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154弾 これで帰る準備をしよう

 結局、昼食後は絵のモデルも終わったので街へ帰る準備をしている。しかし長い留守だったなあ。ローウェルさんとグリュックさんをここに連れてきて華燭の典を行い、モデルをして同時にヘルバティアに料理教育を受けてもらって、明日の朝には戻るから……一泊二日の戻りの行程なので街を結局11日開けることになるのか。

 そう思っているとドアがノックされて、小間使いを通してリーゼさんから呼び出しがかかるのでメムと一緒にリーゼさんの私室に向かう。

 リーゼさんの私室に入ると、


「聞いたわよ、ダンちゃんもモデルをしたのだってね。」


 満面の笑みでいきなり俺にそう言い出す。


「ええ、どんな絵になるのかわかりませんが……。」


 正直こんなことになるとは思わなかったので困惑の気分である。


「絵が仕上がれば連絡をするからモデルとして見にいらっしゃい。」


「はあ、そう言えば聞こうと思ってなかなか聞けなかったのですが、今回描かれた絵はどこかに展示されるのでしょうか。」


「まあ、絵の出来次第になるけど、新作展に展示して評価を受けて売買の対象となるでしょうね。そのあとはどこかのお金持ちが買い取るか、この宰相邸に飾られるか、まあ王家嘱託画家の絵だから優先買取権は王家が持つのだけど。何か心配事かしら。」


「……いや、モデルのせいで駄作とかの評価を受けたらどうしょうかと。」


「そんな心配はしないでいいわよ。」


 そう言ってリーゼさんは吹き出す。


「わかりました。では明日にはここを立ちます。華燭の典、料理教育、お骨折りいただきありがとうございました。」


「こちらこそ、結構楽しめたから。」


 リーゼさん、器でかいなあ。俺は感心してしまう。


「補佐官の仕事も多忙そうな中、本当にありがとうございました。」


「そんな、いいわよ。……ところで。」


 そう言ってリーゼさんの表情がスッと微笑からシリアスな顔に変わる。


「イチノシティの組合本部長のマックトッシュ・マーグレノア、あなたとはディマック・パトアイとして関わる形なのよね。ちゃんと組合本部長としてのお仕事をするように釘を刺しておいてね。多分変装術で組合本部長の仕事を部下に押し付けて、イチノシティの街のどっかに出没してるはずだけど。まあ、私がよろしく言っていたと伝えてくれればいいと思うから。」


「……ディマックの時には組合本部長とは言わないようにしておきますが、それでよろしいでしょうか。」


「組合本部長の仕事をサボりすぎているようだったら、ディマックの時に組合本部長と言ってあげれば奇襲として有効じゃないかしら。でもまあそこはダンちゃんに任せるわ。」


 えらい丸投げ感があるが。


「わかりました。やれる限りのことはやってみて、組合本部長のお仕事をきっちりやるように圧をかけておきます。」


 一応殊勝にそう答えておく。


「いい返事ね。あと、あの3姉妹のヘルバティア、ミアン、ミヤンについては基本的な小間使いのこともきっちり教育しておいたから。仕込みはバッチリよ。」


 とリーゼさんがニヤニヤしながら言ってくる。


「はい、街に帰ったら臨時で短期間の警備隊員として勤務するので、俺とともにあの3姉妹も使えることになりますね。重ねてありがとうございます。」


 俺がそうお礼を言うと、


「……ま、まあ、そうね。」


 リーゼさんが歯切れ悪く反応して、顔を天井に向ける。なぜかメムは顔を斜め下に向けてクスクスと笑っているようだが。


「……ふぅ、ごめんなさいね、私としたことが、ちょっと落ち着きのないことになって。明日は時間があれば見送りもしたいけど、このタイミングでしか面談する時間がなかったからね。絵が完成したら見に来てもらうわ。」


