175弾 このやらかしをどうにかしよう
このトテポの滝は見事な絶景を生み出しているが、この先は進めそうなところはなく三方を絶壁に囲まれてしまっている。進むとしたらこの絶壁を登ることになるのだが……。
「師匠、私たちにお任せくださいませんか。10台のドラキャごと抑えて見せますが。」
意を結したかのようなヘルバティアの表情と発言に、
「まあ、いいか。アレをやってみるのか。いいだろう。思いっきりやれよ。」
ディマックさんがその『アレ』について何か知っているのか、ニヤリとしながらヘルバティアの願いを聞き届ける。そういえばあまり気にしていなかったというか、自分とメムの戦闘ばかりで目に入っていなかったのか、3姉妹もディマックさんもリーゼさんも短杖を手に持っていることに気がつく。それに気づきながら俺はゆっくり拳銃を抜き出すが、
「まあかなりぶっ千切ってやったから、奴らが来るまで少し余裕があるからな。」
ヘルバティアがうなずきながら双子妹に確認する。
「大丈夫です。行けるわね、ミアン、ミヤン。」
「はい、こっちは魔法式の展開完了。」
「こちらも準備完了。」
そこから2呼吸ぐらいのタイミングでドラキャの走行音が聞こえてくる。かなり急いでいるようだ。その音がして数十秒後には先頭のドラキャが現れて一気に出入り口を抑えるように停車して、10台のドラキャから覆面姿の方々が降りてくる。合計で30人か。距離をとっているのは何かの用心なのだろうか、その距離およそ30マータルぐらいか。
「さあ、もう逃げられまい。おとなしく俺たちと来てもらおう。それともこの絶壁を登っていかれるのかな。」
戦闘の黒覆面姿の襲撃者が大声でそう言って短杖を出しながら勝者の余裕を見せて、俺たちに降参を迫る。
その時、
「ガイドライティング!。」
ヘルバティアが杖を掲げてそう言い出し魔法を発動させると、強烈な光球が襲撃者たちに襲いかかる。
「うお!。」
「くっ。」
「うわっ!。」
目眩しの魔法か。襲撃者たちが視界を奪われたのか、皆が棒立ちの状態になっている。
そこに
「フローズンケージ!。」
「フレイムフラワーガーデン!。」
杖を掲げたミヤンとミヤンの魔法が、ほぼ同時に発動する。
襲撃者たちの周りを囲うようにに大きな氷の檻ができてその直後にすぐ、氷の檻の中に囲われた襲撃者たちとドラキャを包み込むように焔の塊が花が咲くように広がっていき、氷の檻の中で襲撃者たちがドラキャごと大きな焔の花に焦がされていく。
そして、火属性魔法と水属性魔法が干渉し合い、水蒸気がもうもうと上がる。
「よし、とりあえずの、……ウィンドウォール!。」
ディマックさんが風属性魔法を発動させて、水蒸気を風で払い除ける。
「「「ふぅ、よしっ。」」」
3姉妹が同時にそう呟き、どうやらこれで魔法の発動をし終えたようだが、水蒸気が霧のようになり周りが見えにくくなる。
「ウィンドバースト!。」
ヘルバティアが風属性魔法を発動させて、水蒸気を吹き飛ばして、……襲撃者30人は皆苦しみ悶えている状態になった。
「……これは、蒸し焼きみたいになっているのか……。火属性魔法と水属性魔法は相反するとは聞いていたが、こんな魔法のコンビネーションがあるのか……。」
俺はあまりに壮絶なこの姉妹の魔法発動の合わせ技に驚いてしまう。
3姉妹は疲れた様子になり、後方のドラキャに体を寄せている。かなり魔力や体力が削られたのかなあ。
と、リーゼさんがクロスボウを上空に向けて射ち出すと、打ち出された矢はキーンという音を出しながら煙を出して落ちていく。
「さあ、こいつらは縛ってしまおう。」
ドラキャから短めのロープを出してディマックさんがそう指示を出す。
俺は拳銃をホルスターに納めて、皆と一緒に手首を縛り上げる。
「そういえばさっき矢を放ってましたが、何か知らせたのですか。」
「まあ、そのうち分かるさ。」
襲撃者たちの両手を縛りながらぶつけてみた俺の疑問に、ディマックさんがニヤリとしながらそう答える。
それから十数分後、
(敵、いや違うわね。でもまた誰か来る気配ね。)
見張りをしてくれているメムが俺に念話術でそう告げる。
