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151弾 今度は絵画のモデルをしよう

 華燭の典の翌日、不貞腐れているメムに話をしてみる。


「あのー、メム様。華燭の典は終わりましたが、メム様にいいお話があるのです……。」


「ダン、随分と怪しい物言いね。わかっているかしら、こんな不満足な量では今ひとつ納得できないのよね。」


「ええ、ですのでしばらくここに残って、そのいいお話を聞いていただけますでしょうか。」


 俺はメムにものすごく(へりくだ)る。


「いいお話って何よ。」


「絵のモデルです。」


「はぁ、舐めてんの、この私を。どこがいい話よ。前にも断ったわよね。どうしてその断った話を持ってくるのよ、ダン。」


 けんもほろろとはこういうことか……。こうなったら思い切って言ってみるか。


「じゃあ、はっきり言わせていただきますが、一昨日の夜、俺が『この華燭の典のためにできることは何でもやる、と言いましたからね。その気持ちは変わらないのでしょう?。』と聞くと、メム様はこう言いました。『もちろんよ。こんななりでも女神の端くれよ。こっちのわがままにダンは応えてくれたのだから。』と。」


「あ、まあそうだけど、もう終わったわよね、華燭の典。」


「でも華燭の典をやれと言ったのはメム様ですよ。ここまでリーゼさんが、宰相補佐官が骨折りしてくれて、こっちもいろいろお願いした立場ですよ。と言うかできることは何でもやると言って、華燭の典が終われば手のひら返しですか。……ここで借りを返すこともできないのじゃ、メム様は女神の端くれどころか女神の端クズ、いや女神の端クソになりかねませんよ。これからメム様じゃなくクズクソ女神として扱いますがいいのですか。まあ、この女神は言ったことをも守れず手のひら返しするようじゃ、俺たちが元の世界に戻った所で、ラメド様とかの他の神様たちに思いっきり馬鹿にされるのじゃないですか。」


「むーー、それは嫌よ。でもねえ、食事はよかったのよ、味は、味はね。でも量が私の予想より少なかった……。」


 勝手に想像しておいてそれはないのじゃないかとは思うが……。


「あー、そうですか。女神のくせに随分器のちっちゃいことで……。モデル料として美味な食事をたっぷり出すと言う話もあるのですが、まあ、モデルを固辞しますと言うことで……、どうしたのですか。急に俺の背中にしがみついて。」


「何、先言ってよ。モデル料として食事を、美味な食事をたっぷり出してくれるのなら話は別よ。喜んでやらせてもらうわ、絵のモデルを。」


 そう言ってメムは俺に顔を近づけて頬をすり寄せてくる。やっぱりずいぶん現金なことで……。

 昨日の華燭の典の後にリーゼさんと話をしたことを思い起こす。



「お疲れ様、ダンちゃん。司会進行までやらせてしまってごめんなさいね。」


「いいえ、いろいろお骨折りいただきありがとうございます。」


 俺はそう言ってリーゼさんに頭を下げる。

 ここはリーゼさんの私室、式典はお開きとなって、ローウェルとグリュックの2人は、早速引っ越し準備にかかっている。来客は一旦各自のゲストルームへ戻り、明日朝には各自の街へ戻ることになるが。


