156弾 パーティ名を考えよう
「ええまあ、民の以前ほどの街への流入は落ち着いてきたようなのですが、……それでも人口が増えたことで、以前にニシキ様が想像されていた以上に問題が大きいもので。」
「うーん、資本も民も一気にかつ急速に流入したことでこんなことになろうとは。俺の考えていた以上の流入だったようですね。……予想が甘かったか。」
ある意味この状況を作った本人としては心苦しい。
「そんな、眉間にシワを寄せて言わなくても。組合本部の読みより民と資本の流入は想像以上だったのですから。でも一時期に比べるとかなり落ち着いてきていますから。」
「じゃあ、この街の今の状況も王都には伝わっているのでしょうか。」
リーゼさんの話を確認したくてそう言ってセイクさんに質問する。
「ええ、治安の悪化からはいろいろな問題が派生しやすくなるので、そう言った観点からも宰相府でこの街の現状について対策は練られています。」
ふむ、リーゼさんらにうまく伝わっていたようだ。
「警備隊総隊長からは、明後日に警備隊本部に来てほしいと言われています。」
「そうですか、ニシキ様の状況はわかりました。では明後日から32日間、臨時警備隊員としてお願いいたします。それと、お待たせしました。昇格の書類手続きが終了しましたので、晴れて冒険者ランク7級になります。」
そう言って書類の束を渡される。研修用資料とか、あ、後パーティ結成用の書類か。だから束になっているのか……。
ということで、下宿先に戻る。茶店はしばらく長期閉店になっている。
「どうでしたか、臨時警備隊員の話の方は。」
家の掃除をしていたヘルバティアが、作業の手を止めて俺に聞いてくる。
「ええ、明後日から臨時警備隊員として3日勤務1日休みの勤務形態で、一月間、32日間の勤務予定で依頼を受ける形になります。」
「私たちも参加することになるのでしょうか。」
同様に作業をしていたミアンも聞いてくる。
「いや、この特殊依頼は俺個人の話だから、パーティで行う依頼じゃないですからね。」
「じゃ、しばらくは私たちとパーティを組んでというのは。」
ミヤンも話に加わる。
「それについては、昼食後に少し話をしたいのですが。」
俺がそう言うと、
「そうね、今後のパーティの方向について、ということね。いろいろあってなかなか話し合いができなかった気もするけど。」
とヘルバティアが同意する。
「「それでは早速準備しますか。」」
そう言ってミアンとミヤンが何やら準備にかかった。
「では、今後の我々のパーティについていかに活動するか、その方向性を議論したいと思います。」
昼食と後片付けを早々に終えてすぐ、リビングダイニングの食卓でヘルバティアさんの仕切りで会議が始まる。でもこの絵面はまるで子ども議長のようだが。
「まあ私としては、……まずは満足できる食事を!。いてっ。」
俺の隣でメムがふざけたことを言っているので頭をはたいておく。
「メム様、そういうことを言うのではなくて、元の世界に戻るための活動をするとかそれについての具体策を述べるべきでしょう。華燭の典とモデル活動での美食大食い生活はもう忘れてください。それとも元の世界に戻ることを忘れ去ってしまったわけじゃないでしょうね。」
「わ、わかってるわよ。ちょっと言ってみただけじゃない。」
「もっと真剣に向き合ってください。メム様。」
俺とメムがいきなり脱線しかけてしまう。
「ま、まあまあ。まずはニシキさんとメムちゃんを元の世界に戻すことは基本線として、ですよね。」
ミアンはそう言って脱線しかけた流れを戻しにかかる。
「そういえばニシキさん、正式に7級に昇格したのだよな。それも考えると……、私たち個人の能力とランクアップも必要じゃない。」
ミヤンがそう言って話を続ける。
「ニシキさんが臨時警備隊員として依頼を受けてる間に私たち3姉妹でも個人個人で各種の依頼受けとか能力向上に必要な訓練とかをやってみようよ。」
「そうですね、俺もその意見に賛成です。」
俺はミヤンに同意を示す。
「なるほどですね、各個人の力を向上させることは必要ですからね。でも必ずしも一人にならなければならないとかではないでしょうね。」
ミアンは少し考えながら意見を述べる。
