164弾 ここらで一つ暴れてみよう?
年増と言われてキレたのか何がきっかけでキレたのかはわからないが、ディマックさんはその発言をした黒覆面の一人に素早く近づき、胸ぐらを掴み、その顔面に飛び膝蹴りを喰らわす。
膝蹴りを喰らったその黒覆面は伸びてしまったようだが、構わずにディマックさんはマウントポジションになり、相手をフルボッコにしだす。
「オラァ!!、この世界的美女に向かって、」
ボコッ、バキッ。
「…年増の姉ちゃんとはどういうことだ!!。」
ベキッ、ゴシャッ。
「おお、テメェ、再教育し直してやんよ!!!。」
ガギッ、メキッ。
「テメエのポ◯◯ンとキ◯◯マ!、引っこ抜いてその口に詰め込んでふたしてやるよ!!。」
ドガッ、ドガッ。
俺とメム、それにもう一人の黒覆面は唖然としてその凄惨な現場を見てるだけである。
「あのー、やっぱ止めた方がいいのですかね。」
もう一人の黒覆面がおずおずと俺に聞いてくる。
「いや、女性をここまで怒らせるとなると、……止めてもいいですが、止めにかかったあなたの命の保証ができない気はするのですが。」
俺は非情かもしれないがそう答えざるを得ない。
「あ、そ、そうですね……。でも……。」
凄惨なショーは続いている。
「どうですか、俺たちに協力すればこんなことにはならないと思うのですが……。」
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。」
「声が小せえ!。」
詫びを入れているが、容赦無くぶちのめし続けている。
「そ、そうですね。協力します。」
「じゃあ武装解除をお願いします。」
「モウ、ユルジデグダザイ……。」
「ああん、何だこの野郎!。」
このままの勢いだと、超危険だな、ディマックさんを年増と言ったこの黒覆面。
「は、はい。……すべて渡します。……では彼女を止めてください。こんな凄惨なものはもう、見たくも聞きたくもないので……。」
(メム様、この武装解除した奴しっかり見張ってください。)
(了解よ、ダン。)
「もしもし、落ち着きましょう。今やることはこれじゃないと思うのですが。」
ディマックさんの両肩に手をやり、まずは暴力の収束にかかる。
「何だぁ、……邪魔だなあ。こいつには口の利き方を教えてやるんだからよぅ。」
「……やり過ぎはさすがに、さあ離れてください。」
俺はそう言って無理くり気味にディマックさんを相手から引き離す。
「あのう、この黒覆面の方が協力してくれるそうです。武装も解除しましたし。」
ディマックさんに年増と言った黒覆面は息はしているようだが、起き上がることもままならずボロギレのようになっている。
協力すると言って武装解除し情報を提供してくれたもう一人の黒覆面とディマックさんにボコられた黒覆面はドラキャから呼んだ3姉妹と協力して近くの木に縛りつけ、得た情報をから次の行動を決めることにする。
「俺とメムは、このドラキャから補佐官を追う形をとります。この先は3つ目の指定場所になるのですね。だとしたら、ディマックさんは3姉妹とドラキャで急ぎその指定場所に行ってください。うまく落ち合えればいいのですが。」
「よし、そうしよう。まずは補佐官一行の保護が優先だからな、無闇に敵とやりあうなよ。さらっとやっつければいい。」
さっきまでの行動からとても矛盾しまくっているような発言をするディマックさん。続けて、
「ところで、ニシキ君。魔術はどうなんだ。」
「ええまあ、それなりに。」
「君の力についてはチラッとヘルバティアたちから話は聞いているが、命懸けになるなよ。」
そう言って俺の肩をポンと叩いて、3姉妹たちと乗ってきたドラキャへ向かう。それを見送りながら武装解除した黒覆面からの情報とメムの嗅覚を頼りに森の奥に進む。
「ねえ、久しぶりね、こんな感じは。ダン。」
「戦闘に昂っているのですか。メム様。」
「まあね。あなたもでしょう。」
「そうですね。このパーティ、華束舞踏の初依頼というのもあるのかもしれません。」
「ふふふ。うん、近いわね、4人よ。」
