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150弾 華燭の典を行おう

 乱取り稽古の反省と今後についての課題を洗い出しつつ、魔術研究についても話が及び、夕食前まで何だかんだと話は続いた。

 そのまま夕食をとり、小間使いから伝言を受ける。

 華燭の典の前夜、伝言で、夕食後にリーゼさんに呼び出される。呼び出されたのが俺一人というのは何かあるのだろうか、と考えてしまう。


 リーゼさんの執務室の部屋のドアをノックして


「ニシキ・ダンです。入ります。よろしいでしょうか。」


「どうぞ、そのまま入ってちょうだい。」


 ドアの中から声がするので開けて入る。


「まず座ってちょうだい。」


 と執務用の机の前にある椅子を勧められる。


「失礼します。呼び出しの用件はなんでしょうか?。」


「あなたに朗報よ。2人の王都警備隊への編入が決まったわ。手続きも全て完了。」


「では、ローウェルさんとグリュックさんはここで警備隊員として夫婦としても新生活をこの王都でできるのですね。」


「ええ、ただイチノシティへの代わりの警備隊員の派遣は少し遅れるわ。それは承知してちょうだい。」


「ジューノシティには派遣できるのですか。」


「もともと私と父はジューノシティ出身だからその関係で伝手があってそちらへの代わりの警備隊員は派遣できるのだけど。イチノシティの方はかなり街が好景気で住まいが不足気味という話があってね、そのために遅れるの。」


「いえ、俺みたいな者のための願いを聞き届けてもらったのですから、十分です。ありがたいです。」


「それに、イチノシティの警備隊員不足の問題もあるわね。それも対処を考えているから。まもなく……3ヶ月後には警備隊員不足も解消されると思うわ。まあ訓練は必要になるでしょうけど。で、あなたに折り入って頼みたいことが二つあるの。」


「もしかして、イチノシティに帰ったら臨時で短期間の警備隊員をやってほしいとかですか。」


「あらいい読みね。その通りよ。」


 うーん、俺が臨時で短期の警備隊員か……。


「ふうむ、今回の華燭の典の実施にお骨折りいただいたのですから、その話を無下に断るわけにはいかないでしょう。で、もう一つは何でしょうか。」


 リーゼさんが声を潜めて話をする。


「あのね、これをお願いしたいの。前に話したと思うけど。」


「うーん、でしたら食事を使ってはいかがかと……。」


「そうね、そうしてみるわ。」


「あと、その間パーティメンバーの面倒も見ていただくことは……。」


「ええ、可能よ。」


「併せてその間にチャティーア・ヘルバティアを中心に教育していただきたいことがありまして。」


「何を教育して欲しいのかしら。」


「まずこのお願いにどのくらいの時間と日数がかかるのか、それを押さえてからが良いかと思います。」


「それもそうよね。じゃあこれらの二つの頼みはダンちゃんも了解したということで。」


「ええ、わかりました。」


「明日の夫婦披露目の宴の後にいろいろとお話はするけどいいかしら。」


「はい、承知しました。ある意味これで貸し借りなしになった気がします。」


「あら、貸し借りなしね、まあそうだけど。でも、私としてはあなたをこっちの仕事に誘いたいからね。まだ諦めてはいないけど。」


 それは諦めて欲しい……。かなり忙しそうだし……。


「ではこれで失礼します。ありがとうございます。」


「ええ、こちらこそ、夜分にありがとう。」



 ゲストルームに戻ってくると、メムが静かに寝ていた、ように見えたが、俺が戻ってきたのに気がついたようで、


「こんな夜に補佐官のところへなんてどういうことかしら。」


 俺の目をじっと見つめて聞いてくる。さてなんと答えようか。


「……そうですね、華燭の典を行ってくれる協力に関してのお礼ですよ。俺からと向こうからと。あの補佐官の協力、助力がないとこの策は成り立たなかったのですから。しっかりお礼はしますし、協力もしますし、借りも返すことになりますので。」


