163弾 これから捜索始めよう
ヘルバティアの操縦でドラキャは走り出す。
出門はあっさりと終わり、ヘルバティアから木札がディマックさんに渡される。
「まあ、この木札を使えばな……。」
とその木札をしっかりと見ながらディマックさんが呟く。
「で、どちらに向かうのですか。師匠。」
ヘルバティアの横に座っているミアンが尋ねる。
「そうだな、まずはここに書かれたところに進んでくれ。行けるかい。」
そう言ってミアンに紙を渡す。
「もしかして、とこかで落ち合うとか隠れ場所を用意しているとかですか。」
俺が聞くと、
「よく分かったなあ、ま、そのようなものだよ。ただそこに辿り着いていればの話だがな。」
「しかし何ヶ所くらいあるのですか、そのような所は?。」
ミヤンが師匠に尋ねる。
「今のところ5ヶ所を考えている。全体的には15ヶ所ほどだがな。」
今ドラキャは王都とイチノシティを結ぶ旧街道に向けて走っている。
どこかで見たことのある風景が車窓を流れ、もしや、あの場所かと思い出す。
「ああ、ニシキ君がファチオア商店の奴らとやり合った場所、レンソシロアの森、入り口の廃村に最初入ってみるからな。」
ボソリとディマックさんが俺に告げる。ああ、道理で見たことのある車窓なわけだ。
「しかし、このドラキャ、速いですね。」
俺がそう呟くのを聞いたディマックさんは、
「そうだな、組合本部長が権限等を利用して使えるようにしたものだからな。ホードラもなかなか良いものを揃えた。まあ、宰相府の使うドラキャにはやや劣るがそれなりに肩を並べるものさ。特に加速ではな。」
少しご機嫌な感じでそう答える。
ということで最初の地点に到着した。
「まあ、まだ修復とかはしていないですよね。」
とミアンが周りを見渡しながら言う。
「なあ、ニシキ君。ずいぶんと派手に暴れたのだな。」
とディマックさん。
なぜか俺に無実の罪が着せられつつあるような気がするのだが。というかあのアンチージョが岩人形を作って暴れた結果なのだから。俺は単に火の粉を払っただけなのですが。
(ここには何の気配もないわね。)
(ありがとうございます。メム様。)
メムが念話術で俺に知らせながら首を左右に振る。
「どうやらここにはいらっしゃらないようですね。師匠。」
ヘルバティアが四方を見渡しながら言う。
「どうやらニシキ君の飼ってる益獣も感なし、と言ってるようだな。」
「はい、そのようです。」
俺は答える。
「あの戦いの後、警備隊員も商業ギルドの調査班の者も調べ尽くして報告をあげたからな。」
ディマックさんがそう言った後、少し慌てて、
「そう言う話を組合本部長から聞いている。」
と付け足す。
そのうちボロが出るのじゃないか、師匠兼組合本部長の兼ね役していると。少し不安になるのだが………。
しばらくあちこちの空き家を捜索はするが……、
「では、師匠、次の場所に。」
「ああ、行こうか。」
ヘルバティアとディマックさんがそう短く会話して、俺たち一行はドラキャに乗り込む。
今度は交代してミヤンが操縦してミアンが隣に座る。ディマックさんが次に行く場所の地図が書かれた紙をミアンに渡して指示を出す。
「これはもしかして旧街道を逆に王都の方向へ辿っていくような感じですか。」
「ニシキ君、鋭いね。ただそれだけじゃないのだよ。……かつてあのリーゼさんに教えてもらった際に使った場所なのだからな。それを覚えていて気づいてくれれば良いのだが。」
「何を教えてもらったのですか?。」
「それは聞かない方が良い。君の身のためだ。」
「わかりました。」
こう言う過去の話はあまり突っ込むとこっちの立場が悪くなるからな。さらっとUターンした方が良いだろう。
「ところで、そんなにその益獣のグランドキャットが気に入っているのか、ヘルバティアは。」
ヘルバティアとそれにもたれかかられているメムを見て、師匠が少し呆れ気味に言い出す。
