162弾 この助っ人に感動しよう?
「「「師匠!!。」」」
3姉妹はすっぴん状態なディマックに駆け寄り、俺はあまりに予想通りのせいか、床に手をついてガックリと崩れ落ちる。メムは唖然としている。
「弟子よ、初のパーティでの依頼、かつ大変な依頼だそうだからな。この師匠がついてやる、心強いだろう。」
「そんな、師匠に助っ人に来ていただくなんて、弟子として大変光栄です。」
ヘルバティアさんはそう言って他の双子妹と共に感動の会合となるが、俺とメムはこの師匠兼組合本部長のとんでもなくマッチポンプな感じにシラケ気味となる。
「どうした、孫弟子よ。師弟の感動シーンに崩れ落ちたか?。」
「………ええ、あまりもの感動に後5、6ヶ月は寝込んでしまいそうです。」
「おいおい、それじゃ困るぞ。な、このパーティのエースだ、ニシキ君は。」
「……おだてても何も出ませんが。」
このままツッコミを入れたい気もするが切り替えよう。すくっと立ち上がり、
「詳細の説明は、助っ人の大師匠が……。」
「ああ、そうとも。」
そう言って卓机にパーティメンバーを集める。
「では、説明をお願いします。師匠。」
ヘルバティアがディマックの師匠に説明を促す。
「ふむ、まず宰相の置かれている状況について話しておこう。とは言っても大まかにだが、宰相アルトファン・ヨナースはこの国内でいろいろと改革を行なっている。産業の振興、庶民の生活改善、税制の改革、そして特に大きな課題になっているのが政治資金の改革だ。その政治資金の改革の中で対立が起きている。大まかに言うと宰相派とエニーフ派、ショアフィード派にだ。」
「三つに分かれての対立ですか。」
「いや、ニシキ君、宰相派と対立しているのはエニーフ派とショアフィード派、そしてこのエニーフ派とショアフィード派はこの政治資金の改革に反対するために手を組んでいる。ここら辺の詳細な話をすると時間が足りないので、まあぶっちゃけて言えば、政治的対立に巻き込まれた宰相補佐官の暗殺も考えられるのでお前たちに捜索と護衛を頼みたい。そういうことだ。」
「じゃあ今回消息不明になった裏には、その可能性も含まれているということですか、師匠。」
「ああ、組合本部長と補佐官は旧知の仲でな、政治的対立についてとかの話もしているし、補佐官にも敵も多いからな。」
「何がともあれ、ニシキさんがいろいろお世話になっている方ですし、早速行動開始しましょう。ティア姉さんの料理教育にも協力してもらいましたし。恩もありますから。」
ミアンが険しい顔でそう言い出す。
「なるほど、さすが弟子。しかしニシキ君が直接料理教育したのじゃないのか。」
師匠が不満そうに俺を見て言う。
「さあ、そうなったらいち早く補佐官を見つけ出す必要もあるでしょう。」
俺は師匠を無視して捜索方法を考える。とは言っても頼るのはただ1匹。
(どうですか、補佐官の匂いはたどれそうですか。)
(わかっていると思うけど、……ここからじゃ無理よ。)
(それは承知しています。)
念話術でメムに確認はするが、まあそういうことになるだろうな。
「しかし、そうなると捜索している他のものより早く確実に補佐官一行を見つけなければならないのですね。」
ヘルバティアが呟くところに、
「組合本部長からは心当たりの場所があるとのことだ、まあ、あたいに任せておきなさい。」
そう言って自分の胸をポンと叩く。
「さすが師匠です。いつの間にか組合本部長とそんな付き合いをされていたのですか。」
ミヤンが感心しながら言う。
「ムフフフ、どうだ。師匠はすごいかい。で、だ。敵の目をくらませるためにもその3人は先にこの小屋を出て、ドラキャショップ、ルーメールの停車場に行き黒塗りの正六角形二つがキャブ側面に描かれたドラキャに乗り込んでほしい。あたいとこのニシキ君とメムちゃんは後から別にそこに行く。用心して動けよ。」
「「「はい、師匠。」」」
