157弾 パーティリーダー決めておこう
翌日の朝食後に、パーティ名の案を二つ『星群華束』と『華束舞踏』を提案してみると、俺以外の圧倒的多数の賛成によりパーティ名は『華束舞踏』となった。
「じゃあさ、組合本部に行ってさっさとパーティ名を登録しちゃいましょう。」
メムが自分の提案したパーティ名になってテンションが上がったのか妙に張り切っている。俺はそんなメムを横目で見ながら、パーティ結成事に組合本部に提出する書類を書き、
「えっと、じゃあパーティメンバーはこれで、あとパーティのリーダーはヘルバティアさんにしておきます。」
そう言いながら書類を書こうとすると、両側から双子妹に両手をガシッと押さえられてしまう。
「え、リーダーをヘルバティアさんにするのに不満でも……。」
「え、そこは当然ニシキさんでしょ。」
「そうです。なぜにティア姉さんを。」
ミアンとミヤンがそう言って反対の意思を示す。メムが面白がってそうな顔をして、
「いやー、女神の私でもいいけどー、この格好だしねー、となるとねー。」
と無責任にのたまってくる。
「説明はしてもいいですか。」
俺がそう言いながら書類から手を離す。双子妹が俺の両手を離してくれる。
「どうぞ、説明によっては一戦交えることも。」
「そうね、ミヤン。よく言ったわ。」
二人とも、そんなドス黒いオーラを出さないでー。
「あのですね、一番肝心なところなんですけど、俺とメムは他の世界から来た者です。この世界トゥーアールについて理解をしてはいますが、この世界についての知識や常識を持ち合わせていません。そんな者がパーティのリーダーとはちょっと問題があると考えているからです。そうなるとこのメンバー内で一番年長なこの世界に生きてきたヘルバティアさんがリーダーとしてあるべきかと。」
「ああ、確かにそう言われるとティア姉さんがいいかもしれない気はしてきます。まあ見た目はアレですが。」
「そうですね、見た目がアレですが、中身は姉としてそれなりの物は多分あるから。」
ミアンとミヤンは俺の説明に納得はしてくれたみたいだが、
「……ねえ、アレ、アレってミアン、ミヤン。何か私をバカにしていない?。」
「大丈夫よ、ヘルバティア。見た目がアレでも中身がそれなりでも需要がある、ってこのダンがこっそり言っていたから。」
メムが爆弾発言をぶち込む。おいー、何を言い出しやがるー。心の中ではそう思っていても口には全く出していないぞ。
「……ニシキ・ダンさん、そーんなことを言ってたのですか。」
「いや、いや、無実です。一言もそんなこと言っていないです。
見た目がアレでもパーティリーダーとしての力を内外に見せつけてやればいいのです。俺もメムもフォローしますから。」
「………ええ、どうせ見た目はお子ちゃまですよ。多分このミアンとミヤンに何か持って行かれているのよ。さあ返せー、返せー。」
「ま、ま、リーダー、落ち着いて落ち着いて。」
俺はそう言いながら、双子妹に飛びかかろうとするヘルバティアを急ぎ羽交い締めにする。
「いいでしょう、いいでしょう。こうなったらこの華束舞踏のリーダーとしてはちゃめちゃやってやるわよ!。覚悟はいい。」
こうしてリーダーも決定したのだった。
「じゃあ、今度こそ書類を出しましょう!。組合本部に行ってさっさとパーティ名を登録しちゃいましょう!!。さあ行くわよ、ダン。」
メムがさらにテンションを上げて俺を組合に行くように促す。
「じゃあ書き上げますので、そんなに急かさないでください。はいはいっと……。」
なんやかんやで書類を書き上げて、
「では俺とメムでこの書類を組合本部に提出に行ってきます。」
「そして私たちはこの後、鍛錬室で自主トレーニングするから。」
えええぇ、メムが何かに目覚めたのか自主トレなんて言い出すとは。というか私たちってことは、
「ちょっと、ダン。何ボーッとしてるの。そういうことだから、一緒に行くわよ。あなたがいないと私だけじゃ鍛錬室使えないでしょう。そうだ、昼食は組合本部の食堂で。」
