155弾 臨時で警備隊員しよう
「お世話になりました。リーゼ宰相補佐官殿にもよろしくお伝えください。」
翌朝小間使いにそう挨拶をして、宰相邸を出発しようとする。リーゼさんはかなり多忙のようで宰相と一緒に会議と視察に同行するということで早朝から不在になっている。
そこへ、ドラキャがやってきて俺たちの前に急停車して3人が降りてくる。
「ニシキ殿、今回は誠にありがとうございました。」
「本当に何とお礼を言ったらいいか、全てのお礼の言葉を述べても足りないくらいです。」
王都警備隊となったローウェルさんとグリュックさんが俺の両手を取ってお礼を言う。
「いや、何とかなってよかったです。2人ともどうか末長くお幸せに。」
こういうシーンで名台詞を繰り出す余裕もなく、ありきたりな返答であるが。
「いや出立間際に申し訳ない。街に帰られると聞いて是非にお礼の挨拶をしておきたいと言うことだったのでね。ああ、申し遅れた。当方は姓をアルシオ、名をレオーネルと言う。王都警備隊総隊長だ。」
ダークブラウンの髪をオールバックにした爽やかそうなイケメンがそう挨拶した。
「こちらこそ、挨拶が遅くなりまして、姓はニシキ、名をダンと申します。総隊長のお手を煩わせることになりまして申し訳ありません。」
「何、彼らのためにしたことだからね、ニシキ殿はよくやってくれたよ。今後とも何か機会があればよろしく頼むよ。」
「はい、こちらこそ。そしてこの2人をよろしくお願いします。」
「ハハハハハ、君はいい人だな。ああ、出立の邪魔をしたかな。道中と今後の無事を祈るよ。」
両手を取って別れを惜しむローウェルさんとグリュックさんの手を離してドラキャに乗る。
ドラキャはイチノシティに向けて動き出した。
「よかったわね。これで一件落着かしら。」
そう言いながらメムがドラキャの窓に目をやりながら手を振るローウェルさんとグリュックさんを見つめている。
「私もいつか……ああいう華燭の典をやりたいわ。」
ミアンが呟く。
「そうね、……そうね。」
ミヤンもミアンに同意するように呟く。
「さあ、交代で操縦するからね。みんなわかっているわね。」
ヘルバティアが少ししんみりした空気を変えるかのようにそう言ってドラキャを加速させる。
そうして途中の村で一泊をして無事にイチノシティに戻ってきたのだった。
イチノシティの街に戻ってきた翌日、メムと共に警備隊本部へ向かい、警備隊総隊長のメルクール・エリーさんに面会を申し込むと早速面会となる。
「いや、うちの者のためにニシキ殿にもずいぶん苦労せさてしまったね。まあ、解決のためにいろいろ骨を折ってくれてありがとうね。」
面会早々、お礼を言われる。
「すみません、いろいろ事態が急変したものでこんな形になってしまって。」
「本当だよ、まさかあの2人の駆け落ちに手を貸したのかと思ったからね。」
俺は式典ではあまり話できなかったのだが、リーゼさんはいろいろ説明してくれたようでメルクールさんもそれで状況を把握できたようである。
「しかしまあ、ニシキ殿はとんでもない解決策を考えるよ。この街でもなくジューノシティでもない王都に行かせて住まわせるなんて。でもおかげで固定概念が払われたような気がするね。」
「父君の方はどうでしたか。」
「この街まで来て大暴れしたグリュックの父君かい、それとも第十警備分隊副分隊長かい。」
「第十警備分隊副隊長です。」
「ああ、ギグス・ステファンなら女房にかっちり絞られたようだからね。そういえば、式の前日にも女房にこってり絞られていたようだけどね。」
ああ、式の前日の分は多分俺も巻き込まれたヤツだった。
「まあ、おかげで少し頭が柔らかくなったかな。やっぱり女房の教育は旦那には一番効果的なのかね。」
「そうですか。ところで、宰相補佐官から俺に話はあったのですが、臨時で警備隊員として勤務するということだそうですが。」