「……まあ、確かに。おかげで私も華燭の典に出れるわけね。」


「そうですよ。それにメム様はこの華燭の典のためにできることは何でもやる、と言いましたからね。その気持ちは変わらないのでしょう?。」


「もちろんよ。こんななりでも女神の端くれよ。こっちのわがままにダンは応えてくれたのだから。」


「でも、明日が本番ですからね。少し早いけどもう休みましょう。」


 そう言って俺はベットに横になる。

 翌朝、慌ただしく朝食をとって、式典の準備に入る。



 そうして、無事に華燭の典は始まった。

 最初は夫婦誓の儀式、ローウェルさん、グリュックさん共に質素に行いたいという希望を出していたようで単純化されているが、立会人役の前で各人が宣誓文を読み上げ、夫婦になることを立会人が確認して、夫婦契約の書類を仲人が確認した上で立会人が裏書きするものである。しかしその契約書類は夫婦の契約内容によってはかなりの枚数になるという。それをある程度確認する作業があるから時間はかかる。で、介添役は夫君と夫人のその書類を預かる役をする。

 とはいえ、当の2人は質素に行うことを希望して実施しているからか、書類の枚数はそう多くないし、書類を預かる量も少なくて済む。サクサクと進行している。

 契約書類の確認の後は、


「ギグス・ローウェルとメモン・グリュックはここに夫婦となったことを確認する。立会人、アルトファン・リーゼ。仲人、アルトファン・リーゼ。」


 立会人役兼ねて仲人役の宰相補佐官のアルトファン・リーゼさんが厳かに述べる。


「「私たちはこれで夫婦になったことを宣言し、夫婦として生きることを誓います。」」


 宣言文を読んだのとは別に、最後に二人そろってそう誓いの言葉を発して夫婦誓の儀式は終わることとなる。



「まず半分が終わった、ということか。」


 俺は呟く。

 介添役も結構しんどいな。新夫婦の後ろで夫婦に渡された書類を回収して預かるだけの役だが、この後の夫婦披露目の宴の最初に、夫から妻へ、妻から夫へのギフト交換で介添役をやることでお役御免となる。介添役は俺とリー・リンさんがやっているが、夫婦披露目の宴まで少し時間は開いている。そんな時に、


「ちょっと、ダンちゃん。」


 リーゼさんが手招きをする。


「はい、何かありましたか。」


「急なお願いなのだけど、進行役をやってくれないかしら。」


「はあ、何のですか。」


「……これから行われる夫婦披露目の宴の司会進行を。」


「…………え、………なんて。」


「夫婦披露目の宴の司会進行を。……お願い、司会進行を予定していたうちの小間使いがどうも急な腹痛で苦しんでしまって、代わりの人間があなたぐらいしか思いつかないの。お願い。」


 そう言ってリーゼさんが頭を下げる。


「ふう、ところでその急な腹痛になった小間使いは大丈夫なのですか。」


「今のところは薬を飲んで自室で休んでいるわ。医術師の手配をしているところよ。」


「まあ急ですが、わかりました。昨日の会議で話してた卓台に司会用の原稿はあるのですね。」


「ええそうよ、急で申し訳ないのだけどお願いするわ。原稿に従ってやればいいから。」


 もうしょうがないか。ここまできたらある意味ヤケのヤンぱちだ。これが清水の舞台から飛び降りるということか。妙な心境になっている。



 ということで、介添役をしながら司会をするという結構な役をも引き受けてしまった。

 司会進行はまあなんとかなった。無事に夫婦披露目の宴も終わった。終わった後、宴の参加者と挨拶を交わす。リー・リンさんとも軽く挨拶をする。イチノシティ警備隊総隊長からは、今後の臨時警備隊員を俺がやることについて話があり、ジューノシティ警備隊総隊長からは解決策を見つけたことにお礼を言ってくれた。新夫婦の両親からもお礼を言ってもらったが、ステファンさんとルディオさんがなぜか表情がなくなっていたのは気にしないでおこう。

 そして、メムは、


「何だろう、美味だったのだけど、美味だったのだけど、量が、量が足りないのよ。」


 華燭の典での宴の料理の味を堪能したが、量が不足だった模様である。まあ質素に行ったのだからそんなに大量に食事が出るわけでもないからな。

 俺は突然の司会進行のためか余裕がなく、宴での料理の味も何も分からないままであった。

 結局、何だかすごくモヤっとした感だけが残ってしまった。

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