161弾 この緊急事態に対応しよう?
総隊長は泰然として、
「ふむ、わかった。総員に緊急配備待機指示を出しておくれ。これからすぐにだ。次に分隊長を全員集めておくれ。それと同時に情報収集をやっておくれ。宰相府の要人は具体的に誰なのか、それとその要人の目的地だ。捜索隊を出すことも考えよう。」
「はっ、了解しました。至急かかります。」
その警備隊員が部屋から急ぎ足で退室する。
狼煙だけで伝えら得る情報はまあ乏しい。迅速性はそれなりにあるが。
そこへ、さらに
「王都からのオオツカイドリが来ました。伝言を伝えます。」
そう言いながら別の警備隊員が蒼白な顔でやってくる。
「ふむ、頼む。」
「宰相府の要人、アルトファン・リーゼ補佐官、視察のため王都を出立してから本日夜明けまで応答、目撃もなく消息不明の模様。視察先、イチノシティの街へ向かっていた。捜索されたし。以上になります。」
「わかった。捜索隊派出準備にかかってくれ。」
総隊長がそう命じる。
そこへ、
「組合本部長が緊急にお見えになりました。」
「通しておくれ。」
その返事とほぼ同時に組合本部長が総隊長室に入ってくる。
「今しがた、こっちにも宰相補佐官消息不明の報がきた。オオツカイドリでな。」
いつもの組合本部長の格好と声だが、少し落ち着きがないようだ。
「そうか。両方にそれが来るとなると。」
「ああ。こっちでも手空きの冒険者を捜索隊に加えるようにする。」
「わかったよ。捜索範囲を区分けしなきゃならないだろう。これから分隊長と会議するからその時に。」
「うん、その会議に冒険者ギルド長も参加させていいだろうか。実はもうドアの前に控えさせている。」
「……そうだな。わかった。間も無く分隊長たちも揃うだろう。」
なるほど、この2人のやりとりを見てると、なぜリーダーであるかがわかる気がする。
(ねえ、私たちはお邪魔よね。一旦引き上げましょうか。)
メムもこの緊迫感に少し戸惑っているようだ。
と、組合本部長が俺たちを見て、
「そうか、お前たち今日が最終日か。」
「はい、完了の書類をもらったところでして……。」
「よし、組合本部長室に先に行って待っておけ。急いでな。さあ、すぐに。」
「では失礼します。」
組合本部長に言われて、総隊長室を退室する。
(ふぅ、なんとか脱出したような感じね。)
メムが念話術で安心感を出しているが、
(いや、そうではないかもしれませんよ。)
俺としては嫌な予感しかしない。
組合本部の受付に
「組合本部長と警備隊総隊長室で会って、組合本部長室で待つように言われた。」
と言うと、すぐに組合本部長室へ案内してくれる。組合本部にも事の一報は伝わっているようだ。
10数分ほど部屋で待っていると組合本部長が戻ってくる。
「ニシキ君、宰相補佐官は存じているな。依頼がらみで会ったな。」
「はい、組合本部長のことを教えてもらいました。」
そう俺が返すと、
「げ、……あの人は……まあ、そういう話をするくらいの知り合いならイケるか……。」
少し表情をしかめながら、
「そういえばパーティも結成したのだったしな。よし君のパーティの初依頼だ。ドラキャを出すから急ぎパーティメンバーをここに連れてきてくれ。特別直轄依頼だ。」
と俺に指示したのだった。
そして呼び鈴を鳴らして、事務員を呼び、
「この者をドラキャで下宿先まで、そうだ急ぎで頼む。よし、ニシキ君、さあ行ってこい。」
そう言って俺を送り出した。
こりゃ長期戦になるか。そう思いながらドラキャは下宿先へと向かう。
玄関に到着するとすぐにドラキャから降りて急ぎ3姉妹のいそうなリビングダイニングへ向かう。
「ただいま戻りました。そして組合本部からのこのパーティへの直轄依頼があるので準備をして皆も来てください。期間は結構かかるかもしれません。」
「何かあったのね、ニシキさん。」
「お願いします。」
「わかったわ。ミアン、ミヤン聞いてた、急ぎ冒険の準備をします。」