「能力向上等で行う訓練等の内容によっては一人でやることもないでしょうね。しばらくニシキさんが臨時警備隊員でいない間に私たちは能力向上の訓練等を行いましょう。そして、機会あればニシキさんにも訓練等で手伝ってくれれば。」
ヘルバティアさんが話をまとめにかかる。
「それはいいのですが、俺の手が空いた時でいいですか。あと、元の世界に戻るためにご両親の資料を確認することもあると思うのですがそれは大丈夫ですか。」
「元の世界に戻るための方向でいくからそれは当然のことよね。そうそう、あとは、……変装術の教育は終わっていないからね。」
げ、それ、あれだけあの師匠のディマックに散々ダメ出しされたけど、……本当にまだやるのか。
俺が少し動揺していると、ミアンが、
「あのぅ、話は少し変わりますが、私たちのパーティの名前を決めていましたっけ。」
と聞いてくるので、全員がハッとして互いの顔を見合わせる。
この後は夕食時まで、パーティ名をどうするかの議論が続き、パーティ名は決まらないままで夕食になった……。
「ふー。やれやれ、まあ今後の活動の方向性は大まかに決まったけど……。」
「えー、私の考えたパーティ名じゃ不満なの、ダンは。」
「当たり前です。あなたの考えたのは相当にヤバいものばかりですよ。何ですか、『メムと愉快な仲間たち』、『ハーレムチーム』、『女装趣味』、『美味いもの大食いしたい』、最後のなんてあなただけの願望じゃないですか。」
「じゃああなたは何か浮かんだの、考え中のままよね。ネタの浮かばない漫画家みたいなものよ。」
「う、うーん……。」
自部屋で、メムとパーティ名の案について話をするはずが、ダメ出しからの言い争いみたいになってしまう。どんなパーティ名にするかメムは何かこだわりがあるのか、それともただふざけているだけなのかよくわからないが、
「まあ、皆が納得するパーティ名にしたいけど、変なパーティ名にして笑われるのもなあ……。俺はそれが怖くて考え中のままなのです。」
「ああ、確かにあの『チキュー』みたいなことにはしたくないわね。……でも、ヘルバティアに考えてもらうの?。」
「それも結構ヤバいことになりそうなので……。」
ヘルバティアもパーティ名を考えたのだが、『メムちゃんとその仲間たち』とか『メムちゃん愛』とかやたらメムに対する愛情吹き出させてしまったネーミングだったからな……。
「うーん、星群華束というのにするか……。」
「はて、どんな文字を書くのかしら。」
メムがそう聞いてくるので、メモ紙に『星群華束』とかいてメムに見せる。
「こんな感じになるのですがいかがですか。」
「星の文字があるのは彼女たちは嫌なのじゃないかしら。彼女たちの両親がいたパーティが七つ星で星という文字が入っているから……。」
うーむ、そこまでは配慮が至らなかったか。メムの指摘に思わず顔を天井に向けてしまう。
「じゃあ、どうしましょうか。」
「……そうね、……えっと、華束舞踏というのはどうかしら。」
「さてどんな風に書けばいいのですか。」
そう言って、メムに確認しながらメモ紙にメムに言われながら『華束舞踏』と書き、それを見てメムが満足げな表情をする。
「これを提案してみればいいのじゃない。私たちに似合いじゃないかしら。」
「俺と、メムと、あの3姉妹を表しているのですね。メム様さ……。」
さすがと言いかけてふと思う。もしかして……、
「華は私を主にして3姉妹でしょ、そして3姉妹と私の先頭のコンビネーションをイメージして考えてみたのよ。彼女たちにもそう説明してみるわ。」
メムが少し得意げに俺に説明してみるが、
「あのう、このパーティ名に俺のイメージがなさそうなのですが……。」
「何言ってるの、ダンのイメージはこの華束には必要なものよ。」
「そうですか。一体俺のイメージは何でしょうか。」
「華束をくくる紐と兼ねて包み紙、それがダンのイメージよ。」
「……ヒドイ。」
俺はあまりにいい加減な扱いに床に手をついて崩れてしまう。
「冗談よ、冗談。そんなわけないでしょう。」
メムもさすがにこれは洒落にならないと察したのか、
「あれよ、いろいろな華よ、いろいろな、ね。みんな綺麗な華を咲かせることができるイメージよ。」
「じゃあ俺は、どんな華のイメージですか?。」
「……前世の華の種類でいうと、ダンは………ウツボカズラ!。」
「…もういいです。」
俺はガックリしながらベットに横になった。……俺の扱い悪すぎじゃないか?。