表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/189

169弾 この街で少し買い物しよう

 翌朝、説教部屋、いやマリーゼさんとディマックさんの泊まる部屋に集まり、視察についての打ち合わせを行う。


「一応これが市場になる。混まないうちに見て回って、その後港湾の方を見て回る。その後宿に戻って視察の報告書を2人で作成する予定だ。」


 ディマックさんがそう言って街の地図を示してくれる。少し疲れ気味に見えるが、俺はそれについて考えない方がいいのだろう。


「では、私とイワンとイワノフは前方の方で護衛をしています。ティグレスさんとミューちゃんが後方の方で護衛をします。何か前方で異常等あれば、緊急時には煙幕弾を投げて所定の位置まで脱出してこの宿に戻ることになります。」


 ヘイルさんがしっかり仕切っている。それを微笑ましく見つめるディマックさん。師匠として弟子の成長を実感しているようだ。

 さらにそのディマックさんを険しい顔かつ説教不足という表情で見つめるマリーゼさん。先生として教えたことが教え子は活かしきれてないことを実感しているようだ。


「じゃあ、あたいたちはこの街の市場調査に来た商人2人として行動するから。」


 そうディマックさんがいうのを聞きながらこの2人を見ると、なるほど、パンツスーツのような服を着てビジネスマンといった感じである。

 3姉妹はいつもの変装だが、親子いや祖父と孫みたいな感じか。

 俺は、田舎から出てきたお上りさんな中年後半のオッサンか……。


(まあ、みんなうまく変装してるわね。大丈夫、ダン、あなたも負けてないわよ。ウィッグと付け髭だけでそこまで老けさせるなんて、さすが中身はおっさんだからね。)


 メムが念話術でフォローにならないフォローをしてくれる。まあいいけど……。



 視察は無事に終わって、昼過ぎにはマリーゼさんとディマックさんは報告書を書くために部屋にこもることになる。その間夕食時までの間、各自自由に街を見回っていいとマリーゼさんから言われるが、ヘイルさんが部屋に待機して護衛はした方がいいと判断したことで、個人個人で交代で街を見回ることになる。


「ティグレスさん、あなたは。」


「ああ一番最後がいいですね。ちょっと街中で衣料品店を見つけたので、この変装に合いそうな服を買ってみます。」


 ヘイルさん、次にイワンさんとイワノフさんが街を回り、最後に俺とメムが街に出る。



(意外に海産物は少ないのね。)


 人目を気にしながらの念話術である。


(海からの食べ物はそうそう水揚げされていないか、別の街への流通に乗ってこの街には残っていないのかも知れないですね。)


 一つだけ気になるのは、水揚げされた水産物が、地球での記憶のある俺の場合、見た目で拒否反応とか起こすかも知れないということであるが。まあその時はメムに試食と毒味してもらおうかなと思っている。


(時間もあまりないですし、少し急ぎます。ああ、ここだな。)


(衣料品店ね。さっき言っていた服を買うのね。)