ヘルバティアの声を聞きながら俺は自部屋に入り準備をする。装備、器材、資材等の確認をする。ダッシュで自部屋を出て3姉妹と合流して、家の鍵を閉めてドラキャに乗り込む。
「で何かあったのね。」
ドラキャに乗り込むやいなやヘルバティアが聞いてきる。
「はい、今朝方、宰相補佐官が消息不明になりました。捜索をすることになるでしょう。」
「「「えっ!。」」」
小声で話しているが、3姉妹の驚きもなかなか大きいようだ。
しかし、捜索なら他の冒険者と一緒に呼ぶことになるけど……一体組合本部長は何を考えているのか……。
そう思っているうちにドラキャは組合本部前に着く。
セイクさんが出迎えてくれる。
「ささ、すぐにこちらへどうぞ。」
組合本部長室まであっという間に連れていかれる。かなり切迫しているのだろうか……。
「うむ、よく来てくれた。華束舞踏の方々よ。」
組合本部長のセリフが妙に芝居がかっていると思ったのは俺だけだろうか。
「このニシキから少しは話を聞いていると思うが、宰相補佐官のアルトファン・リーゼ殿が消息不明になった。そこで貴パーティには、補佐官とその護衛の捜索と護衛をお願いしたい。これは特別直轄依頼として組合本部長直々に依頼するものである。なお、基本代金は、一人当たり50万クレジット、計200万クレジットを支払うことになる。併せて捜索し救命した場合はボーナスを加えることになる。どうじゃ、受けてくれないか。」
「わかりました。この依頼お受けいたします。」
緊張感を漂わせた声でヘルバティアが依頼受理の意思を示す。
「ふむ、受けてくれるか。そうかそうか。よしよし。」
組合本部長が大きくうなずいて満足げな気配を出す。
「あのー、質問が。」
俺はその空気の中であえて質問する。
「捜索と護衛ですか、警備隊が捜索をして、他の冒険者も捜索に加わるという話で警備隊本部で聞きましたが、俺たちの依頼に護衛が加わるのはなぜですか?。」
「それについては、後で説明する。助っ人が来るので落ち合ってくれないか。その助っ人から説明させる。」
「助っ人ってそんなに凄腕なのですか。」
「まあ、そういうのも含めて助っ人と落ち合ってから説明する。まずは占い町の一角にあるこの店に行ってくれ。そこに行けば間も無く助っ人が来るであろう。」
これ以上は問答してもかえって無駄かもしれない。俺はそう判断して、
「その店とはどこに。」
「この地図を渡す。」
組合本部長はメモ紙くらいの大きさの紙をヘルバティアに渡す。
「歩いてすぐですね。」
ヘルバティアがその地図を見ながらそう呟く。
「では頼んだぞ。」
そう言われて、俺たちのパーティは行動開始となる。
「えっと、地図によればこの場所ね。」
ヘルバティアが地図に書かれた行き先を確認しながらその場所にたどり着く。
おい、ここって、この路地の奥の平屋建ての小屋は見覚えがあるのだが……。
(ねえ、この小屋って前に占い師に変装したあの師匠に連れ込まれたところよね……。)
メムも覚えがあるようだった。
「じゃあ入ってみるわよ。」
「いえ、リーダー、ここは俺がまず用心しながら。」
俺はそう言ってヘルバティアがそのまま入ろうとするのを制して、拳銃を抜いて右手で銃口を上に向けて持ちながら、ドアを引く。すぐに中に銃口を向けてそのまま様子を見るが何もなさそうである。
中は、前に来た時と少し違っていて、卓机と椅子4脚だけがあった。
「あっさりしたというか、用心のためですかね。」
ミアンが周りを見渡しながら言う。
「助っ人って誰が来るのでしょうかね。全く知らない方なら少しやりにくいでしょうね。」
ミヤンは助っ人の予想をする。多分その予想は外れるだろう。俺はメムの顔を見て互いにうなずく。おおかたあの師匠がやってくるのだろう、一人数役も大変だろうけど……。
「よーし、お前たち。あたいが助っ人だ。」
間もなく、その小屋に入ってきたのは俺とメムの予想通りあの師匠でした。