3姉妹はサッと出ていく。何か3姉妹を完全に掌握なさっていらっしゃるなあ、この師匠は……。
「まあ、まとめて動くと目立つからな。ところで、ニシキ君いや孫弟子よ。」
そう言って師匠が俺の目の前に立つ。こうなったら先手を打つか……。
「補佐官のリーゼさんからもうあなたの話は聞いていますので。組合本部長兼師匠殿。」
「げ、……じゃあ本当に正体が組合本部長だと知ってしまったのか……。」
「ええ、こうも言われました。『ちゃんと組合本部長としてのお仕事をするように釘を刺しておいてね。多分変装術で組合本部長の仕事を部下に押し付けて、イチノシティの街のどっかに出没してるはずだけど。まあ、私がよろしく言っていたと伝えて。』と。」
「げ、げ、げ、だから抜き打ちでここにくるつもりだったのか……。」
「昔の話も聞きましたがそれも話しても。」
「いや、いや、いや、いやー、やめて、やめてくれ。わ、わかった。もういい。あの3姉妹には組合本部長であることを漏らさないでくれ、頼む。」
「じゃあ、俺を孫弟子呼びしないでくだされば。」
「う、ずいぶん嫌なんだな。少し傷つくぞ、ニシキ君。」
そりゃそうでしょう、大師匠としても組合本部長としてもいろんな意味で危なすぎるような気がするし。
「でも、そうしてくれるだけでいいのですよ。他に何も要求するつもりはないですよ。俺たちの依頼についてはもっとギャラを上げろとか、組合本部の食堂のメニューもっと増やせとか、ギルド長に仕事を押し付けるなとか要求するつもりはないですから。」
「……おい、本音はそういう要求をするつもりだったのか。」
師匠は渋い顔になる。
「いえいえ、そんな、孫弟子扱いをやめるだけでいいのですから。」
「……まあ、いいだろう。とはいえ、あの人にはとってもお世話になっているからな。…ガキの頃からヤンチャと悪戯が過ぎた上、家の者と喧嘩ばかりしてな。そしてグレかけた時にあの人が教育係として私にいろいろ根気よく常識やら情勢やら経済やら教えてくれたのさ。それになんだかんだで庇ってもらったしな。冒険者として行き詰まった時にこの組合本部長につけてくれたのもあの人のおかげだからな。だから……なんとかして助けたい。」
まあ、そういうことならな、俺も少し胸が熱くなる。メムもそうらしい。
「おや、メムちゃんもこの話がわかるのか……いい益獣だな。このグランドキャットは。」
メムの様子を見て師匠がそう言ってくる。まあ、中身が女神ですしね。
(うん、なんか格好いい絆を感じるわ。うううえぇん。ヒック。)
メムはかなり感動しているようだ。涙をポロリこぼしている。
「それで師匠としてあの3姉妹の面倒を見て、彼女たちから見てディマックさんがリーゼさんのような存在になりたいと思っているわけですね。」
「ま、まあな。仲間殺しに巻き込まれたあいつらにも人並みに幸せになってもらいたいのと思っているのだよ。あたいとしてはなあ……。」
この小屋の中に少ししんみりした空気が流れる。
「もう少ししてからここを出ますか。ディマックさん。あと一つ提案なのですが、先にディマックさんが行ってその少し後を俺とメムがつけていきます。そのほうがより目立たないのでは。」
「なるほどな、その方がいいかもしれないな。よし分かった。そうしよう。」
俺の提案にディマックさんが乗ってくる。
(メム様、ドラキャまで移動の間、怪しい奴らがいないか警戒お願いします。)
(了解よ。)
「よし、あたいは出るぞ。」
そう言ってディマックさんは小屋を出る。
それを見届けてから俺とメムは小屋を出る。
ディマックさんと20マータルの距離を保ちながら指定のドラキャに向かう。
ディマックさんが指定のドラキャに乗り込むのを見届けながら、俺たちも後を追ってそのドラキャの方に。
(怪しいものはないですか。)
(この周辺はクリアよ。大丈夫。いけるわ。)
俺たちもドラキャに乗り込む。すぐにドラキャは動き出した。