 衣料品店に入ると、ちょうど合いそうな焦茶色のジャケットと薄茶色のスラックスのような服がある。

 ジャケットとスラックスを見て確認して試着させてもらう。


「少し裾上げをした方がいいですな。すぐにできますがいかがなさいますか。」


 中年の店員がそう言って勧めてくれる。


「いいですね。それとこの白のボタンダウンのシャツを。これで合わせて2万クレジットでどうだろう。」


 少し値切ってみる。


「そうですな、裾上げを別料金で2千クレジット。合わせて2万2千クレジットでいかがでしょう。シングル仕上げで半刻もあれば、いやもう少し早く仕上げますが。」


「わかった。じゃあ合わせて2万2千クレジット、これで支払うよ。」


 黄金貨22枚を使って支払うことになる。でも値札の合計は2万5千クレジットだったからまあ1割下げてもらったことになるか。


「では、領収書をどうぞ。さっそく裾上げにかかりましょう。」


 そう言ってその店員が作業にかかる。まさに職人の仕事という感じである。テキパキと裾上げをこなし予定より早く引き渡してくれる。


「いかがでしょう。」


「申し分ないです。いい仕事です。」


「お褒めに預かりありがたいです。そういえばお客様はどこから。」


 そう聞かれて、ここはややぼやかして答える。


「イチノシティの街の近くの村から出てきました。港を見にきて水産品を味わおうかと。」


「ちょっと時期が悪かったかもしれません。他の街々へ売り渡してしまうので。もう少し後に来ればもっと水揚げも上がって、ここで水産品を味わうこともできたのですが。」


「そうですか。また機会があれば来てみたいですね。」


「ところで、話に聞いたところ、王都からイチノシティに向かっていた宰相補佐官、宰相の娘さんが消息不明になったとか。どうです、お客様も来る途中で何か見たり聞いたりしませんでしたか。」


 少し深呼吸する。消息不明の話は国中に流れているが、今の段階だとやはり全国的な捜索になるのか。


「……うーん、村の付近を警備隊員が走って行ったのは見たけど…。その消息不明かどうかまではわからなかったですね。」


「そうですか。まあ我々庶民には縁遠い話ですからな。そういえば噂では、宰相と対立する者がこっそり暗殺者を送ったとからしいので。」


「ふーん、巻き込まれないように気をつけるか。ああ、ありがとうございます。じゃあこれは後で着てみましょう。」


「お買い上げどうもありがとうございました。」


 店の者に見送られながらその衣料品店を後にして宿に戻った。



 宿に戻り、ヘイルさんを呼び話をする。


「とりあえず戻りました。そちらに異常は。」


「全くないですね。」


 一応こっそりとメムに周辺警戒してもらい、不審者の気配はないことを確認はしている。


「じゃあ、間もなく夕食の時刻になりますね。」


「ええ、ところでティグレスさん、街の方は。」


「消息不明の話と噂がこの街まで流れてきているようです。」


「噂というのは、どんな噂ですか。」


「宰相と対立する者がこっそり暗殺者を送ったとか。さっき行った衣料品店で聞きました。」


「ふーん、わかりました。ありがとうございます。」


 俺とメムは部屋に入る。



「ねえ、どうやら消息不明になった補佐官の話はここまで流れてくるのはいいとしても、物騒な噂が流れているわね。」


 部屋に入るとすぐに、メムが衣料品店で聞いた噂について気になるのか俺に話しかけてくる。


「うーん、でもあの2人を見るとそういうことも想定しているのじゃないでしょうかね。宰相と政治的に対立する者の尻尾は掴んでおくつもりじゃないですか。」


「でも救出した日の夜、あなたがマリーゼに確認した時は、そんなことは言っていなかったわよね。視察の護衛だと。」


「わざわざ正直には言えないでしょうし、政治的に対立する奴らの尻尾を掴めとは依頼しないでしょうからね。内心の部分ではそう思っていてもです。」


「じゃあ、暗殺者が送り込まれてくることも想定してるということなのかしら。」


「だから、今俺たちが護衛を続行しているということになりますね。」


 俺がそう言うとメムが顔を天井に向けてから納得の表情でコクリと頷く。そして、俺に対してさらに質問する。


「じゃあ、その暗殺者をひっ捕らえればその相手の尻尾をも掴める、ということね。」


「いや、そうはうまくいかないでしょう。捕らえた後身分を明かして引き渡すのかという問題があります。それに移動中なら捕えるより突破する方がいいでしょうから。一匹と6人だけで動いていますから、援護も増援もない。」


 その時、ドアがノックされる。ドアを開けると、ヘイルさんが


「夕食になります。その後部屋で話をします、とのことです。」


 そう伝言して先に食堂へ向かった。


「この話は後にして、夕食にしますか。」


「そうね、それには同意するわよ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