そして、ドヤドヤと警備隊員たちがやって来て、襲撃者たちを全員引き取って連行していく。
「皆さん、ご協力ありがとうございます。」
リーダー格の警備隊員がそう言って俺たちに礼を言って引き上げてしまう。どこの街の警備隊員なのだろう。
でも、あれ?、これから補佐官とかの護衛はしないのだろうか。俺はいろいろ疑問が浮かんでいる状態になるが、補佐官の護衛をしない理由は分かった。
「じゃあ乗れ乗れ。」
ディマックさんがそう言って、皆をドラキャに乗せると、ディマックさんが操縦してドラキャを走らせる。
なるほど、護衛ができないな、このスピードでは……。まあ組合本部長がある意味カスタム化してかなりのドラキャにしたからなあ。
思いっきり走らせているらしく、車窓がビュンビュンと変わっていく。結構スピード出して大丈夫なのかこれ。ヒヤヒヤしながら乗ってるうちにかなりのスピードのせいかもうイチノシティの街に到着してしまう。
「よーし、ご苦労だった。新パーティでの初依頼はこれで間も無く完了だ。」
ディマックさんがそう言って依頼完了が近いことを教えてくれる。そのまま街に入ってデイマックさん兼組合本部長の別宅へ進んでいく。
別宅に着いて、降りると大広間に通される。
大広間に入るとリーゼさんが頭を下げてお礼を言う。
「本当にありがとう。救出してくれた上、護衛任務に手を貸してもらって。これで依頼は完了です。本当にありがとうございました。」
「いえ、無事に済んでよかったです。」
そう言ってパーティリーダーのヘルバティアが代表してお礼を受ける形になる。
「本当に実力も文句なしだわ。やっぱり逸材は野に眠らせるわけにはいかないわね。みんな王都で働いてみない。護衛役に最適だし、もちろんダンちゃんには兼ねて内政の手伝いをしてほしいし、メムちゃんにはモデルとマスコット役がいいかもしれないわね。」
補佐官は人材収集にスイッチが切り替わってしまう。
「あたいも助っ人として仕事させてもらったからな。また今度一緒に仕事してもいいな。」
いや、ディマックさん、あなたはまだ組合本部長であることを弟子に隠したまま一緒に依頼をこなすつもりですか。それがバレそうで結構やばい感じなのですが。
「しかし、最後の追われた感じで逆に一網打尽にする計画は、最初から立てておられたのですか。あんな見事なタイミングで警備隊員が現れるとは思いませんでしたから。」
俺が疑問を口にする。
「……まあ、組合本部長と宰相補佐官の長年の付き合いで、前々からあらましは考えていたのさ。宰相補佐官はこう見えて結構ヤンチャなところあるからな。組合本部長の計画にノリノリだったからな。」
「へえ、ヤンチャだったのね。私は……。」
そう言ってリーゼさんが夜叉のようのな表情になり、スッとディマックさんにプレッシャーをかけてくる。
「あ、いや、言葉が滑っただけです。そ、そんな威圧しないで、プレッシャーかけないで……。」
ディマックさんが少しうろたえる。
「じゃあ組合本部長のところに行って完了を報告すれば依頼完了になるのですね。」
ヘルバティアがリーゼさんのディマックさんにかけるプレッシャーを我関せずとばかりにスルーしながら依頼完了後の話を開始する。
「そうだなあ、ボーナスはどうなるのかなあ。まさか0クレジットなんてことはないよなあ。」
「そんなことはないでしょうけど、後で相談でしょうね。でもここであまりお金の話をちらつかせるものではないわ、ミヤン。」
ミヤンとミアンが金銭関係の会話をする。
「よし、これからあたいと補佐官殿は組合本部に行ってくるから、お前たちはここで休め。」
ディマックがそう言ってリーゼさんを連れ出そうとする。
「メムちゃんも大活躍したようなものだわね。後で食事券とか、また今度宰相邸に来たら思いっきり美味しいものをたっぷり食べてもらおうかしら。」
最後にリーゼさんがそう言ってメムを労いながら別宅を去ろうとする。そこで思わぬことが発生する。
「はい!、ゴチになります。リーゼさん。ありがとうございます。」
メムが立ち去ろうとするリーゼさんの背中に向けて、思わず大声でそう返事してしまうというやらかしをしてしまう。