158弾 自主トレメニュー考えよう
(何か、何かもう一押しが欲しいのよね。)
よくわからないが、俺にもメムにちょうどいい筋トレとかが思いつかないが……。
組合本部の食堂で食事を終えて、鍛錬室に戻ってきてのメムの発言である。
猫に運動させる効果があるのはキャットタワーとキャットウォークだと前世で聞いたことはあったけど、今ここですぐにキャットタワーを作るわけにはいかないし、この体の大きさなグランドキャットじゃあ、ちゃっちいキャットタワーでは運動効果はないだろうしなあ。
そう悩みながら、鍛錬室の隅に目をやる。
隅に置かれていた荷車、手押し式のタイプか、左右2輪の手押し式荷車、前世で見かけたことのある工事現場でよく使われる一輪式の手押し車を2輪にしたような……、うーん、これなら。
(どうしたの、黙り込んで。)
(メム様、一つ試してみてもいいでしょうかね。)
俺はそう言って、ロープを探して見つけると、メムと荷車をくくりつける。荷車には重しを載せてみる。
(ちょっと、これは……。)
(どうですか、前に進んでみて、後ろの荷車を引っ張ってみてください。)
俺がそう言うとメムが四肢に力を込めて進み出す。
(ちょっとこれは、きついけど、……なるほどね。)
数歩進んでみるが、歩みを止めてしまう。
(効果はありそうなのだけど、……ロープがきついのよね。)
(ああ、じゃあどうしましょうかね……。前世のトレーニングでタイヤ引きと言うのがあったのを思い出してみたのですが。もう少し工夫してみますか。)
確かにロープがグランドキャットの関節に食い込みすぎたようだ。あれ、これタイヤ引きのやり方を思い出せばなんとかなるのではないか……。
そこへ、
「あのう、機材の使い方はきちんとして下さい。益獣にそんなことをするのは……。」
鍛錬室を管理する組合本部の職員からの注意を受けてしまった。
結局、前回使用した時のように広い室内の何箇所かに壁登り越え用の板壁と綱登り降り用の綱が天井からぶら下がっているシンプルなコースをメムと一緒に5周して自主トレを一旦終わらせる。
その後はいろいろ買い出しをすることになる。
「メム様にタイヤ引きみたいなトレーニングをさせるには……。」
俺はメムを見ながら呟く。
(何か試してくれるのね。で、どのお店に行くの。って、何を眺めているのかしら?。)
ふと目についたドラキャを眺めて思いつく。
近くのドラキャを扱う販売店に行き
「すみません、ちょっとドラキャを見てもいいですか。このホードラにつける器具、接続具を見ておきたいのですが。」
「ああ、いいですよ。なんならカタログをどうぞ。」
ドラキャの店だけにオプション品も豊富なようだが、実物を見学して引き上げる。
その後は、マーハ商店に向かうと安売りの布の端切れを買い集めて、最後は雑貨屋によってロープを買う。早足で下宿先に戻ると、そのまま一気に自部屋に入り裁縫用具を出してちまちまと裁縫を開始する。
「メム様、ロープが食い込むのはなんとかしてみますのでちょっとサイズ合わせに協力ください。」
「いいわよ、今作っているのはもしかして私のためのトレーニング器具かしら?。」
メムが期待を込めた表情で俺に聞いてくる。
「ええ、タイヤ引き用のハーネスというか、引く力が首や関節の1箇所に食い込まないようにするものです。それをつけてタイヤ引きのように重石のついた手押し荷車を引っ張ればと思って。」
必死に裁縫してみてなんとか形になってくる。
「どうですか、感触は。」
「いいじゃないの。これならね。」
首下用にに太めのヒモ状の輪っかにしたものと腹部にも太めのヒモ状の輪っかにしたもの2箇所分作り、腹部の輪っかの方は前足の後ろと後足の前に取り付ける。首下と前腹部の輪っかを2本の太ヒモでX字でつないで、さらに前腹部と後腹部の輪っかを左右のヒモでつないで、グランドキャット用のハーネスを完成させる。
庭に出てハーネスとロープと手押し荷車をつないで、完成。
早速メムが試してみる。
