171弾 この読み当たりそうだろう
「何か私が子供っぽく見えるから、そう言って大人扱いしたらちょろいとか思ってませんか。ティグレスさん……。」
「いいえ、決してそんなことはありません。今の状況を打破するには、俺が一つ手を打てば皆さんに危害なく進めるかもしれません。」
「このまま言い合っていても時間だけが過ぎるのなら、ティグレスさんの話に乗ってみましょう。」
イワンさんがそう言って俺を後押ししてくれる。
「わかったわ。じゃあ行って状況を打破してきなさい。」
「はいっ。ありがとうございます。」
ヘイルさんからの許可も降りる。
「でも、どうやるつもりかね。麻痺の魔法の発動を喰らえば君も危険じゃないのか。魔法の仕組みでもわかったのかね。」
ディマックさんが眉をひそめて懸念を示す。
「最悪の場合は、メムだけでも逃がしますのであとはお願いします。」
俺はそう言って再度メムと一緒に人とホードラが倒れた現場に向かう。
ゆっくり用心しながら進む。
(何か気が付いたのね。)
やっぱり用心している時の念話術は便利だな。
(ええ、さっき匂い、変な匂いがすると言ってましたよね。)
(ええそうよ、嗅いだことのない匂いだったのよ。それが何かあるのね。)
(はい、その匂いが多分毒ガスみたいな物でしょう。それと風属性の魔法を組み合わせたのじゃないかなと。)
(え、どういうこと?。組み合わせるって。)
早足で歩きながらメムが首を傾げる。
(あくまで推測に過ぎないですが、毒の粉か何かを目標に向けて風に乗せて送り届ければそういうことも可能じゃないかなと。)
(なるほど、図書館とかで読んだ魔法についての話で単純で基本な、確か、ウインドブロワーだったかしら。そんな魔法を発動させて毒の粉を飛ばせば、ということね。)
(魔法の精度を上げれば、狙い撃ちができるかもしれませんね。)
そう念話術で会話してるうちに、間も無くさっきの現場へ近づくので潜みながら接近する。
(何してるのかしら。)
(なるほど、麻痺させて動きを止めていろいろ調べたりできる、ということですね。)
さっき倒れたドラキャに乗っていた人が道端に引きづられていろいろ調べられているようだ。
(服まで引っぺがされて、何でそんなことを。)
(これは、完全に補佐官狙いでしょう。変装していることを前提で通りかかる者、つまりは他の街から来る者を止めて調べているのでしょう。)
(前世なら、普通は警察が検問とかしているのよね。)
俺はメムにうなずき、少し考える。
あの麻痺魔法っぽいものを使うこと者が複数人いれば、一人倒してもそこで麻痺させられるかもしれないが……、
(メム様、さっきの匂いって1箇所からですか。複数箇所からですか。)
(ちょっと待って。)
あちこちを鼻でクンクンクンクンさせると、少し苦虫を噛み潰したような表情になるが、
(1箇所よ。しかし嫌な匂いね、これは。)
じゃあやってみるか、あの手で。
一旦ドラキャの方に戻り、道端を街の方向へ歩き出す。
(へえ、歩いてきたみたいな感じを出すつもりね。)
(ええ、警戒の方はお願いします。)
そうして堂々と道端を入場行進をしていると、
(あら、3人ほどこっちに接近してくるわ。)
(匂いの方はどうですか。)
(1箇所にとどまったままよ。)
前にも見たような黒覆面の奴らがやってくる。
「失礼だが、ちょっと確認をしたいのだが……。」
「失礼だが、何の権限と用件でかな。この近くの街の警備隊、という格好でもないだろうに。」
まあ予想していたのでハナから喧嘩腰気味に対応する。
「野郎!。なめた態度をとるとどうなっても知らんぞ。」
声をかけた黒覆面が激高気味になる。
(メム様、俺が2人を相手します。ぶっ放したら後ろの奴を思いっきり噛み付いてあげて下さい。どこでもいいですよ。)
念話術でそう伝えて、
「何だ、誰かを暗殺でもするつもりか。」
俺がそう言うと、
「おい、大人しく言うことを聞け。」
