174弾 3姉妹の本気見てみよう
翌日、村人総出で宰相補佐官とその一行を見送ってくれる。
まあ、宰相補佐官として消息不明のところを急に現れたようなものだから、とんでもなく大げさにはなる。
ドラキャの中に乗り込み俺が操縦して隣にメムが座る。皆、変装を解いているためか雰囲気がちょっと違う感じになっているような気がする。
「まあ、ゆっくりでいいぞ。」
完全にすっぴんになったディマックさん、本名がマックトッシュ・マーグレノアでイチノシティ組合本部長だが、3姉妹には変名のディマックの名で変装術の師匠として向き合っているためディマックさん呼びにしていて、3姉妹には組合本部長であることは隠している。
絶世の美女の部類に間違いなく入るが、いろいろクセが強すぎるのと発言が少々問題があるのと組合本部長の仕事を部下に丸投げしているようなところが美女感をものすごく損ねている。一応師匠としての自覚はあるのだろうが、助っ人という割になあ……。
少し険しい顔で何か考えているアルトファン・リーゼ宰相補佐官。若作りなところはあるが実際若々しい。俺を内政の道に引き込もうとしてるようだが。ただし今は政敵に狙われる立場になっている。
「ところで、このまま道なりに進んでいいのですね。」
「ああ、いいよ。あたいが指定する場所まで進んでくれたら、あたいと操縦を交代しよう。」
「ど派手にとは言いませんがこんなに目立ってしまうことで、逆に襲撃者たちは手を出さないのじゃないですかね。」
俺がディマックさんに尋ねてみると、変装を解いて少年ヘイルさんから戻ったヘルバティアが代わりに答える。
「ニシキさん、裏ギルドを使う人は必ずいますから。こういう裏系統の依頼は受けた者が裏切る場合もありますが、依頼者側もそれなりに依頼を完了してもらうための担保を取ったりしていますからね。」
ああそうだ、この3姉妹は裏ギルドの依頼をこなしていたからな。ある程度そこの話には詳しいわけだ。
「多分襲撃者たちは戦力を1箇所に私たちを追い立てて、その後殺すなり捕えるなりして目的をとげて依頼を完了させる、ということになるでしょう。」
初老のコックのイワンさんの変装を解いたミアンがそう分析する。その横で同様のイワノフさんに変装していたミヤンがうんうんとうなずいている。
「さすが、我が弟子だな。」
妙に満足げな師匠のディマックさん。しかしこの師匠は弟子を甘やかしすぎじゃないですかね。
そこへ、
(追撃かしら、尾行かしら。結構な人数ね。)
メムが首を上げ鼻をぴくつかせて反応する。どうやら認識可能範囲内に敵さんが入ってきたようだ。
「メムが反応していますが、速度とかはこのままでいいのですか。」
「もちろん、このままでいいよ。」
ディマックさんは余裕を感じさせながら答える。なんかろくでもないことを考えている感じに見えないこともない。
そのまましばらく走り続ける。どうやら後をついてきているような感じでドラキャが3台、後方を走ってくる。
結局、距離はそう接近することもなく150マータルくらいの距離を保って俺たちのドラキャの後方を走り続ける。俺が試しに少し速度を上げてみたら、後方のドラキャも同様に速度を上げてくる。尾行する気満々といった感じだった。
しばらく走り続けて昼頃になると、ディマックさんが指定した場所に到着する。ただっ広い場所に大きな木がある。そこで停車して昼食をとり操縦を交代することになる。
尾行していたドラキャは、そのまま俺たちを追い抜いて先に行ってしまった。
「まあ、予想通りの展開になったな。」
「本当、教え子としてよく育ったわね……。」
元教え子のディマックさんの自信ありげな発言に少し呆れ気味な元先生のリーゼさんである。
「本当に予想通りなのですか。そもそも襲撃者たちへの具体的な対応計画なんてなくて行き当たりばったりということはないですよね。」
俺は半ば呆れ気味に聞いてみる。
「何だ、ニシキ君はあたいを信用していないのかい。そんな行き当たりばったりなことはないだろう。ちゃんと変装させて情報をかく乱させて、ここぞという所で変装を解くことで見事に奴らは食いついたのさ。ここからは迫真の演技力が必要になるからな。これから一番必要なのは逃げる演技だな。」