「いいのよ、やっぱり人の恋愛をここまで持ってくるのは楽しいというか、本当いい事をしたという気持ちになるわ。あなたもそうでしょう。」


「……すみません。急に司会進行までやったら、精神的に余裕がなくなってしまいました。心の疲労が抜ければそう思えるかもしれません。」


 リーゼさんがクスリと笑う。そこへノックの音と共に


「リーゼ様、予定の来客がお越しになりました。」


 小間使いがそう言って、ドアを開けてその来客をリーゼさんのところまで案内する。

 変わったヒゲをした老人だなあ、顎ヒゲが左右に分かれている。口ヒゲは何か前世の歴史の教科書で見たカイゼルヒゲみたいな感じか。


「補佐官殿、いやさ、リーゼ殿、お話のあったグランドキャットのモデルの飼主はこの方ですかな。」


 ヒゲにインパクトを持たせた老人は俺を見るなりそう言った。


「ええ、そうよ。紹介するわね、こちらがそのグランドキャットの飼主のニシキ・ダン。この方は王家嘱託画家のルノピカンク・アルフビント。」


「お初にお目にかかります。ルノピカンク殿、いくつか作品は拝見しています。」


「ふむ、どうかね、わしの作品は。」


「……正直まだ絵の出来に満足してない思いは感じられます。もっと上手くなりたい、まだまだ上手くなりたいという気迫を作品に観ました。」


「……面白い事を言う。ところで話は聞いていると思うが、あの黒のグランドキャットをモデルにさせてスケッチをさせてもらいたいのじゃ。」


「それは構いませんが、あのメムが言う事を聞いてくれるかどうかが最大の問題で……。」


「まあ確かに、それはあるからな。益獣といえど、そう長時間じっとさせるわけにもいかないだろうし、うまくじっとさせる手があればいいのだが……。」


「もし可能であるならリーゼさんに一つ協力というか、昨日も話したのですが、大量の食事を食わせて大人しくなっているところをスケッチなりしていただければ、まあ言うなれば餌付けですね。」


 リーゼさんが苦笑いをして、


「まあ、そうなるのね。メムちゃん、今日の宴の食事の量には物足りなくて不満げな感じだったようだし。」


「ええ、ですからモデル料として大量の食事を。」


「わかったわ。」


 これで元女神猫を何とか絵のモデルにしてみるか……。


「ところで、ルノピカンク殿はこのメム、グランドキャットをモデルに何を描かれるつもりですか。」


 俺が覚えているのは、確か黒猫を描いた絵画で菱田春草に竹久夢二の作品だったかな。


「うーむ、このグランドキャットを静物と並べて対比した絵を描いてみようかと思うてな。前に生徒だったリーゼのいやリーゼ殿から話は聞いていてな。」


「へえ、リーゼさんは絵を習っておられたのですか。」


「いやねえ、教養の一環よ。絵以外にも音曲などいろいろ学んでいたわ。」


 俺は驚くが、教養の一環としてか、でも王家嘱託画家に習うのもすごいことのような気はするが。


「リーゼ殿に教えていた頃は、まだわしも王家嘱託画家ではなかったからな。この方は意外と見る目があるのかもしれないとは思ったが。」


 なるほど、だから王家嘱託画家になったのかなあ。ルノピカンクさんは話を戻す。


「まずスケッチを何枚か描くことになる。それをベースに制作作品に入れていくことになろう。静物と一緒に益獣を描くと、益獣が静物に接触したりして物が壊される危険性もあるでな。」


「なるほど、そのためにメムのスケッチをということですか。では期間はどのくらいかかるのですか。」


「そちらの負担もあるのでな、3日以内に終わらせよう。」


「わかりました。」


「じゃあ、メムちゃんを上手く説得してね。ダンちゃん。」



 ということで説得の決め手はやっぱり食い物でした……。


「メム様、じゃあ本当にモデルをやりますね。」


「いいわよ、その代わりいいものが食い放題なのね。」


「常識の範囲内で食べてください。50人分とか100人分とかは無しですよ。」


「大丈夫よ、ここの宰相邸の料理は私にはとってもいい感じで満腹中枢を満たしてくれるの。そんな大食いしないわよ。」


 なんか信用できない。


「ではモデルはちゃんとやってくださいね。」


「なるべくじっとしていればいいのよね。」


「お願いします。」


 そう言って、宰相邸の庭先に行くことになる。途中で、3姉妹が小間使いとして臨時に働く様子も確認する。

 ヘルバティアの料理教育として時間もあまりとれないので、臨時の小間使いとして料理の特訓を受けてもらうことになる。

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