驚きのあまり硬直した俺に向かってメムはそう言って一緒に組合本部へと。
「あ、はい、じゃ。ということで、ちょっと行ってきまーす。」
俺もメムにつられて慌ただしく組合本部へと向かっていった。
「はい、これでパーティの登録は完了となります。でも明日から臨時の警備隊員としてのお仕事が始まりますよね。」
セイクさんがちょうど勤務しているタイミングで受付にてパーティ結成の書類を提出し、確認してもらう。とりあえず書類上はパーティ結成は完了したことになる。
「まあ、俺が臨時警備隊員の間は、メンバーには各自能力向上やソロでの依頼を受けて活動することになるでしょう。」
「そうですか、わかりました。個人個人の能力の向上も大切ですからね。」
「うちのメンバーがセイクさんと相談しながら依頼を受けることは可能ですか。」
「もちろんです。ニシキ様のパーティメンバーでしたらそれは大丈夫です。彼女たちですよね。」
書類に記載されたメンバー表を見ながらセイクさんが了解してくれる。
「あと、これから鍛錬室を使わせてもらってもよろしいですか。」
「ええ、どうぞ。」
ということで鍛錬室へ行き、念話術で会話しながら、メムの自主トレ方法について考える。
(メム様、自主トレをするということですが、この鍛錬室でどういうトレーニングをなさるのですか?。)
(そうね、全般的な筋力の向上かしら。)
(ダイエットとかじゃなくてですか。日頃の暴食がたたっての。グハッ。)
(はいそこ、ダイエットじゃないからね。そんなこと言わない。)
なんて暴力的な解決法だ。久しぶりにメムの頭突きが俺の腹部にヒットする。
(ダンのやってるトレーニングもいいけど、それだとやっぱりこのグランドキャットな外形の私にはちょっと合わないというか効果的じゃないようなの。)
(はあ、そう言われればそうかもしれませんが、一体どうすればいいのか。うーん、……よくわかりませんが、やっぱりこういう場合は絶食するということで、筋肉量の割合を増やすという、グハッ。)
またまた頭突きが腹部にヒットする。
(だーかーらー、ダイエットじゃないと言ってるでしょう。なんで絶食することになるわけなのよ。私をおちょくっていない?。)
(いえいえ、どうしてもトレーニングの知識は人間として、この世界だとヒューマーというのでしょうけど、どう体力をつけていくかなので。)
(まあ、そうよね。神達はトレーニングしなくていいから私もその知識がなくて……。)
(まあ、効果的そうなのはまず一つ、壁登りとか。)
早速、壁に登って降りてを繰り返してみるが、爪もあるのであっさり登ってしまうし、降りるのもジャンプとバランス感覚がいいのか飛び降りて着地を楽々こなしてしまい、
(……何か違うわね。)
(では次は、この太ロープをつたって登り降りに挑戦しますか。)
(なるほどね、これなら……。)
そう言ってロープに上り下りをするが……、
(あの……ダン、これはアリなのだけど、今の私が求めているものじゃないのよ。ダメね。)
(え、ああ、そうですか。じゃあどこかでロープとかを買ってこういうのを下宿先のどこかに設置するのも考えますか。)
ゆらゆら揺れるロープが上りながらバランス感覚と筋力を鍛えてくれるようなのだが、これじゃないのならなあ。
(あとでロープを購入してみますか……。ああ、これはメム様の食費分から支払う形にしましょう。)
(え、それはないのじゃ、……いや、はい、その通りにしましょう。)
俺がメムをジト目で見つめるとメムが翻意してくれる。
(しかし、こうなるとメム様にちょうどいいトレーニングって何があるのでしょうかね。もうこうなったら、どこか無人島にメム様を放置してサバイバル訓練も兼ねてトレーニングみたいな……ダメですよね。)
俺はメムにジト目で見つめられてこの案を放棄する。
一旦昼食にしよう。