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160弾 臨時の業務は終わるだろう

 3姉妹が色々と特訓しているのを尻目に、俺とメムは臨時警備隊員として巡回勤務をする生活になる。警備隊員は夜勤当直があるので、毎日ルシェー隊員と組んで巡回するのでもなく、何日かに1回は副分隊長のベッボさんや分隊長のピッコさんと組んでの街の巡回をする。

 まあ運がいいのか臨時警備隊員として勤務中は大きな事件もなく、数日に一回くらいの割合で冒険者同士の喧嘩や夫婦喧嘩の仲裁ばかりで済んでいる。



 臨時警備隊員として勤務してから31日が経ち、明日でいよいよ臨時勤務は終了である。


「新たに隊員が増員かつ派遣されてきます。このほぼ1ヶ月間、臨時警備隊員として勤務してくれてありがとうございます。」


 第三警備分隊長からそう労われる。


「いえ、無事に街の安全安心を守り維持することができて、また皆さんと一緒に勤務ができてよかったです。」


 俺はその労いにそう答えて、少し安心する。何せ勤務中は大きな事件も事故もなく、本当に喧嘩の仲裁だけだったから。


「ふむ。では明日は、直接警備隊本部に行って書類を受け取ってください。総隊長からも話があるとのことでしたので。」


 第三警備分隊長からそう言われて了解して、巡回のために外へ、とその時に


「今日は当官も巡回に加わりましょう。3人で巡回しますか。」


 ベッボ副分隊長も巡回に参加することになる。


「自分とニシキ殿に副分隊長が加わるのですね。」


 ルシェー隊員が俺とメムと副分隊長を見ながら言う。

 3人と1匹の巡回が、俺とメムは今回で最後の巡回が開始された。



「しかしニシキ殿は何か異質なものを感じますね。」


 巡回中、ベッボ副分隊長が俺についてそう述べる。


「異質なものですか、……あまり言われたことはないのですが。どの辺がでしょうか。」


 街の様子に目を配りながら聞き返す。


「そうですねえ、まず短杖が変わっていますし、ルシェーから喧嘩の仲裁の時に変わった動きをしていたと聞きましたもので。」


「もしかして、俺とルシェー隊員と組ませた理由はその俺の異質さにあると思ったからですか。ルシェー隊員の成長を陰ながら促すためにそうしたのですね。」


「正直、総隊長から話は聞いていましたので……。でどうですか。ルシェーと組んでみての感想は。」


「仕事熱心で大変結構なことだとは思います。巡回して未然に事件・事故の発生を抑止しようという観点がすごくいいです。」


「……何か自分の目の前でそう言われると、……すごく照れます。」


 そう言ってルシェー隊員が少し困ったような表情をする。


「ただ、魔術に頼るきらいがあるような気がします。だからこそ俺と組ませたのではないですか。それにこの第三警備分隊隊員は魔法が上手そうな方が多い気はしますが。」


 ほぼ1ヶ月一緒に巡回していて気づいたことである。


「なぜ、そう思ったのですか?。」


「うーん、なんと言えばいいのか……。無意識なのかもしれないですが、巡回中かなりの頻度で腰の短杖に手をやっていたので。何か事あれば魔術を発動しようと思っているのでしょう。いざという時は一番頼りになるもので最初は対処しようと思うものですから。」


 無表情に質問をしていたベッボ副分隊長が微かに笑みを浮かべる。


「驚きました。では、当官が彼と組ませた理由に気づいていた、と言う事ですね。」


「でも、こうやって質問しなければ、俺もこうはっきりと言わなかったでしょう。総隊長から魔術を使わずに賊を追い払ったりしていることを聞いて、副分隊長殿は魔術頼りのルシェー隊員に魔術なしで俺がどうするかを見取り稽古の要領で教えようとした、というところでしょうか。」


