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149弾 この稽古場で反省しよう?

「あのー、俺もこうしてなきゃダメなのでしょうか……。」


 なぜか俺もステファンさん、ルディオさんと一緒に稽古場の中央で正座させられて両夫人に睨みつけられている。3姉妹とメムは稽古場の隅で申し訳なさなそうに俺を眺めている。

 その俺の意見を無視して、ルティナーさんが口を開く。


「明日は華燭の典ですからね、そうあれほど言っておいたのに何をしているのですか。」


 それに引き続き、グレイズさんが


「稽古と言いながら、この前からの決着をつける、とか考えていたのではないですよね。」


 両夫人は静かに怒りを燃やしている。


「だってしょうがないじゃないか、いい若い者がいい稽古をしているのを見ると、俺もつい血がたぎってな。年甲斐もなく熱くなったんだ。」


 とステファンさん。


「いやあ、あんな見事な乱取りを見せられたら俺も若い者に負けたくないって気になってな。つい熱くなっちまったぜ。」


 とルディオさん。

 やっぱりこの二人は似た者同士だ……。


「明日が何の日かわかってらっしゃるのかしら。熱くなってしまう前にそれを理解するべきじゃないの。」


 とルティナーさん。怒鳴りつけたりしないこの淡々とした口調がより怖い。


「そう言って誤魔化されはしないですからね。わかっているかしら、あなた。」


 こちらのグレイズさんは後で何かしてきそうな怖さがあるが。


「ニシキさんはなぜ止めなかったのかしら。」


「ええと、この2人が俄然やる気になっていて、とても止めるなんてわけにはいきませんでした、不可能でした……。」


 ルティナーさんが聞いてくることで、こっちにとばっちりが回ってくるが、この2人のオッサン相手にまとめて格闘のみでやり合うなんて俺には到底難しい話である、理不尽だ。そう思いながら言い訳をする。


「そういえば、一緒に稽古していたわけだったのですか?。」


 グレイズさんがふと尋ねてくる。


「いえ、俺とメムとこの……俺のパーティメンバーのチャティーア家の3人で先に乱取りをしていたら、この2人が後から入ってこられて……、俺も無理くりこのルディオさんと乱取りすることになって、その後2組の稽古を見てから……こうなりまして。」


 オッサン2人の視線がキツい。別にあなたがたを両夫人に売ったわけじゃないのに、この裏切り者みたいな視線はやめてー。


「そうですか、なるほど。どうでしょうか、グレイズさん。この方はもういいのでは。」


「そうですね、ルティナーさん。もういいでしょうね。巻き込まれただけでしょうから。」


 俺の微妙だった立場を理解はしてくれたようだ。


「ニシキさん、もういいですわ。」


「かえって巻き込んでしまったようで。」


 そう言って両夫人が俺を立たせて一礼する。


「では、あなた、一緒に部屋に戻りましょうか。稽古はもう終わりです。立ちなさい。」


「そうですね、そうしましょう。オラ、さっさと立って歩け!このバカ野郎。」


 ルティナーさんの淡々とした命令とグレイズさんの最後の大声での命令はどちらも迫力満点であった。


 最初に稽古場に来た勢いはどこへやら、両夫人の見えない鎖で引きずられていくような悲哀を漂わせながら、まるで売られていく子牛のようにトボトボとステファンさんとルディオさんは去って行った。



「なるほど、人生の墓場か……。」


 両夫婦が去った後、俺は一人呟く。妻をめとらば、なんとやら。


「なるほど、ああやって夫をコントロールするのか……どっちも参考になりますね。」


 ミアンが何か恐ろしいことを呟く。

 その呟きを聞いたヘルバティアとミヤンが大きく頷く。

 もう早いうちにそんなことを覚えたら、あの3姉妹それぞれの夫になる奴はもう人生の墓場行き確定かな。

 そう思いながら、


「では稽古は終わって部屋に戻りますか。」


 と俺が言うと、皆淡々とゲストルームに戻ったのだった。



「ニシキさん、結構手加減というか遠慮してましたね。」


 3姉妹のいるゲストルームに集まっている中で、ミアンが乱取り稽古の反省会を始めるべく口火を切った。

 汗を拭いて稽古着から普段着に着替えて、反省会をするからというヘルバティアの指示でこのゲストルームに集合させられている。


「まあ、明日は華燭の典なので、あんまり激しい稽古をして怪我でもしたら後が大変ですから。」


 ミアンに言われて俺も反論する。続けて


「それに、あの二人が夫人に怒られていたのは明日は華燭の典であるのにということでしょうから。」


 と俺が継ぎ足す。華燭の典の当日になって前日の激しい乱取り稽古で怪我しましたので式典に出れません、なんて新郎新婦の父親がやらかしたら洒落にはなってないだろうからな。