肝心の話について聞いてみる。
「ああ、結局のところそうならざるを得ない、補佐官殿にもいろいろ手を尽くしてもらったのだが、警備隊員を増員させる話と一緒に対応することになりそうなのだよ。ローウェルの代わりの隊員が王都から派遣されるのに少し時間がかかるのにはそういう話もあってね。」
「そうなのですか。よくわかりました。事情が事情ですから警備隊員の臨時勤務の話、受けさせてもらいます。」
「ああ、ありがとう。一応依頼という形をとるから、組合本部から依頼代金として支払われるからそれは認識しておいてくれたまえ。」
「で、このメムは自宅待機ですか。あとパーティを組むことになったのですが。」
「そうだねえ、この話はニシキ殿個人への依頼に近いからね、メムはいいとしてもパーティメンバーを連れてくるのは……今はなしかな。それに宰相邸でいろいろあったのだろう。明後日から来てくれればいいよ。」
「当座の間といいますが、どのくらいを目安にするのでしょうか。」
「うん、32日間を目安にするさ。3日勤務1日休日のペースで勤務してもらう。夜勤をやってもらう必要は今のところないからね。」
「では、臨時警備隊員として何をすることになるのでしょうか。」
「巡回と街に入ってくる者のチェックだな。まあニシキ殿には巡回の方をやってもらうことになるだろうけどね。詳細については明後日にここへ来てから説明することになるよ。でだ、この後は組合本部の方にも回ってこの話について説明を聞いてほしい。」
「承知しました。ではこれから組合本部に行ってきます。」
「ああ、明後日から臨時警備隊員だな。ニシキ殿の力に期待しているよ。」
「微力を尽くします。では失礼いたします。」
ということで、明後日からか……。何か奇妙な気分であるが。とにかく次は組合本部へ向かう。
「ああ、ニシキ様。お待ちしていました。」
組合本部に入ると、早速セイクさんが寄ってきて受付に一緒に向かうことになる。
「しばらく留守にしていましたので……。臨時警備隊員の話はもう聞いているのでしょうか。」
俺はそう言って確認する。
「はい、宰相補佐官からも警備隊総隊長からも組合本部長に話は通っていますので。ところで、華燭の典に関わっていたとか。ぜひお話を聞きたいものです。」
「……えっと、俺たちが留守中に何かあったのですか。」
「警備隊員の駆け落ち騒動がありまして、娘さんの父親という方がここの警備隊で大暴れしたとかニシキ様がまた駆け落ちの手伝いをしたとか……。」
えらい噂になっているが……。というかまた駆け落ちの手伝いって、その一件はあなたも関わった依頼なのですが。とはいえセイクさんの表情はまさに興味津々といったところである。
「そのう……話せば長くなりそうなので後日ということにできませんか。俺も警備隊総隊長からここに行くように言われたものですので。」
「ああ、そうでした。支払いのことについて説明をするのですがよろしいですか。」
「はいわかりました。」
「とはいえ今回特殊な依頼の形になりますので、支払いは目安の32日を終えた翌日に支払います。もし、その期間内で勤務中に怪我した場合の治療費用については全額警備隊の負担になります。今回特殊なというのはこの部分があるからです。」
「じゃあ、期間終了後に書類を受け取ってこっちに持ってくればいいのですか。」
「ええ、約1ヶ月、32日、3日勤務1日休日、夜勤なし、この条件で依頼完了時に28万クレジット支払います。ボーナスはありません。」
金額は条件的にはまあ妥当か。まあ人手不足とはいえ、今回の件は俺もそれを承知で受けているからな。
「予想以上に警備隊員が人手不足で今他の冒険者の手も借りている状態です。」
続けてセイクさんがそう言ってくるのを聞いて、
「え、そこまでの状況ですか。」
思わず俺はそう呟いてしまう。