 天井に向けた顔を俺に向け直してそう言ってくれて、話は終わった。



「あら、どこかに行っておられたのですか。」


 ゲストルームに戻ると、俺たちの部屋の前でヘルバティアら3姉妹が待ち構えていた。


「いえ、宰相補佐官のリーゼさんに呼ばれていましたが、何かありましたか。教育は終わったようですが。」


 俺が尋ねる。


「ええ、ちょっとお手伝いをお願いしたくて。」


「何をすればいいのですか。」


「私たちのドラキャへ荷物を運んで欲しいのです。」


 ミアンとミヤンがそう言って彼女らのゲストルームから箱を部屋の前まで運んでくる。


「えっと、これを運ぶのですか。」


 ちょっと重そうだが……。


「結構重たいので交互に運びましょう。これが2箱あります。」


「中身は何ですか。」


「私たちが今回の教育で学んできた資料になります。家に持ち帰ります。」


 ヘルバティアがそう言ってみんなでその2箱をドラキャまで運び込む。

 ドラキャに収納して再びゲストルームに戻り、帰る準備にかかる。とはいえ荷物はそんなにないので夕食まで時間が空くことになる。


「ふぅ、とりあえず帰還準備は終了ですね。メム様、どうしたのですか、ボーッとして。」


「……ああ、もう一度モデルをしたいわね。」


 とりあえずメムの頭をはたいておく。


「ちょ、ちょっと何するのよ。」


「メム様、そろそろ現実に戻りましょう。ここでの生活は終わりです。」


「えー、嫌だ嫌だ。……あっそうだ、ダンがここであのリーゼの、補佐官の仕事を手伝ってここに住み込みで働けばいいのじゃない。前にあなたをスカウトしていたし。」


「………本当に元の世界に戻る気はあるのですか。……というか女神がここの生活に慣れきって堕落してどうするのですか!。」


 俺は完全にこの元女神猫に呆れて果ててしまい、ツッコミも厳しめになる。

 そこへドアをノックする音がして、


「ニシキさん、今いいですか。」


 ヘルバティアの声がするので、


「今ちょっと取り込んでいて……。」


 俺がそう言いながらドアを開けると、3姉妹が一挙になだれ込んできたのだった。



「随分と強引に入ってきましたが、一体何用で。」


 俺が3姉妹に呆れ気味に声をかけると、


「ちょっと強引だったのは認めますが、今後について確認したくて……。」


 ミアンが少し伏し目がちにそう言ってくる。


「今後の話って?。」


「いえ、街に戻ってからパーティを組むのでしょうけど、元の世界に戻るためにどうするのか私たちなりに考えて見たのよ。」


 ミヤンはメムを見ながら今後の話の要点を告げる。


「ふーむ、意欲はありがたいのですが、まず街に戻ったら、臨時で警備隊員をすることになるので。」


「え、そんな、どうしてまた。」


 当てが外れた様子になったヘルバティアが問いかける。


「……うーん、今回の華燭の典を実施するためにリーゼ補佐官の力を借りたわけですが、その借りを返すため、なおかつ、ローウェルとグリュックは王都で警備隊員として編入することで、イチノシティの警備隊員の代わりを入れてもらうことにはなったが、すぐに来れない。その代わりの人員として俺が当座の間、警備隊員となることになりまして。」


「原因を解消させたけど、別の事態が発生したということですね。」


 ミアンは納得しながら言う。


「もうちょっときっちり解決しなさいよね。ダンは全くツメが甘いのだから。」


 メムが話に加わる。というか、そう言うお前がこれらの問題の大原因なのだけど。


「まずは臨時警備隊員として警備隊総隊長と話をすることになるでしょう。」


「じゃあそれが片付いたら、私たちと一緒に元の世界に戻る手がかりを探すことになるのね。」


「そうですね。ヘルバティアさんの言う方向でいいと思うのですが……。」


「何か煮え切らない言い方ですね。何か気がかりなことでもおありですか。」


 そう言いながらミヤンが俺を怪訝な表情で見る。


「いや、研究とか検討とかしなければいけないことが多々あって……、それで煮え切らない言い方になったのでしょうけど。まあ、そういう話は家に戻ってからにしますか。」


「確かにそうですね。」


 ミアンが同意を示す。

 そこからしばらくメムと3姉妹とで今後について話をして夕食をとり、眠りについて翌朝帰宅にかかる。

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