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173弾 ここで油断の演技しよう

「ふむ、やっぱりそうか。ティグレス君はなぜ尾行つけられていると?。」


 操縦しながらでディマックさんが反応する。


「メムの反応が一番です。あとは……。」


 俺は少し言い淀む。


「構わないよ、続けてくれ。」


「昨日あの魔法使いを倒したことが原因だと思われます。」


「ふーむ。なるほど。」


 ディマックさんはそう言って考え込む。


「え、なぜそれで尾行つけられているということになるのですか。」


 イワンさんが後方を気にしながら俺に尋ねる。


「推測になるのですが、……あの通行妨害自体がとんでもなく妙手だったのです。そのまま突っ込んでしびれ薬と風属性魔法で動きを止められれば、その後、動けなくなった俺たちを調べて目的の者なら、殺すにもさらうにも楽に済みます。」


「それでもティグレスさんのおかげで突破できたのに、どうして尾行ができるのよ。」


 ヘイルさんが顎を右手でなでながら聞いてくる。


「二段構えの策だと考えれば。そのしびれ薬と風属性魔法の組み合わせの罠を突破してきたものを探ればいい。さっき言ったように動きを止める罠にかかればそれでよし、かからなければそれだけ腕のある者だから、それに狙いをつけて探っていけば消息不明の宰相補佐官にたどり着けるかもしれない。そういうところじゃないでしょうか。」


「まるで選抜試験みたいですね。私にたどり着くための。」


 マリーゼさんが微笑を浮かべながら言う。泰然としてるというのはこういうことか。狙われているのにこの余裕、これは演技なのか、それとも政治の世界に生きるものはこんな感じな者ばかりなのか。


「多分、尾行を続けて行き先とかを調査確認しようとしているのじゃないでしょうか。」


 俺がそう言うと、


「全く同意見だ。ただしこちらの変装を見破っているのかどうかは不明だがな。」


 とディマックさん。


「こうやって見てると中年から若年の商人たちの集団という感じですからね。」


 ヘイルさんも変装には自信を持っているようである。


「今度はティグレスさんにもまた変装術を教えないとですね。」


 イワンさんがそう言ってくる。


「しかし、きっちり尾行続けてきますね。」


 イワノフがそう言うと、


「まあどうだろうな、もうすぐついて来れなくなるだろうな。」


 ディマックさんが自信満々にそう言い出す。

 しばらく走っていると、


(すごい、予想通りになったのね。距離が離れていくわ。)


 メムが念話術で俺に告げる。

 その予想通り俺たちを尾行つけていたドラキャは、じわじわと遅れて離され始め、メムの認識可能範囲から外れていった。


「でもいいのですか。尾行を振り切って仕舞えば安全になるかもしれませんが、遮二無二我々を探しにかかることになってしまうのじゃ。」


 ヘイルさんが少し心配するが、


「二段構えの柵は意外と穴がありますから。一段目の無差別の策では消息不明者が多数出ることになるからその対応に人手を割くことになるでしょうし、一段目の策を抜けてきた者を見つけても、ホードラの力の差で振り切られるとなったあと、再度探すことになるとはいっても行き先の方向を絞る手間がかかるでしょう。そうなると人海戦術で情報を集めることになりますが、果たしてうまくいくかどうか。」


 マリーゼさんがそう言いながら落ち着いている。


「じゃあ、この速さで進めば一気にイチノシティの街につきそうですね。」


 俺がそう言うと、


「いや、ホードラの疲労の事もあるから、途中の村で一休み、一泊する。」


 ディマックさんがそう言い出す。


「と言うことは、その村で何か尻尾を見せて今回の襲撃者たちを誘き寄せる準備でもするのですか。」


「ティグレス君、正解だ。」


 やっぱりか。マリーゼさんもディマックさんもこの件を奇貨としての計画プランがあるのだろうが、全部を最初から俺たちに教えてくれないのだな。小出し小出しに教えている感じだが。まあ全容が漏れたら困るからかなあ……。



 そうして日暮れには目当ての村についてホードラを休ませて餌を与え、この村の宿に泊まる。そういえば、ドラキャを使って思ったのだが、こういう村って道の駅とモーテルとガソリンスタンドが一緒になったような村なのだなあ。