「これはありね。いいじゃない、トレーニングのやり甲斐があるわ。」
「微調整はしますので言ってみて下さい。」
メムが重石の乗った手押し荷車を引きウンウン言いながらタイヤ引きの要領で引っ張るトレーニングを開始する。とそこへ、
「きゃー、何してるのですか、メムちゃんに。」
メムちゃん愛の激しいヘルバティアが悲鳴混じり気味に俺を咎めたのだった。
「いくらメムちゃんのトレーニングのためとはいえ、あれじゃあまるでホードラのように扱っているかと思われますよ……。」
リビングダイニングで俺は床に正座させられてしまい、ヘルバティアの説教を受ける羽目になってしまった。ヘルバティアの左右にミアンとミヤンが並び立つ。
「あのね、言い出したのは私だから……。」
メムがそう言ってヘルバティアにとりなしてくれるが、
「いや、この格好でのトレーニングはダメでしょう。外の人に見られたら何と言われるか……。」
「えっと、室内でならいいのでしょうか?。ヘルバティアさん。」
俺が確認する。
「そうね、まあメムちゃんがそのトレーニングを求めるのなら。」
条件付きで了解するヘルバティア。
「しかし、グランドキャットがトレーニングに目覚めるとはなあ。」
とミヤン。
「異世界からの女神とはいっても、やっぱり何か思うところがあるのですね。」
とミアン。
「私もパーティメンバーよ。そうでしょ。鍛えてみんなの力になりたいのよ。」
メムが健気なことを言う。メムの発言に何か裏がありそうに思っているのは俺だけだろうか。
「うーん、メムちゃん!!。」
そう言ってヘルバティアがその発言に感じ入ったのかメムに抱きついてくる。
「ちょ、ちょっと、く、苦しい、苦しいから。ヘ、ヘルバティア、は、離して……。」
メムにとっては予想外の行動だったようでヘルバティアの腕の中でジタバタする。
「さあ、リーダーとして命じます。皆、メムちゃんを楽にするために明日から特訓よ。」
ヘルバティアがメムを離して、キメ顔で言い出すが、
「……あのー、俺とメムは明日から臨時警備隊員としての勤務があるのですが……。」
「う、そ、それはキャンセルなんて。」
「できませんよ、リーダー。流石にドタキャンはやばいでしょう。」
「そ、そうね。さあ、ミアン、ミヤン明日から特訓よ。」
「ティア姉さん、そのような話を昨日したのではなかったのですか。」
「ふがっ……。」
ミアンの冷静なツッコミを受け、ヘルバティアは撃沈したのだった。
夕食を済ませて入浴を終えた一時、メムはヘルバティアと入浴中である。今夜の入浴は長くなりそうだろうなと思いながら、メム用の手作りハーネスを眺めつつ、メムが自部屋内でできそうなトレーニングを考えてみる。
うーん、壁の近くでスクワットとかか、意外にメムならできそうな気はしてくる。
壁に近づき俺は2、3回スクワットをしてみる。その後、壁に椅子を近づけて両足を壁に乗せてから逆立ちに近い格好で腕立て伏せをしてみる。うん、足を高く上げるようにするのは難しいから俺が補助をするか……。
そこへドアがノックされて開き、ヘルバティアがメムと一緒に自部屋に入ってくる。
俺の格好を見て、
「ニシキさん、どうかしたのですか……。」
「ダン、何しているの……。」
唖然とした様子になった。
「あ、これですか。ちょっと失礼。」
体勢を元に戻して立ち上がる。
「いえ、メムのトレーニングを考えていたのです。」
とりあえず、自部屋でできそうなメムのトレーニングとして、壁際でのスクワットをやらせてみることになった。
メムに壁をつたって後足2本で立たせて、前足は壁に触れる程度にしてスクワットをさせる。意外とできたのであった。
次に壁をつたって前足2本で逆立ちのようにして、後足を壁に軽く置く感じで腕立て伏せをさせる。これも意外とできたのであった。
「どうですか、メム様。」
「まあ、悪くはないかもね。体重と重心の掛け方で厳しくなったり楽になったりできるのね。」
メムはまあ納得している。
最初からこれに気づけばよかったか……。