「そこまで言っていただくと、かえって恐れ入ります。」


 そう言ってベッボ副分隊長は頭を俺に下げる。


「いや、まあ、それより巡回を続けましょう。」


 俺はそう言って業務に専念することを告げる。メムはのどかにあくびをしていた。



 この日の巡回を終えて、さあ下宿先に引き上げるかと思ったところにルシェー隊員に声をかけられる。


「すみません、巡回中の副分隊長との会話で見取り稽古の話が出ましたが、結局ニシキ殿の動きを見とる機会がなくて。それで申し訳ないのですが、……組み手の術を教えてもらえないでしょうか。詳細にとかじゃなくて大まかな形でいいのです。お願いします。」


 まあ、真面目な警備隊員だなあというのはよくわかる。


「組み手の術といってもなあ……、まあ喧嘩の仲裁ばかりのようなものだったから見る機会も無かったのは事実ですしね。」


「ええ、ぜひ教えてください。」


「あまり役に立つかどうかわからないですが、見て分析することのスピードを上げることと、間合いの取り方だと思います。」


「見て分析とは?。」


「まあ、見るものは結構あって、利き手とか体つき、自分たちの置かれている状況、が主に見るものになります。その後見て分析して予測して、どう対処するかを決めることになります。この一連の流れのスピードを上げること、もちろん組み打ちになるのか、魔術を使うのか、とかを決めて動くことも出てきますが。」


「うーん、なるほど。では間合いの取り方とは?。」


「魔術戦闘の間合い、武器戦闘の間合い、打撃戦の間合い、組み投げの間合い、といったところの三つに分けるといいかと思っています。魔術戦闘の間合いはルシェー隊員、あなたの方がご存知だと思いますがかなり離れての間合い、武器戦闘はまあ一般的には剣を使う時の間合い、打撃戦の間合いは主に拳打になる間合い、組み投げの間合いは相手にかなり接近する間合い。」


「自分の認識では距離感と思っていますが。」


「いや、似たようなものだと思います。ただこの間合いで相手の動きを止めたり誘ったりできますし、次の攻撃を予想できることもあります。」


「と言いますと?。」


「わかりやすく言うなら、たとえば拳打の場合、相手の打撃をかわすのにはバックステップでかわす、というのが一般的かと。しかし、前に詰めることで拳打を打ち切る前に潰すことも可能にはなります。でも前に詰めると拳打を打ちきれないかもしれないですが、服をつかんで組み投げは可能な間合いに変わります。それが組み手の術の基本かなと思っています。」


「おおっ、なるほど。」


 ルシェー隊員が納得したのを見て、夕食を済ませて下宿先に帰ろうと振り返ると、他の分隊員たちも聞き入っていました。


(やるじゃないの、ニシキの師匠は。)


(やめてください、メム様。)


 メムが念話術で俺を冷やかす。

 説明をした俺も少し恥ずかしいので、さっさと組合本部に行って報告と夕食にしよう。そしてさっさと下宿先に戻ろう。



 そして翌日、


「いやあ、話は聞いたよ。今度はニシキ殿にうちの隊員へ戦闘技術の教授してもらおうかい。」


 総隊長がにこやかに話しかけてくれる。


「いえいえ、あくまで一個人の見解、みたいなものですので……そこまで言われてもこれは無理でしょう。」


 流石にこれ以上は無茶が過ぎます、総隊長殿……。書類だけで十分です。


「まあ、増員分とローウェルの代わりの派遣までの期間よくやってくれたよ。感謝するよ。ああ、それと、イハートヨの財産確認が終了した。あの依頼についての追加代金の支払いもあるから組合本部と話しておいてほしい。」


「そうですか、この完了書類を出すついでに話を聞いておきます。ではこれで失礼します。」


 そう言って俺とメムが総隊長室を退出しようとしたその時、


「面談中、申し訳ありません。王都より急報の狼煙が上がりました。」


 若い警備隊員がそう言いながら総隊長室に駆け込んでくる。


「内容はなんだい?。」


「は、宰相府の要人、消息不明、とのことです。」


 総隊長室が一気に緊張に包まれる。

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