「結構このような形の村が多いような気もするなあ。」


「あら、変なことを言うわね。このような形というのはどういう意味かしら。」


 俺の呟きをマリーゼさんはしっかり拾ってくれて俺に聞いてくる。


「いや、街と街の間にドラキャを停めてドラキャの整備と宿泊ができる村が結構あちこちにあるのかなという気がしただけでして。」


「へえ、結構当たり前のことなのだけど。村の一機能として宿とドラキャの整備や手当てはできて当然よ。」


「ふーん、いやただ停めるだけじゃなく、こういう場所で周辺の村の特産品とか販売すれば、観光客とかもっと寄ってくるかもしれないと思うのですが。……ああ、いやいや、今の話は聞かなかったことにして下さい。」


 少し疲れていたのか、依頼のことを忘れて、前世日本での道の駅での観光地化や特産品販売のことを思い出してしまいついうっかり話してしまったような感じになる。


「へえ、面白そうな話ね。ぜひじっくりと話を聞きたいわ。そもそも『かんこうきゃく』って何かしら。今からでも話しましょう。」


 宰相補佐官でもあるからか、こういう話にすごく食いつかれてしまった。


「あ、あの、依頼が完了したらということで、今はまだ依頼中ですから。」


「それもそうね。」


 俺はそう言ってその話は後回しにしてもらう。



 夕食を携帯食糧で済ませると、宿の一室を借りて打ち合わせに入る。


「さあ、ここで変装は終わりだから。」


 ディマックさんがそう言い出す。


「じゃあ、変名で呼ぶのも終わりですか。」


 ヘイルさんが確認する。


「ああ、お前は明日の朝から、いや入浴後からヘルバティアに戻る。他のみんなもそうだぞ。」


「もしかして素顔を晒して、一気に襲撃者たちを集結させて殲滅するということですか。ということは、宰相補佐官を囮の材料に。」


 俺は確認する。


「そうだ。宰相補佐官は油断して素顔を晒した。消息不明ではなく襲撃者たちから逃れていた、という話にする。そして無事にこの村に現れて、イチノシティの街経由で王都に戻る予定という話を流す。この情報が流れれば焦る襲撃者たちはこの村からイチノシティの街へのルートを調べて、襲撃できそうなポイントで襲ってくるだろう。」


「そんな見事に食い付きますか。」


「焦ってしまっているさ。華束舞踏ブゥケサルターレで救出してから、今までほとんどまともに影すら踏ませていないからな。」


 自信満々にディマックさんは答えるが、マリーゼさんはどうなのだろうか。


「じゃあ、私の存在をより明らかにするために、ダンちゃん。一緒に村長の所に行きましょう。さっきの話をして欲しいし、これでより情報にリアリティが出せるわね。」


 マリーゼさんは俺の予想以上にノリノリで囮役をする気だった。



 夕食後、宰相補佐官のリーゼさんと俺とメムが一緒に村長宅を訪問する。

 村長はいきなり消息不明になっていた宰相補佐官が出現したことに驚きを隠せないようだったが、襲撃者たちに追われていることを告げると、


「それなら、村の手空きの者たちに交代で宿を見張らせます。そうでしたか。襲撃者たちから逃れるために消息不明になっていたわけですね。」


 ものすごく納得してくれたのであった。


「ところで村長さん、この者が少し面白い話をしてくれるから。」


 リーゼさんがそう言って俺に話をするように促してくる。いや、まさかこんなことになるとは。仕方ない、こうなったら思い切って、


「夜分にすみません。時間を取ってもらって。」


 俺はそう切り出して、この村や周辺の村の特産品や農作物を教えてもらい、それを販売する場所を用意すること、最初は初期投資も厳しいだろうからこの村にドラキャでやってきた者に宿泊時に売ってみること、もし可能なら試食とかをしてもらう。それと同時に特産品や農作物の保存期間や賞味可能な期間を調べておくこと。そういうことを説明すると村長は乗り気になり、より詳細を知りたがったものの、後日お知らせということになった。

 そのおかげでか宿では満足できるように気を遣ってくれた。まあ宰相補佐官が現れた事もあるのだろうが……。

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