172弾 この依頼は最終局面だろう
やはりそうか。
「それは未遂とはいえ襲撃を受けたからですか。それとも他の理由でしょうか。」
俺がマリーゼさんに尋ねる。
「そうね、そろそろ話してもいいかもしれないわね。この教え子から聞いていると思うけど宰相府で政治資金に関する改革をしようとして、それによる対立も起きているの。」
「話の腰を折って申し訳ないですが、政治資金に関する改革とは何をどう改革しようとしているのですか?。」
「あなたは何だと思っているの。」
まさかの質問に対する質問返しか。試されているのかなあ。とはいえ、
「政治に携わっている者の資金の流れの完全透明化。税金から使われる政治資金及び政治活動に使った資金の流れを下々の民にまでわかるようにする。民が請求すればその資金の流れが示された資料が受け取れる。それと、第3者による政治資金の監視でしょうか。」
「……思い切ったことを言うわね。でもほぼ正解よ。年ごとに王国及び宰相府で使われた政治関係の資金が税金からどのくらい支出されているか、それを誰がどう使ったかを各街で閲覧できるようにするの。将来的には街でも村でも閲覧できるようにしたいのだけどね。しかし、ダンちゃん、いやティグレス君は面白い考えを持つのね。第3者による政治資金の監視だなんて、その考えは使わせてもらいたいわ。」
マリーゼさんが満足気な表情で俺を見ながら答えを教えてくれる。そのあとを続けて、
「まあそこまで透明化すると、政治資金で支援者への奢りのための飲み食いに使ったり、己の意見を通すために対立者などにお金を渡したりする買収工作なんてことがやりにくくなるでしょう。ひどいのになると、政策をするためと言って自分の関係するような商店、商会に支払った政治資金がその商会商店から自分の懐に還流されるなんてこともあるからね。でも、そういう使い方で生きている政治家もいるからね。そういうのに限って、『政治や政策や内政にはお金がかかる。』なんて言い訳しながらそのくせ自分の資金の流れは何も公開しないなんておかしい事を言うのだから。」
少し愚痴も入っているようだが、さらにマリーゼさんは続ける。
「まあ、そう言う政治資金の流れの透明化に反対する者たちが宰相の改革に猛反対して今回の行動を起こしたのかもしれないわ。まあ、イチノシティの街については抜き打ちで視察するのが本命だったし、それと合わせて他の街をお忍びで視察するのも仕事のうちだから。ただ、今回は情報が漏れてかもしれないけど、イチノシティの街に向かう途中で襲撃されたのよ。ただこれを凌げば逆にチャンスだと考えたのよね。」
「やはり対立者をくっきりあぶり出すためにこういう行動を取ったのですね、先生。こういうことも予測されて前からいろいろ打ち合わせとかしているとしても、少し危険でじゃありませんか。
結局手間と時間がかかってしまいますし。」
ディマックさんが険しい表情でそう言ってマリーゼさんに苦言を呈す。
やっぱりこの先生と教え子の2人は襲撃自体を想定していたのだな。
「イチノシティ組合本部長の仕事ぶりは最優先で確認したかったから。このダン、いやティグレス君から話を聞いていたからね……。」
そう言って夜叉のような表情をするマリーゼさんに一睨みされたディマックさんは首をすくめて頭を抱える。
「で、あの襲撃未遂、ティグレスさんが片付けた襲撃者たちはどうしますか、どうなりますか。放っておいたままですが。」
ヘイルさんの疑問に、
「ああ、先生を救出した際にやられ損ねた奴らと共に集結して思いっきり狙い撃ちにかかるだろうな。残った襲撃者からあたいたちの情報は出ているだろう。ただ完璧な情報じゃないから、街の近くで無差別に麻痺させて調べるなんてことに及んだのだろう。」
ディマックさんがそう答える。
「もしかして、イチノシティの街の近くで一網打尽にしてしまおうとかですか?。」
「ほう、ティグレス君はいい読みをするなあ。なぜそう思うのかね。」
「……本来なら王都に直行するべきところを、イチノシティの街経由なんて何かあると思うしかなくて。」
「まあ、君にはこの3人以上に活躍してもらうからな……。」
ディマックさんがニヤリとする。
「じゃあ、ボーナスもたっぷりと支払ってもらえるのですか。」
俺もニッコリして聞いてみる。
「あたいから組合本部長にはしっかり言っておく。」
そう言う会話をして打ち合わせが終わり、各自で入浴と眠りについた。
しかし、大部屋でまとめて一緒に寝るなんてな。依頼中のためとはいえ、少し落ち着かない。服を着替えて変装は解いているが、着替えや変装のために一旦入浴に行くなどでなんとかしたが、今後もこんな気まずいような感じをするのだろうか。
(何、眠れないの。女性陣が気になってるの。)
人の気持ちを知ってか知らでかこんな時にメムが念話術で俺に話しかけてくる。
(今なら、あのディマックも喜んで3姉妹と乳繰り合うのは認めるのじゃない。ああ、そうか避妊具はお持ちでない。)
(何けしかけているのですか。勘弁してください。)
本当に困ってしまう。
(で、あれなら補佐官の方に手を出してもあなたの中身なら十分イケるのじゃないの。歳の割に若々しいし。まさか組合本部長を、でもあれは少年愛嗜好が強いからダンを受け入れてはくれないかも。)
(本当に何言ってるのですか……。こんな時に油断しないでくださいよ。)
(大丈夫なはずよ、一応見張られているけど。偶然来客が見とれているのかもしれない感じだし。)
(それが油断なのじゃないですか。)
(異常があれば起こしてあげるわよ。おまけにもう寝てるような気配ね。それにこの宿内で騒動を起こすとも思えないし。)
確かにそんなことをすれば、宿泊客の方々に袋叩きにされ、かつ宿の従業員にも同様にされたあと、警備隊の牢に宿泊するか、夜の野原等で野宿に変更することになる。
まあ、メムを信頼して落ち着くか。そう思いながら眠りについた。
翌朝、メムが朝食をとりながら、
(どうも私のことを見張っているような気がするのよね。)
と念話術で告げてくる。
(やっぱりそうですか。昨夜の夜に念話術で言っていたやつですね。)
(でも、偶然かもしれないけど、私が起きる頃あたりからね。)
(お子様がとかではないのですね。)
俺は周りを見渡すが、食堂内には俺たち一行以外は誰もいない。
朝食を終えて身支度を整えて出発する。
ドラキャに乗り込んだところで
(メム様どうです。今は。)
(まだ見張られている感覚があるわね。)
(じゃあ一応注意喚起しておきます。)
念話術でメムと確認をして、
「メムが何か感覚的に掴んでいるようですので用心してください。」
ドラキャ内で注意喚起をする。
ドラキャ内は少しピリリとした空気になる。
ドラキャの操縦はディマックさん、その隣にイワノフさんがついている。ドラキャはイチノシティの街へ向けて走り出した。
移動中は特に異常はなかったが、
(まだ見張られている感じが続くわね………。)
メムはまだ見張られている感じが抜けないようだ。
(複数人ですか、それとも単騎ですか。)
(うーん、複数なのだけど、距離がそんなに、なんていうか本当に付かず離れずの距離というのかしら。)
(多分、ドラキャで尾行されている、ということですね。じゃあこうなったら。)
メムと念話術での会話で状況を確認したのち、
「もしかするとこのドラキャは尾行られているのかもしれません。」