166弾 変装しての護衛をしよう
各自しばらく部屋で体を休めながら灌水浴で体を洗う。そうしている間にディマックさんが戻ってくるとリーゼさんと俺たちパーティに弁当を渡していき、食堂らしき部屋で夕食となる。
「護衛の依頼は継続だからな。対象者と組合本部長からのお達しだ。ボーナスはつける。あたいも助っ人としてついていくのも変更なしだ。それに負傷者は療養所にてしばらく療養だ。」
食事しながら、ディマックさんがそう話をする。あらかじめリーゼさんに意図は聞いて確認しているので、そんなに驚くことではなかった。
「まあ、そうね。まずはクーノショートに行きハーチノコート、ロクノコート、ゴーノンシティ、ヨーンノガクト、サンノコート、ニーノショートの順に回って視察するわ。その間は消息不明になるから、それっぽく変装して仮の名前とかがあればいいわね。」
「先生、任せてください。本人と全くわからないように服とかの用意をします。」
「あまり調子に乗って変なメイクをしないでね。やりすぎて逆に目立てば問題よ。」
リーゼさんがそれとなくディマックさんをたしなめる。
「明日の出発から変装をして動くぞ。ヘルバティアらはいつもの変装でいいだろう。先生にはあたいの用意した服を着てもらう。問題はニシキ君だな。」
そう言って俺の顔を見る。
「ふーむ、でしたら付け髭を俺に何種類か貸してください。それをつけることで印象も変わるでしょうから。明日は白ひげの付け髭でもしますか。」
「そうだな、どこかで服を調達するか。いや、ここでじゃない。それまでは付け髭だけじゃなくウイッグも貸すから、お前の判断で変装してみろ。まだ変装術も学んでる最中だしな。」
「であとは先生をどう言う呼び名にしますか。」
「そうだな、ニシキ君なら何て呼び名にするかい。」
「ふざけすぎた名前はダメよ、わかっているわね。」
リーゼさんが俺にプレッシャーをかける。
「……姓をアントワネット、名をマリーゼ、と言うのはいかがでしょうか。」
あのフランス王女からとってみた名前を考えてみる。
「なるほど、いいわね。頭文字が一緒だから覚えやすそうだわ。」
リーゼさんがあっさりと認めてくれる。
「意外とニシキ君にはネーミングセンスがあったのか……。」
ディマックさんが少し悔しそうな表情をしながら言う。
ヘルバティアとミアンとミヤンは『もしかして、この名前ってニシキさんらのいた異世界の人の名前かしら。』と言う表情をしながらリーゼさんを見つめている。
「じゃあ、ダンちゃんとメムちゃんも呼び名をつけましょうか。」
リーゼさんがニコニコしながらそう言ってくる。
「そうだな、ニシキ君のネーミングセンスに期待してみるか。」
ディマックさんもニコニコしながら同意する。
「じゃあ、まずメムについては……ラメド、と言うのは、グハッ。……いててて、じゃなくて、ミューと言うのはどうでしょうか。」
やはりラメドと呼ばれるのはかなり嫌なようで、軽く頭突きが飛ぶが、とりあえず浮かんだギリシャ文字を使ってみると、上下に首を振りうなずいて了解してくれる。
「じゃあ、これで終わりということで。」
「おい待て、何を言っている、ニシキ君はどうするのだ。じゃああたいが付けてやろうか。」
「いやいやいや、軽いジョークですよ。……姓をティグリス、名をハリーとしてみますがいかがでしょうか。」
まさかひいきのチーム名を使っているとは気づかないだろうしな。
「まあ、いいんじゃないか。」
「そうね。」
ディマックさんとリーゼさんが同意はするがイマイチ感を覚えたようである。
「じゃあ、ニシキさんじゃなくティグリスさんと呼べばいいのですね。」
ミアンが楽しそうに呟きうなずく。
「じゃあ明日出る前に変装と呼び名をしっかり覚えておけよ。」
そう言ってディマックさんは再び外出しようとする。
「どこか行かれるのですか、師匠。」
ヘルバティアが尋ねる。