「だから、ミヤンに顔面への殴打をしなかったのね。」


 ヘルバティアが納得した様子で俺に確認する。


「ええ、そうです。明日のことを考えて怪我しないようにするのは逆に難しかったですが。」


「要は手加減されたってことか。」


 ミヤンがムッとする。


「いえいえ、これでも必死で考えての選択ですから。あまり女性の顔面を男性が殴るものではありません。前世でそういう教育を受けてきたもので。」


「ふーん、そんな教育を。」


「ええ、そういう教育を受けました。もし実戦なら、俺の状態が完璧な場合だとミヤンさんだけ相手ならきっちり叩きのめすことになります。」


「う、まあ、これで3連続でやられたなあ。」


 ミヤンがため息をつく。


「実際あの時は双子のコンビネーションは結構きつかったですから。ミヤンさんはそれに攻め方も今回変えてきてましたね。」


「でもうまくいかなかった。」


「使い所が悪かったのでしょう。しかし、ヘルバティアさんとミアンさんの乱取りは高度な技術がふんだんに使われてましたね。」


「ミヤンは熱くなりやすい所があるからね。それがミアンとの差かしら。」


 ヘルバティアが姉の顔を見せる。


「先を読み合っての足の動きでしたね。俺も見事としか言いようがありません。」


「でも体格差で打ち負けたわ。しかしメムちゃんも中々やるわね。」


 ヘルバティアが悔しそうな顔をしながらメムにも言及する。双子妹たちも大きくうなずく。

 メムが一瞬ドヤ顔をするが、


「結局ダンは手加減したでしょ。」


 と不満げに俺に向かって言う。


「いいえ。メム様も攻撃の手段に縛りをつけていたのじゃないですか。噛みつき攻撃を意識してでしていたのじゃないですか。爪を出してもいなかったです。」


「なんだ、ダンは気づいてたのね。私も女神の端くれよ。力をつけるためにはそういう縛りをつけて戦ってみるのもアリじゃないかと考えたのよ。」


「それに気づいたから俺も拳打のみで対抗する縛りを入れて稽古したのです。でも拳を当てた瞬間にうまくインパクトを逃していましたね。」


「ふふん、わかるのね。そう、私が生み出した技術よ。まだ完全じゃないけど。」


 と言いながらドヤ顔になるメム様である。

 3姉妹は少し唖然としている。


「えっと、グランドキャットならではの技術なのかしら……。」


「受け流しは武器を持ってる時にやれるものじゃなかったかしら。」


「そんなことがヒューマーでも可能なのか。」


 3姉妹の3人3様でのコメントありがとうございます。


「見直しました、さすがメム様です。」


 俺は感心してそう言ってしまうが、


「何を見直したのかしら。素直に言ってちょうだい。」


 メムがギロリと俺を睨みながら言う。あっ、しまったか、これは。


「い、いえ、こういう格闘術なんて女神様には難しいのかなと思っていましたが、特訓を重ねていたのですね、見直しました。ということです。」


 少々慌てながら、多少のハッタリを言う。

 正直、今回の件をかんがみて、本当に食い意地がはってるだけのポンコツ女神かと思っていましたが見直しました、とは口に出しては言えない。


「ふーん、そういう意味なのね……。」


 メムがまだ納得しきれないという表情をする。


「そうです、そうです。しかし最後のステファンさんとルディオさんの拳打による乱取り稽古はすごかったですね。」


 俺は結構強引に話を変えてみる。


「確かに迫力はあったけど……。」


「あれだけの打ち合いは、私の参考にはあまりならない気もするわ……。」


「ちょっと引いてしまったな。」


 3姉妹全員、いまいちお気に召さなかった様子である。

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