ディマックさん、自信満々なのはいいけど、ほんとに大丈夫なのかなあ。
「なんかニシキ君の表情からは、信用とか信頼いう文字が見当たらないのだけどな。まあ、見ててくれ。この後しばらく走っていると、トツロヤキ渓谷に追い込むべく進行方向の前方と後方からあたいたちを追いたててくる。それに追われる格好でそのトツロヤキ渓谷前のトテポの滝の付近に逃げ込む。そこを一網打尽にしてやるのさ。」
そう聞いてヘルバティアとミアンがうなずく。
「じゃあ、あの魔法を発動させることも考えておかなければいけないわね。準備はいいかしら、ミアン、ミヤン。」
双子妹がうなずく。
この3姉妹が発動させる魔法、どんなものなんだろうか。それよりトツロヤキ渓谷のこともトテポの滝のこともよく知らないのだが……。
操縦者を交代してディマックさんがドラキャを操縦する。隣になんとリーゼさんが座っている。
「いいのですか。隣に座っていても。」
「私も奥に引っ込んだままじゃ囮にならないでしょうし、目立たせることが必要だからね。」
補佐官は肝が座っている。
「ああ、もっと派手に目立たせるべきだったかなあ。ドラキャの後方にこう『宰相補佐官乗車中』とか『宰相補佐官参上』とかの幕を付ければもっと目立っただろうけど。」
ディマックさんは変な反省をしているが、その発言をしたディマックさんを険しい目線で見つめるリーゼさんである。
しばらくドラキャは沈黙の中走っているが
「そういえば、ヘルバティアさんたちはそのトツロヤキ渓谷とかトテポの滝に行ったことがあるのですか?。」
俺もふと思うところがありヘルバティアたちに尋ねてみる。
「ええ、2度ほど。」
「ふうん、そうですか。」
ヘルバティアと会話をし始めたところに
(ダン、絶妙のタイミングなのかしら。後ろから尾行かしらね。4台ほど来るわ。)
またまたメムの認識可能範囲内に入ってきたようで、メムが姿勢を伸ばして鼻をクンクンさせる。
「メムが反応しています。後方からですね。」
俺がそう言うと、
「ようやくお出ましか。」
ディマックさんが予想していたのか大胆な発言をして少しドラキャの速度を上げる。
それに呼応してか、後方の4台のドラキャは必死に走り寄ってこようとする。
離されずにかつ見失わないような距離を必死に保ちながら走り続ける。
しばらく道なりにドラキャを走らせていると、T字型の交差点が接近してくる。直進するか進行方向の右側に曲がるかのどちらかであるが
(前にもいるわ。多分追い抜いて行った奴らね。)
メムがまた鼻をクンとさせて俺に念話術でそう告げる。
「あー、前にもやはりいるか。」
何か楽しそうにディマックさんが呟きながら、ドラキャを急操作で一気に右折させる。
「もしかして、これから追われる演技の開始ですか。」
俺がそう尋ねると、
「ああ、これから揺れるから舌噛むなよ。」
そう言ってディマックさんの操縦が一気に荒くなる。
追ってくるドラキャが合計8台いや、追っかけてくるドラキャが2台増えて合計10台になる。土煙を上げながらのカーチェイス、いやこの異世界ならドラキャチェイスというところか。
ディマックさんは、故意になのかわざわざ俺たちの乗るドラキャを左右に振る操縦をして、追われている感を出しながら追いすがろうとするドラキャを振り切ろうとする演技を見せる。
その演技に完全に騙されたようで、より速度を上げて、坂道に入っていく俺たちの乗るドラキャをさらに必死に追い詰める。
「おーい、警告する!!。そのドラキャを止めろ!。この先は行き止まりだぞ!!。」
「おとなしく止まれ!。そうすれば命だけは助けてやる。」
追ってくるドラキャが横に並び出して、俺たちの乗るドラキャに向けていろいろ言ってくるが、ディマックさんが一気に速度を上げて坂道を抜け、土と草だらけの山道に入り追ってくるドラキャを引き離す。まあホードラに違いがあるのかここでの引き離しっぷりは、まるで前世日本の競馬G1レースで大差で勝利した名馬みたいなゴール前の引き離しっぷりを彷彿とさせるものだった。
そのまま一気に引き離して、トテポの滝とやらに着く。見事な滝だなあ。と見惚れる暇もなく、
「さあ、降りろ降りろ。ここからは大勝負だからな。」
ディマックさんがリーゼさんを庇うように降り立ち、俺たちに降車の指示を出す。