「ええ、とっても毛並みも見た目も気に入っているのです。」
ヘルバティアはそう言ってメムの背中に頬をこすりつける。
「ああ、この毛並みの肌触り、この可愛いルックス。もう最高ですよ、師匠。」
まさか師匠にも勧めるつもりか。
「おい、いいのか。飼い主としてどうなんだ。この熱狂的な愛好者にすりすりされて。」
ディマックさんが半ば引き気味に俺に尋ねる。まあやはり側から見ればちょっとな……。
「今はまだマシになったかもしれません。……以前はもっとひどかったので。」
「……はい、その通りです。」
俺に以前のメムちゃん愛を一部暴露されたヘルバティアは恥ずかしそうに答えるが、メムに抱きついたままである。
「まあ、なんだな。ほどほどにな……。しかし飼い主は大変だな……。」
ディマックさんが俺に同情の視線を送る。ええ、俺とメムの下宿を勧めたのもメムちゃん愛がある意味原因ですから……。
それから程なく次の指定場所に到着する。最初に行った指定場所の廃村よりも廃墟化が進みかつ規模も小ぶりになっている。
ディマックさんの指示でドラキャを止めて、皆降車して捜索にあたる。
(どうですか、ここは。)
(全く感なしよ。ほんとにここを使う可能性あるのかしら。もしかすると警備隊主体の捜索隊がもう見つけてしまったのじゃない。)
念話術でそうぼやきながら教えてくれる。
(まあ、やってみるしかないですから。補佐官への恩義は俺もありますし、メム様もでしょう。)
(そりゃ恩義がないと言ったら嘘になるわよ。うまい食事をかなりゴチになったからね。)
先ほどのように空き家を捜索するが……、
「どうでしょう、師匠。次の場所に行きますか。」
「うむ、そうだな……。」
少し疲労と焦りを浮かべながらディマックさんがそう言って、俺たち一行はドラキャに乗り込む。
そろそろ昼近くになるな……。
「うん、次はこの地図の場所に。少し急ぐか。」
ディマックさんがまた指示をして地図の書いた紙を渡し、ミアンの操縦、隣にミヤンという先ほどと入れ替わった形でドラキャは動き出す。
「しかし、速いな。やっぱり。宰相府のドラキャと遜色ないか。」
車窓の流れの速さに感心しながらそう呟く。
「実感してるな。まあ組合本部としてもこれくらいのドラキャがないといざという時に動きにくくなるからな。まあ、こういう時のためにこっそり改造とかもしてやったからな。」
ディマックさんがそう言った後また慌てて、
「と、組合本部長の話だ。」
と付け足す。本当にやばいのじゃないか……。
とはいえ、ディマックさんの表情にも焦りの色が見えていて、ドラキャ内の空気もその色に染まりつつある。
間も無く3つ目の指定場所に到着かというところで、
(ダン、気配があるわ。この先ね、近づいてるわ。)
(了解です。)
「すみません、メムが何か感じたようです。」
「よし、ミヤン。速度を落としてくれ。」
ディマックさんが指示を出す。
「はい、師匠。」
しばらく進むと、かたわらに一台のドラキャとそれを見張る2人の黒覆面の者が。
そのドラキャをやり過ごして、20マータルほど先でドラキャを止めて俺とメムとディマックさんが降りて確認に行く。3姉妹は待機することになる。
「何だ、お前ら。見せ物じゃない。とっととここから引き上げな。それともそこのやや年増の姉ちゃんは俺たちと何か一発愉しいことでもしたいのかい。」
黒覆面の一人がガラの悪い口調で俺とディマックさんに居丈高に言い放つ。
(あのドラキャからリーゼ補佐官の匂いがするわ。後この森の先に数人、…4、5人の気配がするわ。)
メムが念話術で教えてくれる。
「いや、人を探していまして。そのドラキャを確認したいのですが。」
俺がそう言って下手に出るが、
「……おい、人を年増の姉ちゃんとはどういうことだ、ゴラァ!!。」
ディマックさんってこんな短気だったのかな……。