「まあ色々助っ人としてやることがあるからな。ちょっとやらなければいけないことをやっておくのさ。」
「師匠、それなら私が手伝いますが。」
ミヤンがそう申し出るが、
「お前たちは華束舞踏としての依頼をこなすことが優先だろう。護衛は続けろよ。」
そう言い残してまた外出する。多分組合本部長としての仕事もあるのじゃないだろうか。
「じゃあ、ヘルバティアちゃん、ミアンちゃん、ミヤンちゃんは私と一緒に女子会よ。護衛も兼ねてね。」
これから楽しみといった表情で3姉妹のいる部屋に入っていく。
「俺たちは静かに明日からの準備しますか……。」
俺はそう呟き、メムと一緒に与えられた部屋に入る。
「さっきは、まさかラメドと呼ぼうとするなんてどういうつもりかしら……。」
「いや、ちょっと思いついただけですから、本当に。でも、ミューで大丈夫ですよね。」
「いいわよ、ラメドと呼びさえしなければ。全く、あんなのと一緒にするなんてどういうつもりかしら。」
俺もちょっと意趣返ししよう。
「いえ、メム様とラメド様の喧嘩に巻き込まれてここにきたようなものですから。そういう思いつきになるでしょうね。」
「……うう、それを言われるとね……。でも言っておくわ、あれはラメドが悪い、喧嘩売ってきたのはア・イ・ツだから。」
ここにラメドがいないのをいいことに思いっきり責任転嫁しやがった……。
「ところでダンの呼び名は明日からティグレス・ハリーなのね。」
「ええ、そうです。」
「ティグレスってラテン語からね、訳せば虎って意味よね。もしかしてあなた、熱狂的なファンの多いあのチームの。」
「ええ、贔屓チームですよ。なんなら応援歌を歌って見せましょうか。」
「やめなさい、色々問題が発生しかねないから。あなたみたいな音痴が歌ったらね。」
ええー、たまには歌いたいしこれはまともに歌う自信はあるけどな……。
「ところで、虎からあのチームを連想されるとは、メム様は観戦とかしたことが。」
「現状視察で観戦したことはあるけど、ルールは知らないから、買い食いしてばっかりだったわね。でも観戦した試合では、優勝?、初の日本一?を決めたとかで周りは大大盛り上がりだったわね。」
現状視察で何を見ているのですか、歴史的瞬間じゃないですか……、そんな中で食ってばっかりって女神の現状視察は何に役立つのか……。俺は思わず頭を抱えてしまう。
「どうしたのダン、急に頭を抱えて。」
と、しかしメムはさらりと聞いてくるだけである。
ま、まあ気を取り直して、
「多分リーゼさんとディマックさんは考えているかもしれませんが、このまま護衛を続けて視察に同行するとしてもかなりのリスクはあるでしょうね。」
「他の街でグルメツアーなんてできないのかしら。」
「無理でしょう。狙われていますし。刺客やらが送り込まれるかもしれません。もっと最悪なのは、消息不明として指名手配されたりして全国的に捜索されることでしょう。そして俺たちが誘拐犯とかにされて、まとめて狙われる。一番最悪なのは俺たちパーティをまとめて補佐官ごと抹殺する。その後、補佐官を誘拐したグループと交戦したら俺たちパーティが補佐官を殺して逃げようとしたのでやむなく全員誘拐グループを殺した、そうすれば事件も解決、補佐官も消せる。どうですか、メム様。」
「あながちその可能性がないとは言い切れないものね。じゃあ組合本部長もまとめて抹殺するということ?。」
「そうかもしれません。でもそれはディナックさん兼組合本部長とリーゼさんも考えているのじゃないかと。でないと視察をする、続けるなんて言葉出てこないですよ。」
「うーん、そう言われるとダンの話にも説得力が増すわね。じゃあ、まずはしっかり睡眠ね。」
「そうですね。体調を万全にしましょう。ところで怪しい者の気配とかは。」
「ないわよ。ディマックが間も無く帰ってくるところよね。ファアア、おやすみなさい。」
メムはそう言って眠りについた。俺ももう寝るか。
かすかに女性陣の笑い声が聞こえてくる。