれませんがね。メム様もそうですよね。」
俺が真面目な顔でそう言うと、
「嫌よ!、嫌よ!、絶対嫌よ!!。そんなの変じゃないの!!。せっかくいろいろ助けてもらって、そんな理由で離れるなんておかしいわよ!。勝手すぎるわよ!!。いなくならないでよ。もうこれ以上居なくなるのを見るのは嫌よ……、メムちゃんやダンと離れるなんて、……絶対、絶対にいやよ。」
ヘルバティアがそう言って半泣きで俺に飛び込んで抱きついてくる。
「その通りです。」
「ほんと勝手だなあ、ダンって。」
同時に双子妹も俺に飛び込んで抱きついてくる。
「ダン、この女神を差し置いて何勝手に決めてるのよ。」
メムもそう言って俺にのしかかる。
3姉妹と一匹に飛び込まれ抱きつかれて俺は支えきれず体勢を崩し、抱き合ったまま仰向けになってしまう。
「遅かれ早かれ私のこともダンのことも誰かには言わなければならない、それを伝えるべき人が増えただけでしょう。あの2人は大丈夫でしょう。多分。」
メムが3姉妹と一緒に俺にのしかかりながらそう言ってくる。
少しの間、このまま沈黙したまま時は流れる。俺は感動してちょっと泣きそうになっていた。
そこへ、ディマックさんが、
「おう、あたいだ。戻ってき……た……ぞ、……失礼した。……ゆっくりむつみ合ってくれたまえ。……しかしまとめてやる気になるとは……。1人対3人と一匹でやるなんて、マニアックなのか新たな扉を開けるつもりなのか……。で、場所は変えなくていいのか。」
「……違いますから!!。全く違いますから!!。」
ディマックさんの誤解を解くべく、俺が必死に叫ぶ。まあ絵面が絵面だからそう誤解されるのも……。しかしまあ、感動のシーンが台無しに……。
「いくらなんでも、あたいが実験材料とか分解解剖するとかそこまで無茶な条件をつけたりはしないだろうが。そんな思い詰めなくてもいいからな、ニシキ君。」
大広間の応接椅子に座って、皆が話をする体制になる。
先ほどの誤解は多分解けたはずだが、3姉妹は妙にバツの悪そうな表情で座っている。
「まあ、こうなったらいろいろ話をするしかないのでしょうが、聞いたことを口外しないでいただければ。」
俺が下手に出てそう言うと、ディマックさんはニヤリとして
「そうだな、条件はあるが、いや、そんな表情をするな。大した条件じゃない。どうだ、あたいを大師匠と認めて、そう呼べばいい。あたいはニシキ君を孫弟子と呼ぶことにする。」
まさか、補佐官の救出と護衛の依頼を開始する前に潰した大師匠・孫弟子呼びの条件を復活させてくるとは……。
「ええ、なぜそんな、孫弟子、大師匠呼びが嫌なのですか?。」
ヘルバティアが悲しそうな顔で俺に聞いてくる。
「……まあ、あの何か響きが良くないし、精神的に何か疲れるものがあるからだ……。」
俺がドギマギしながらそう答えると、案の定、
「え、私たちの弟子であることが嫌なのですか……。」
ミアンもが悲しそうな表情で俺に聞いてくる。
「いや、いや、そう言うのじゃなくて、それに、それに、今の条件は飲みますから。いいですよね。大師匠。」
この空気では条件を飲まざるを得ないのでそう返答する。
「まあ、ということだ。別にニシキ君がお前たちの弟子が嫌とかじゃないのはわかっているからな。まあお前たち直弟子もこの孫弟子をしっかり面倒見てやることだ。」
ディマックさん、大師匠が得意げな顔でそう言う。うー、なんか癪に触るけどなあ。