メムが感度を上げて敵の情報を把握してくれる。
拳銃を抜いて、森の開けたところに黒覆面が4人。引き金を引き、とりあえずの【火球】魔弾髪の毛0.1ガラム使用でぶっ放していく。
ドシュドシュドシュドシュ
あっという間に黒覆面は黒焦げになった。ダメージも相当なようであるのか失神してピクピクしている。
「じゃ次に行きます。」
「了解。ダンのそれは流れるような魔弾の発動ね。」
「それはどうもです。メム様。」
そう会話して早歩きしながら使った4弾分を装填する。
しばらく進むと、森と林の境目になった広めの草原が見える。
「これは、……結構いるわよ。10人ほどね……いや11人。」
メムにそう言われて一旦足を止める。よし、こうなったら、
「メム様、俺が思いっきりここから隠れて6発一気に魔弾をぶっ放しますので、装填の間はメム様があの連中をかく乱して下さい。装填後、『メム』と言いますのでその時は奴らから離れて俺の元へダッシュして下さい。」
「わかったわ、思いっきり暴れていいのね。」
「暴れ過ぎて、奴らから離れることを忘れたらダメですよ。」
「了解。」
奴らは俺たちの接近に気付いていない。よし、じゃあ。
「集中。」
そう呟き、一気に狙いをつけて引き金を引く。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ
一気に魔弾を撃ち放ち魔法の発動だ。
【火球】の連弾が次々と敵の黒覆面を襲う。6人全員命中、倒れ伏す。
「何だ、何が起きた。」
「おい、大丈夫か。」
「何者だ、敵襲か。」
「仲間割れか。」
混乱している。
そこへ、メムがふわりと忍び込みガブリ、ガブリと敵の杖を持つ手首を狙って噛み付いていく。さらに混乱が広がる。
「送ったやつを呼び戻せ。本陣が奇襲とな。」
「いや、それは無茶だ。」
「そのグランドキャットを何とかしろ!。」
「ギャェー、噛まれた。」
魔弾を装填しながら少し様子を見て頃合いを計り、装填完了して、
「メームー!。」
俺は大声でメムを呼ぶ。
俺に残り5人の混乱気味な視線が集中し、メムは俺を目指して駆け寄ってくる。
このタイミング、一気に引き金を引き、
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ
全弾命中、残り5人も黒覆面が黒焦げになって倒れ伏した。
「メム様に異常は。」
魔弾を装填しながらメムの状態を確認する。
「全くないわ。それよりこの先よ。補佐官は。」
そう言って俺を誘導するように前に立ち、
「さあ早く、急ぎましょう。」
そう言って俺をせき立てる。俺は装填を確認して、メムの後に続く。
メムの先導で木々がまばらになってきた林の中を駆け抜ける。
200マータルほどを小走りで駆け抜けると、メムが一旦立ち止まる。
「近いわよ。この先約50マータルほどの廃家屋ね。中に目当ての方々2名と、その廃家屋を取り囲んで10数人、というところね。」
「ではここからは、ゆっくり接近しますか。」
「了解。」
「あとは用心のために、魔弾を交換して、【岩球】にして……。」
「え、【火球】のままでもいいのじゃないの?。」
「誤命中させると廃家屋が燃えて危険ですから。廃家屋にいる補佐官一行を丸焼きにするわけにはいかないでしょう。」
「なるほどね。」
魔弾を交換して装填し直して、用心しながら目的の場所へとそろりそろりと接近していく。
「あれよ、ダン。」
俺とメムは茂みからこそっと顔を出して目的の場所の状況を視認する。
「当方と一緒に来ていただくだけでいいのです。何悪いようにはしません。どうかアルトファン補佐官殿、当方に従っていただければ何も危害は加えません。もしこのまま抵抗を続けて、その家屋に引き篭もるのならそれはそれで結構です。しかし、そういつまでも水も食糧もあるわけではないでしょう。さあ、ここはおとなしく当方に従いましょう。」
この集団のリーダー格と思われる黒白覆面の奴が廃家屋に向かって大きな声でそう呼びかけている。この家屋内にリーゼさん、宰相補佐官のいることが俺とメムにもはっきりわかる。