そう言って3人一斉に短杖を抜き出す。
それを見て
「集中。」
と呟き、相手の動きがスローに見えるところを、拳銃を抜き、銃身部分を握り銃把で2人の顔面を殴りつけて前の2人をぶっ倒す。
その瞬間にメムが後ろの相手の短杖を持つ手と局部に噛みつき、
「おおぉぅ、ま、まいった。」
3人はノックアウトとなる。
俺が殴りつけた2人は思いっきりやり過ぎたか気を失い、メムに噛まれた奴もしばらくうめいていたが気を失ってしまう。
(このまま一気に行きますか。)
(じゃあ、あの匂いの元に行くわよ。)
メムが前に立ち俺を誘導する。俺たちは一気に駆け出した。
道端を駆け抜けて、一気に匂いの元のするところへ接近する。
(匂いの元のところに人の気配、コイツね。)
メムの誘導で道端から左に曲がり低い茂みを飛び越えて目的の相手を見つけ出す。
林の中の小さな空き地にそいつは佇んでいた。
「貴様、何者だ。」
そいつは中世の悪役魔法使いみたいなフード付き修道服でフードを被り、なおかつ顔を黒い面で覆っている。
(あの袋から匂っているわ、腰に吊るした袋から。)
メムが念話術でそう教えてくれる。
「何者だと聞かれたら、通りすがりのとあるおっさんと言うしかないのですが。」
「……面白いことを言う。しかしここに来るまでに我が配下たちがいたはずだが。」
そう言いながら右手に短杖を構え出す。
こっちもすかさず右手で拳銃を構え激鉄を起こす。
「変わった短杖だな。しかも金属製の杖とは。我も見たことはない。」
そいつのセリフは余裕か、強がりか。
「そうかい。俺もこれの展示会をしたことがないのでな。そりゃ見たこともないだろうさ。しかし変わった魔法だな。通っていくドラキャや乗っている者が倒れてしまうのだから。無差別殺人か、それとも快楽殺人者か。」
「殺しちゃいないが、運悪く死んでしまうことはあるかもしれんな。どうだ、我と組んで一稼ぎしないか。消息不明の宰相補佐官をさらうか殺すかで大金になる仕事をしていてな。そのために魔法を使ってこの街に来そうなものを倒しては身元を暴いているのさ。本命ならそのままさらう、それだけで5000万クレジットの大金だ。どうだ、杖を構えるのをやめてくれないか。」
まあ暗殺者に類する奴か。じゃあやるか。
「断ると言ったらどうするのかね。」
俺は拳銃を構えたまま聞いてみる。
その答えかそいつは、
「ウインドブロー!。」
魔法を発動させる。
「集中。」
俺はすぐにそう呟き、引き金を引く。狙いは短杖とあの腰に吊った袋。
ドシュドシュドシュ
見事に3発【火球】の魔弾が発動して狙い通りに命中する。
「くそっ、なんと言う発動速度だ、しかも連発だと。ファイヤボール、いやそれにしては。」
「で、どうしますか。あなたの魔法のカラクリの一つはわかった気がするので。」
狙いが杖と腰の袋だったためか、本人には大きなダメージは与えきれなかったようだ。
「もしかして、しびれ薬と風属性魔法の組み合わせに気づいていたのか。だが杖が一本なくなったからといって勝った気になるなよ。」
そう言って予備のものか懐から短杖を出して構えてくる。
その瞬間、俺は引き金を引き
ドシュドシュドシュ
そいつは【火球】の魔弾を直撃されてガクリと崩れ落ちる。
「人の通る道は勝手に妨害したら犯罪じゃないのか。まあもう聞こえないかな。」
服と仮面が黒焦げになっている。
時間はちょっと食ってしまったかな。急ぎみんなのいるドラキャの所まで戻るとしよう。
みんなのところに戻った頃は日の入り直前だった。相手のしびれ薬と風を吹かす魔法を組み合わせた手口はドラキャ内で報告しながら、一気にドラキャを走らせてゴーノンシティの街に入り、宿に着く。この宿は大部屋の一部屋だけを使うことになる。
宿の食堂で夕食をとり、一部屋に集まると、
「ご苦労様でした。視察は一旦終了になります。明日からはイチノシティの街経由で王都に戻ることになります。」
とマリーゼさんが宣言した。